原発1ヵ月 政府は国民を守れるか
信濃毎日新聞 4月10日(日)社説
大震災からほぼ1カ月になる。
津波の被災地では徐々にではあるが、少しずつ希望の灯が見えてきた。
対照的なのが、福島第1原子力発電所の事故である。
現場の懸命の作業にもかかわらず、収束のめどがいっこうに立たない。
放射能汚染は広がる一方だ。
作業員を危険にさらし、住民から故郷を奪い、福島県だけでなく
近隣県の農業、漁業などにも計り知れない被害をもたらしている。
政府はいまだに解決に向けた具体的な工程を示していない。
かつてない危機から国民を守ることができるのか。
災害の長期化とともに強い疑問にかられる。
<続く放射能汚染>
3月11日に大地震が起きて以来、原発災害の深刻さが次々と
明らかになった。
放射性物質を閉じ込める格納容器の損傷、水素爆発による建屋の
崩壊、高濃度の汚染水の流出…。
東京電力の福島第1原発では、次々と重大なトラブルが続いている。
漏れてはいけないはずの放射性物質が大気中に放出され、
海にも垂れ流し状態である。
政府は今回の事故の程度を「レベル5」と暫定的に位置付けている。
最悪とされたチェルノブイリ事故の「レベル7」に比べ、
深刻度は低いとの見方である。
本当にそうなのか。
チェルノブイリでは放射性物質を拡散したのは1基だった。
だが、福島は4基がそれぞれ事故を起こし、周辺への汚染が止まらない。
見方によっては、チェルノブイリよりやっかいな事態ではないのか。
にもかかわらず、いまどんな状況にあり、どのような解決の道筋を探り、
いつどんな形で収束させるのか、政府からは詳しい手順の説明がされないままだ。
<住民は置き去りか>
たしかに、枝野幸男官房長官や原子力安全・保安院、
東電が連日会見している。
だが、大半は次々と起きる事故の対処に追われ、国民が本当に知りたい
ことや求めていることにきちんと答えているとは言い難い。
過去に経験のない大事故だといっても、1カ月という時の流れは重い。
避難している住民だけでなく、福島県はじめ近隣県の農漁業の関係者の
怒りと不安は極限に達している。
とくに問題なのは、周辺住民に対する対応である。
政府は半径20キロ圏内に避難を、20キロから30キロには屋内退避を
指示し、後になって屋内退避圏内の住民に対して自主避難を要請している。
住民の命を守るための指示は当然としても、その後の支援策があまりに乏しい。
例えば、自主避難の要請である。
自主的な避難を促されても、どう判断していいか、
住民は戸惑うばかりだろう。
仮に屋内退避を選んだとしても長期間にわたって屋内生活が続くのでは、
苦痛はきわめて大きい。
県外への避難は2万人を超えたとされる。
原発の地元、双葉町のように役場機能を移した自治体もある。
危険から逃れるために急いで避難したまま、いつまで非常事態
が続くのか分からない状態に置かれている。
先の見えない暮らしに不安は募るばかりだろう。
放射能汚染の高い原発周辺では、行方不明者の捜索や遺体の収容
が最近まで中断していた。
政府の責任で早くから捜索態勢を築いていれば、
死者への礼を失することはなかった。
あるいは助かった住民がいたかもしれないと思うと、無念でならない。
被害に遭った福島県民が、さまざまな混乱や苦痛を強いられている。
責任は政府にあることは明らかだ。
いつまで非常事態が続くのか、その間の暮らしをどう保障する
のか、故郷の復興は-。
一刻も早く青写真を示し、安心をもたらすのが政府の役割ではないか。
<問われる危機管理>
汚染水の海への投棄も、唐突だった。
東電は漁業団体と事前に協議しないまま放出に踏み切った。
全国漁業協同組合連合会が「一方的な暴挙だ」と強い口調で抗議している。
韓国や中国など近隣国からも非難や懸念が相次いだ。
原発災害への対応をめぐって内外から危機管理能力に疑問符が
突きつけられている現実を、政府はどう受け止めているのか。
大災害だから政府を信頼すべきだとの声があるのも確かだが、
そうとばかりは言っていられない。
的確なかじ取りができなければ、批判はさらに高まるだろう。
確認しておきたいことがある。
原発政策は旧自民党政権の時代からいまの民主党政権まで、
政府が電力会社と一体となって推し進めてきた国策である。
原発事故の引き金を引いたのは大地震だとしても、
地震や津波に備えて惨事に至らないようにする。
事故が起きてしまってからは被害を極力小さくする。
いま起きている原発災害から、国民の生命と財産を守る-。
これらの最終的な責任は政府にある。
強い自覚と指導力を、あらためて菅直人政権に求める。
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信濃毎日新聞 4月10日(日)社説
大震災からほぼ1カ月になる。
津波の被災地では徐々にではあるが、少しずつ希望の灯が見えてきた。
対照的なのが、福島第1原子力発電所の事故である。
現場の懸命の作業にもかかわらず、収束のめどがいっこうに立たない。
放射能汚染は広がる一方だ。
作業員を危険にさらし、住民から故郷を奪い、福島県だけでなく
近隣県の農業、漁業などにも計り知れない被害をもたらしている。
政府はいまだに解決に向けた具体的な工程を示していない。
かつてない危機から国民を守ることができるのか。
災害の長期化とともに強い疑問にかられる。
<続く放射能汚染>
3月11日に大地震が起きて以来、原発災害の深刻さが次々と
明らかになった。
放射性物質を閉じ込める格納容器の損傷、水素爆発による建屋の
崩壊、高濃度の汚染水の流出…。
東京電力の福島第1原発では、次々と重大なトラブルが続いている。
漏れてはいけないはずの放射性物質が大気中に放出され、
海にも垂れ流し状態である。
政府は今回の事故の程度を「レベル5」と暫定的に位置付けている。
最悪とされたチェルノブイリ事故の「レベル7」に比べ、
深刻度は低いとの見方である。
本当にそうなのか。
チェルノブイリでは放射性物質を拡散したのは1基だった。
だが、福島は4基がそれぞれ事故を起こし、周辺への汚染が止まらない。
見方によっては、チェルノブイリよりやっかいな事態ではないのか。
にもかかわらず、いまどんな状況にあり、どのような解決の道筋を探り、
いつどんな形で収束させるのか、政府からは詳しい手順の説明がされないままだ。
<住民は置き去りか>
たしかに、枝野幸男官房長官や原子力安全・保安院、
東電が連日会見している。
だが、大半は次々と起きる事故の対処に追われ、国民が本当に知りたい
ことや求めていることにきちんと答えているとは言い難い。
過去に経験のない大事故だといっても、1カ月という時の流れは重い。
避難している住民だけでなく、福島県はじめ近隣県の農漁業の関係者の
怒りと不安は極限に達している。
とくに問題なのは、周辺住民に対する対応である。
政府は半径20キロ圏内に避難を、20キロから30キロには屋内退避を
指示し、後になって屋内退避圏内の住民に対して自主避難を要請している。
住民の命を守るための指示は当然としても、その後の支援策があまりに乏しい。
例えば、自主避難の要請である。
自主的な避難を促されても、どう判断していいか、
住民は戸惑うばかりだろう。
仮に屋内退避を選んだとしても長期間にわたって屋内生活が続くのでは、
苦痛はきわめて大きい。
県外への避難は2万人を超えたとされる。
原発の地元、双葉町のように役場機能を移した自治体もある。
危険から逃れるために急いで避難したまま、いつまで非常事態
が続くのか分からない状態に置かれている。
先の見えない暮らしに不安は募るばかりだろう。
放射能汚染の高い原発周辺では、行方不明者の捜索や遺体の収容
が最近まで中断していた。
政府の責任で早くから捜索態勢を築いていれば、
死者への礼を失することはなかった。
あるいは助かった住民がいたかもしれないと思うと、無念でならない。
被害に遭った福島県民が、さまざまな混乱や苦痛を強いられている。
責任は政府にあることは明らかだ。
いつまで非常事態が続くのか、その間の暮らしをどう保障する
のか、故郷の復興は-。
一刻も早く青写真を示し、安心をもたらすのが政府の役割ではないか。
<問われる危機管理>
汚染水の海への投棄も、唐突だった。
東電は漁業団体と事前に協議しないまま放出に踏み切った。
全国漁業協同組合連合会が「一方的な暴挙だ」と強い口調で抗議している。
韓国や中国など近隣国からも非難や懸念が相次いだ。
原発災害への対応をめぐって内外から危機管理能力に疑問符が
突きつけられている現実を、政府はどう受け止めているのか。
大災害だから政府を信頼すべきだとの声があるのも確かだが、
そうとばかりは言っていられない。
的確なかじ取りができなければ、批判はさらに高まるだろう。
確認しておきたいことがある。
原発政策は旧自民党政権の時代からいまの民主党政権まで、
政府が電力会社と一体となって推し進めてきた国策である。
原発事故の引き金を引いたのは大地震だとしても、
地震や津波に備えて惨事に至らないようにする。
事故が起きてしまってからは被害を極力小さくする。
いま起きている原発災害から、国民の生命と財産を守る-。
これらの最終的な責任は政府にある。
強い自覚と指導力を、あらためて菅直人政権に求める。
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