週刊東洋経済:特集「貧困の罠」 生活困窮者を門前払い、北九州市・生活保護“水際作戦”の非道 など

2007-02-17 22:40:59 | 社会
19日(月)発売の週刊東洋経済が、
「あなたは無縁だといえますか… 貧困の罠」
という特集を組んでいます。
http://www.toyokeizai.co.jp/mag/toyo/2007/0224/index.html

「生活困窮者を門前払い、北九州市・生活保護“水際作戦”の非道」
というタイトルで、「闇の北九州方式」を告発する記事も掲載されます。

他にも、
・児童扶養手当削減に怯える働きづめの母親たち
・追い詰められる障害者、「自立支援法」は誰のため
・ホームレス セイフティネットなき日本社会の遭難者
・若者たちの生活保護
「再チャレンジ」となえる空虚、安倍首相に『貧困』は見えない
(湯浅 誠/NPO法人自立生活サポートセンター・もやい)
・「貧困層を排除した『社会保険主義』は誤りだ」
(岩田正美/日本女子大学教授)
など、非常に充実したラインナップで、必読です。

<週刊東洋経済・岡田記者からの紹介文>

 週刊東洋経済2月24日号」(2月19日発売)では、「あなたも無縁ではない 貧困
の罠(わな)」と題した総計51ページの特集記事を掲載いたします。
 「貧困問題」は昨今、国会の代表質問でも取り上げられるまでになりましたが、日
本全体に貧困がどこまで広がっているのか、また政策に誤りがなかったのか、等々の
検証はまだ十分なされているとは言えません。そこで弊誌は、持てる力を総動員し、
日本列島の北から南にまで出向き、現実の貧困について徹底的に取材しました。そし
て、日本はこのまま「小さな政府路線」あるいは「再チャレンジ路線」「自己責任路
線」を突き進んでいいのか? あるいは今の政策に取って代わりうる第三の道は存在
するのか、スタッフ一同真剣に考え抜きました。
 取り上げた題材は盛りだくさんです。北九州市の生活保護行政はもとより、トヨタ
自動車の下請け企業の実情、青森のりんご農家、消費税を納税できないまま、税務署
の差し押さえに遭って廃業した事業主、元ホームレス、母子家庭の母親など、障害者
…まだまだあります。とにかく、時間がある限り、たくさんの方々にお目にかかり、
お話をお聞きしました。また、気鋭のライターでもある湯浅誠さんにもレポートして
いただきました。
 ぜひ手に取っていただいたうえ、ご高評いただければ幸いです。

東洋経済新報社
週刊東洋経済編集部 岡田広行
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週刊東洋経済は昨年7月1日号でも北九州市の異常な生活保護行政
を批判する記事を載せています

[特集]あなたの「街」の格差 40のランキングで徹底比較
--消防、教育、保育など11項目を徹底検証!--
「安心して暮らせる街」はどこだ! 生活保護

2006.07.01 週刊東洋経済 第6029号 48~50頁 写図表有 (全4,741字) 

保護行政の“優等生”北九州市で続く悲劇

 2度にわたる生活保護の求めを、行政によってはねつけられた末の悲惨な死だっ
た。


 5月23日、北九州市門司区の市営団地の自宅で、56歳の男性が倒れているのを
近所の住人が発見し、警察に通報した。警察の調べによれば、この男性は死亡からす
でに4カ月ほど経過しており、栄養失調による餓死の可能性が強いという。

 この男性が市の社会福祉主事(ケースワーカー)に初めて生活保護を求めたのは昨
年9月30日。水道局職員からの緊急通報を受けてケースワーカーと保健師が男性宅
を訪問した際に、生活保護を申請したいとの話があった。だが、このとき、ケース
ワーカーは緊急に保護をする必要があると判断しなかった。その日の夕方、男性は二
男と連れ立って門司区役所保護課を訪れ、あらためて保護申請をした。だが、区の担
当者は「親族でよく話し合いなさい」と言い含めて家に帰した。

 2度目のSOSは12月6日にあった。男性と二男が区役所を訪ねた際、二男が
「食事の援助は今年いっぱいでできなくなる」と切り出した。男性は所持金もなく、
水道、電気、ガスも止まったままで体も弱っていたため、再び生活保護を求めたが、
面接の担当者は「それならば、長男に援助してもらったらどうか」と提案。このとき
も、生活保護については首を縦に振らなかった。

 12月6日のやり取りについて、北九州市の大嶋明保護課長は、「長男ご本人が援
助できないのであれば、直ちに保護するつもりだった」と弁明。「担当者がこんこん
と説教した事実もない」と強調した。

 「反省点としては、もう一アクションあってもよかった。ただ、ご本人は56歳と
若く、特段治療が必要な病気もなく、仕事を探しておられた。聞くところによると、
小児マヒを患って右ひざが少し不自由だったが、以前にはタクシーも運転していた。
二男に援助を押しつけたという事実もない」と、市の対応に落ち度がなかったとも付
け加えた。

 だが、市の説明には腑に落ちない点も少なくない。というのも、9月30日時点
で、男性宅では電気、水道、ガスなどのライフラインがすべて止まっており、男性は
脱水症状と衰弱を来していたからだ。こうした状況では、生活保護法に従えば、緊急
に保護することも可能だし、現にそうすべきだった。

 関係者によれば、このとき同席した保健師は、衰弱でいつ倒れてもおかしくないと
の判断から、「救急車を呼ぶ必要はないが、医者に診てもらったほうがいい」と助
言。その後、10月から11月初旬にかけて、1週間に1度の割合で男性宅を訪問し
た。しかし、医療が必要で経済的に困窮している人が、保健師の訪問だけで事足りる
はずはなかった。にもかかわらず、市は緊急に保護することも申請用紙を渡すことも
ないまま、コンビニエンスストアに勤務する二男に援助をゆだねた。

 同じ団地に住む67歳の女性は、男性が生前、二男らしき人物から弁当を受け取っ
ているのを見たという。「足は物干しざおのように細く、やせこけていた。市の対応
はひどすぎる」と、男性を哀れんだ。

 申請書を渡さず「門前払い」も

 この男性にとどまらず、このところ北九州市では、お年寄りの孤独死や餓死が相次
いでいる。男性の死から2週間も経たぬ6月5日、門司区内の別の市営団地で、60
歳代の夫婦2人の遺体が発見された。6畳の和室に敷かれた布団に2人の遺体が横た
わり、部屋にはカギとチェーンロックがかかっていたという。

 さかのぼる4月下旬には、同じ門司区の団地で、78歳の母親と49歳の長女2人
の遺体が発見され、大騒ぎになった。近所に助けを求めた47歳の次女も衰弱が激し
く、病院に運ばれて治療を受けたという。

 これら二つの事例では生活保護を申請した事実がなく、市の責任は直接問われてい
ない。しかし、異様な死が相次ぐ背景には、北九州市の福祉行政の問題点が横たわっ
ている。

 市内の福祉関係者は、「市民の間に福祉事務所の面接室は『怖いところ』との認識
があり、そのために当初から生活保護の申請を断念していた可能性も否定できない」
と語る。

 八幡東区在住の90歳代の女性は今年5月、区内の福祉事務所に生活保護の相談に
行った。しかし、その場で生活保護を受けたいとはっきり伝えたにもかかわらず、
「妹や弟の仕送りができない証明をもらってこい」といわれ、追い返された。

 その後も女性は福祉事務所に足を運んだが、その都度、「施設に入ったらどうか」
と言われ、申請書をもらえないまま再び帰された。

 らちが明かないので、市民団体の「八幡生活と健康を守る会」に置かれていた申請
書一式を持って、会のメンバーとともに市長秘書室を訪ねたところ、福祉事務所の対
応が一変。6月になって1カ月後から保護費が受けられることになった。

 一方、夫と別れて2人の子どもを育てている50歳代の女性は、離婚届を出してか
ら何度も八幡西福祉事務所に足を運んだ。が、面接の担当者は「別れた前夫と話し
合って慰謝料や養育費をもらいなさい」「それがダメなら裁判所に調停を申し立てな
さい」というだけで、申請書すら渡してもらえないという。

 前出の大嶋保護課長は「申請したい方にはその場で申請書を渡している」と言う
が、「10ぺん通っても申請書すらもらえなかった」というお年寄りもいる。

 生活保護は、国民の生存権を保障するための制度として、戦争直後に実現した。憲
法25条に基づき、生活困窮者にも最低限度の生活を保障するものだ。ただ、収入が
ある場合には最低生活費からその分を引いて、不足する分を保護費として支給する。
また、資産や生活能力があったり、親族に扶養してもらえる場合は生活保護より優先
されることになっており、北九州市はこうした「補完性の原則」を過度に活用してい
る。

 「別れた夫から養育費をもらいなさい。児童扶養手当もあれば、食べていけるで
しょ」

 「あなたは稼働能力があるのだから、子どもを施設に預けてでも働いたらどうです
か」

 説得の仕方はこんな具合だと、退職した元ケースワーカーは語る。

 左上の表でわかるように、北九州市では要保護世帯に占める母子家庭の割合が、ほ
かの政令指定都市と比べて著しく低い。そうした中で、借金苦を理由とした母親の失
踪や家庭環境の悪化による児童虐待も発生し、手遅れになってから児童相談所に駆け
込むケースもあるという。

 生活保護に対する北九州市の姿勢を如実に示しているのが、生活保護に関するパン
フレットの記述だ。ここでは、日本国憲法や生活保護法についての記述がいっさいな
い。

 その反面で、「資産は処分して世帯の生活費に充てて下さい」とか、「親、子ど
も、兄弟姉妹などから援助を受けられるときは、まずその援助を受けて下さい」と
いった記述が目立つ。また、不正な保護を受けた場合の罰則も強調されている。

 日本一厳しいとされる北九州市の保護行政

 北九州市と対照的なのが、福岡県(郡部を管轄)のパンフレットだ。ここでは憲法
や生活保護法についてきちんと触れたうえで、保護が決まるまでのプロセスを明示。
「正当な理由がなければ、保護費を減らされたり、保護を受けられなくなることはあ
りません」と書かれている。

 同じ福岡県内でありながら、北九州市とほかの地域では、なぜこうも対応が違うの
か。

 北九州市の生活保護行政は特異な歴史をたどってきた。同市では各福祉事務所に配
置された係長職の事務吏員が、面接相談を一手に担当する、「面接主査制度」を敷い
ている。この面接主査制度こそ、日本一厳格といわれる北九州の生活保護行政の根幹
であり、1990年代の不況のさなかにもかかわらず、大都市で唯一保護率低下を成
功させた“立役者”だ。

 その面接主査制度の効用について、『軌跡-北九州市・生活保護の30年-』と題
された、同市保護課監修の書籍ではこう記されている。

 「(80年代)当時、確かに面接主査制にしたことによって、当時、ある福祉事務
所では申請率が70%、80%あったのが、30%、40%弱になった。やはり入り
口のところで整理したというのが大きかった」

 63年に旧八幡、若松など5市が合併して誕生した北九州市は、合併当初から財政
難にあえいでいた。筑豊地区の炭坑閉鎖や鉄鋼不況が影響し、市内の生活保護世帯も
急増。人口のうち、生活保護を受ける人の割合を示す「保護率」は、67年に全国
トップを記録した。

 財政再建を最優先とする市当局は、保護率の「適正化」を急務とした。67年に
は、生活保護行政の「第1次適正化」に着手。旧厚生省から主要ポストへの出向者を
受け入れ、長らく国の管理の下で生活保護行政の「適正化」が続けられてきた。

 80年には目標管理制度を導入。生活保護の廃止と開始の年間目標数を出させる仕
組みをスタートさせ、「局長ヒアリング」で、各福祉事務所における年間の開廃差
(開始件数と廃止件数との差)を所長から直接報告させるようにした。

 そして82年からは、生活保護行政の「第2次適正化」がスタート。不況下で保護
率急増に見舞われる中で、「濫給撲滅」を掲げ、暴力団や団体も例外とせずに、
徹底した保護行政の厳格化を実施した。

 こうした歴史ゆえに、今も目標管理制度は厳然と続いている。

 「(生活保護の)開始率は努力目標として過去3年間の平均(93・7%)以下に
抑える93・0%以下とする」。北九州市若松福祉事務所は06年度の「生活保護業
務運営方針」の中で、こんな目標を掲げている。

 開始率とは、生活保護の申請件数に対する保護開始の割合を指す。本来、数値目標
にはそぐわないものだ。北九州市議会で柳井誠市議(共産党)が存在を明らかにし、
「目標設定は申請権を侵害する」と批判した。

 生活保護の申請率(相談件数に対する申請件数)も、北九州市は極端に低い。福岡
市の48・4%に対して、北九州市は18・7%(02年度)。

 「相談には乗るが、申請書は極力渡さないようにしてきた。申請書を渡す係長(面
接主査)は課長からしかられ、人事評価でもマイナス点になる」(前出の元ケース
ワーカー)。

 柳井市議が入手した門司福祉事務所の内部文書には、「相談者の権利意識の高揚に
より、申請率は上昇するものと考えられる」との一文がある。02~04年度にかけ
て門司区での申請率は17%で推移してきたが、05年度には12・8%に減少。
06年度は一転して増加が見込まれており、市当局が「権利意識の高揚」に警戒感を
強めていることが読み取れる。

 実は北九州市の生活保護行政は、わが国のモデルになりつつある。今年3月、厚生
労働省は生活保護の「適正運営」を進めるための「手引き」を作成した。そこでは隠
れ収入をあぶり出すための「関係先調査の徹底」や「稼働能力のある者に対する指導
指示」など、「すでに北九州市では20年前に導入済みの施策」(同市福祉関係者)
が数多く盛り込まれている。こうした施策が全国に広がった場合、ほかの自治体でも
北九州市と同様の問題が起こるおそれがある。

 6月12日の参議院行政監視委員会。仁比聡平議員(共産党)による餓死事件に関
する質問に対し、川崎二郎厚労相は「本件については検証したい」と調査の考えを明
らかにした。北九州市の悲劇は、わが国の生活保護行政のあり方と深くかかわるだけ
に、徹底究明が求められる。

[写真]生活保護を受けられずに男性が餓死した団地(北九州市)

[表]長期不況の中で、北九州市は大都市で唯一、保護率を低下させた

[表]北九州市の生活保護行政は、とりわけ母子家庭にとってハードルが高い

[写真]北九州市では餓死や変死が相次いでいる



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