『週刊金曜日』11月12日号・佐藤優責任編集「沖縄と差別」特集を読む/海鳴りの島から ほか

2010-11-24 22:45:46 | 沖縄
 『週刊金曜日』2010年11月12日号で佐藤優責任編集による「沖縄と差別」という特集が組まれている。その中に佐藤氏と糸数慶子参院議員、佐高信『週刊金曜日』編集委員による座談会がある。冒頭で佐藤氏は10月15日付朝日新聞朝刊が〈仲井眞氏が当選後に再び県内移設容認に軸足を移すことを菅政権は期待している〉と書いたことを取り上げ、〈これは沖縄に対する差別です〉と批判している。そして、佐高氏との間で次のような会話を交わしている。

佐藤 「仲井眞は裏切るかもしれない」という"消耗戦"に巻き込まれてはいけません。それは、沖縄の民主主義を内側から壊すことになります。
佐高 最初から変節を疑うのは良くないということですね。
佐藤 そうです。……

 続けて佐藤氏は菅政権の批判を行っているのだが、引用した会話を一読して呆れてしまった。『週刊金曜日』2010年10月22日号は表紙に〈|11・28 沖縄県知事選|再燃する普天間/仲井眞氏は信じられるか〉と掲げ、ジャーナリストの横田一氏による同題名の評論を掲載している。内容は、仲井眞氏の過去の変節や辺野古の埋め立て利権を追求してきた国場組、東開発との関係の深さなどを挙げ、〈選挙直前に県外移設を表明しても、本音と捉える県民は決して多くはないのではないか〉(17ページ)とした上で、〈二枚舌を駆使しながら公約違反をする〉(同)仲井眞氏を批判している。表紙に掲げるくらいだから同号の中心となる評論だと思うが、佐藤氏と佐高氏の会話はこれを真っ向から否定するものだ。

 11月12日号には、自民党沖縄県一区選挙区支部長・國場幸之助氏の「沖縄保守の県外移設論」という文章も載っている。普天間基地の辺野古崎「移設」という〈現行案の実行が如何に非現実的かという点と、沖縄県の保守陣営が、普天間基地の県外移設を主張するに至った理由〉(19ページ)について、①県民の民意、②政治環境、③抑止力への懸念、④安全保障論議の不在、⑤経済(保守)VS.基地(革新)という構図の崩壊、⑥沖縄に対する同胞意識の欠落、差別感、という六つの角度から説明したものである。
 國場氏は名前を見て分かるとおり、沖縄の基地利権の中心となってきた國場組の身内だが、昨年の衆議院選挙では一区で立候補し、大米建設の身内である下地幹郎氏に敗れた。次の衆議院選挙でも國場氏と下地氏の対決が行われる可能性が高い。佐藤氏は同号で自ら執筆した評論や先の座談会において、下地氏のことを実名は出さずに繰り返し批判している。國場氏に執筆を依頼したのは、國場氏と下地氏が同一選挙区で競合関係にあることを踏まえてのものだろう。
 國場氏からすれば、佐藤氏が指名しなければ『週刊金曜日』に執筆する機会は滅多にないはずだし、加えて、県知事選挙が告示されて選挙運動が行われているただ中で販売される号に、「沖縄保守の県外移設」について書く機会が与えられたのは、とても有り難かったはずだ。

 今回の沖縄県知事選挙は、選挙前になって仲井眞氏が「県外移設」を主張したことで、普天間基地問題に対する争点ぼかしが行われている。言うまでもなく、仲井眞氏はこれまで「県外がベスト」と言いつつも、辺野古V字型滑走路計画の沖合移動という「微修正」を日本政府に求め、普天間基地の「県内移設」を推進してきた。昨年の衆議院選挙で政権交代が行われ、鳩山政権に対して「国外・県外移設」という公約の履行を求めて沖縄県民の世論が盛り上がる中でも、「辺野古移設は難しくなった」と状況認識を口にするだけで、自らの意思を明確に表すことはなかった。そういう仲井眞氏だからこそ、横田氏が指摘したとおり、ホンネとタテマエを使い分けているのではないか、と疑う県民は多い。
 今回の選挙で、それは仲井眞氏にとって最大の弱点となっている。対立候補の伊波氏は、これまで一貫して普天間基地の「県内移設」に反対してきた。それに対し仲井眞氏は、「県外移設」は主張するようになったが、「県内移設」反対を明確にすることはしないまま選挙に入った。「県外移設」という主張への不信感を払拭できず、自らの意思を曖昧にする優柔不断さ、県民を引っ張るリーダとしての資質の問題に有権者の関心が集まれば集まるほど、仲井真氏は窮地に陥る。結果として、仲井眞氏では普天間基地問題の現状を打開できない、と有権者に見限られることを、仲井眞陣営はもっとも恐れているはずだ。普天間基地問題の争点ぼかしを行う一方で、仲井眞氏の「県外移設」という主張に信頼性を与えることが、仲井眞陣営にとって重要な課題となっている。
 國場氏の文章は、「沖縄保守の県外移設」の理由を説明することで、仲井眞氏の「県外移設」という主張への信頼を作り出そうとするものだ。それは國場氏を起用した佐藤氏の狙いでもあるだろう。自ら書いている評論や座談会で佐藤氏は、仲井眞氏の〈変節〉を狙う菅政権を批判する一方で、仲井眞氏の「県外移設」という主張を検証することはしない。むしろその検証を封じ込めようとする。冒頭に引用した座談会での佐高氏との会話はそれを露骨に示したものだが、評論では菅政権や朝日新聞の「沖縄差別」批判という形で巧みにそれを行っている。
 つまり、佐藤氏が責任編集した『週刊金曜日』11月12日号の「特集 沖縄差別」は、仲井眞氏の最大の弱点である普天間基地問題について、仲井眞氏の「県外移設」という主張の信頼性を高め、なおかつそれが有権者に検証されて〈変節〉の可能性が論じられることを封じ込める=争点ぼかしすることを主たる目的として編まれたように、私には見える。それは仲井眞氏を側面から支援するものだ。
 佐藤氏は〈筆者は権力闘争からあえて距離を置いている〉(17ページ)と強調しているが、白々しい限りだ。県知事選挙という〈権力闘争〉のただ中で同号を発行しながら〈距離を置いている〉と主張するのは、佐藤氏ならびに『週刊金曜日』編集部のまやかしであり、自らの言論活動の責任を逃れようとするものでしかない。

 沖縄県知事選挙も残り4日となった。現職の優位を生かして先行していた仲井眞氏に伊波氏が猛追して並び、激戦になっているという報道がある。これから投票日まで、普天間基地問題の争点ぼかしを許さず、仲井眞氏の主張する「県外移設」の内実を過去の言動との整合性を含めて検証し、批判していくことが重要となる。『週刊金曜日』11月12日号で佐藤氏が行っているちゃちな仕掛けなど蹴り飛ばせばいい。
 仲井眞氏は、これまで自らが進めてきた辺野古V字型滑走路計画の「微修正」要求が誤りだったと認めてはいない。仲井眞氏や自民党県連が今「県外移設」を主張している最大の理由は、沖縄県民の民意に逆らっては当選できない、という政治判断であり、県知事選挙に勝つためにはなりふりかまっていられないからだ。
 昨年の衆議院選挙で自民党県連は、衆議院の全議席を失った。現在、国会議員は参議院の島尻安伊子氏ひとりである。この上、県知事選挙で負けたらどうなるか。それこそ組織崩壊の危機を迎えかねない、という強い危機感が自民党県連にはある。逆に、県知事選挙に勝利すれば、民主党や菅政権への失望と不満が高まる中、次の衆議院選挙で県内の1、3、4区で勝利し、自公政権復活の展望も開ける、とも考えているだろう。沖縄の自民党も追い詰められているだけに必死なのだ。
 今の日本の政治状況は極めて不安定で流動化している。来年にも衆議院解散、総選挙が行われる可能性がある。民主党政権が続くにしろ、自公政権が復活するにしろ、日本政府が辺野古新基地建設に向け沖縄に圧力を加えてくるのは目に見えている。それに抗して「県内移設」反対をつらぬける知事を作り出さなければならない。
 「県外移設」がベストと言いながら、結局はベターな選択として「県内移設」を進めてきたのが沖縄の自民党であり、公明党である。選挙で掲げた公約を守ることは当たり前のことだ。しかし、その当たり前のことが踏みにじられ、二枚舌を弄する政治家の醜態を、有権者は自公政権でも民主党中心の政権でも見せつけられてきた。
 この4年間の仲井眞氏の政治姿勢は、基地問題に限らず教科書検定問題においても、優柔不断そのものだった。知事としてのリーダーシップどころか、県民世論が盛り上がっても自ら積極的に行動に移さず、最後尾からついてくるような有り様だった。政治状況が変化し、外部環境が変わったからと、またぞろ「ベストよりベターな選択を」などと言い出されてはたまったものではない。
 選挙に立候補した政治家の過去の言動を検証し、変節しないか、信念を貫けるかを見極めるのは、現在の選挙で最も重要なことだ。むしろ有権者は政治家の変節や二枚舌を許さないためにも、政治家の公約を疑い、確かめ、納得がいくまで検証した上で投票すべきなのだ。そのように有権者が熟考して投票できるようにするのが、週刊誌を含めたメディアの果たす役割のはずだ。

 それぞれの場で、信念を貫ける知事を生み出すために頑張りましょう。
http://blog.goo.ne.jp/awamori777/e/36ca9de1f3dd36002cf9a15889182e97

残り1週間
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海鳴りの島から沖縄・ヤンバルより…目取真俊

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米、沖縄知事選結果にかかわらず現行計画遂行へ/すみっち通信
米、軍事行動検討は「時期尚早」/すみっち通信
 「県内反対」主張の違い/すみっち通信
いよいよ28日の沖縄県知事選まであと4日。地元では、島中を駆け巡る仲井真弘多氏と伊波洋一氏が熱く火花を散らし、両氏を応援する県民もきっと盛り上がっていることだろうと思いきや、沖縄の地元紙は「静かな選挙だ」と報じています。

それは、これまで辺野古への新基地建設を容認していた仲井真氏が、選挙前になって、まるで伊波氏と足並みを揃えるかのように「県内反対」と主張し始めたため、最大の「争点」であるはずの普天間飛行場移設問題に関する焦点が「ぼけてしまった」からなのだそうです。

仲井間氏は、県内反対に転じた理由を「名護市長や名護市議会も反対しているから」と説明しているそうですが、主張を変えた時期が「選挙前」ということから、果たして本当に県外を目指しているのだろうか?と疑問を感じる人は多いでしょう。

そこで、それを判断する一つの方法がある、と示してくれたのが、琉球大学の島袋純教授による「似て非なる『県外』文脈」という琉球新報11月21日付けの記事です。

この記事のなかで島袋教授は、日米安保に関する両氏の主張の違いに目を向けよ、と諭しています。

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(引用はじめ)

仲井間候補の主張は、現在の『日米安保条約』を守るべきものと評価している。

ということは、仲井間氏が考える基地問題の解決も、日本の政治の抜本的な転機につながるものでもなく、現在の米軍の特権的な基地や使用のあり方を、そしてそれを支える日本の政治行政の仕組みを容認し尊重しつつ、一歩一歩変えていくという主張ととらえることができる。

普天間基地問題の解決に関してもその文脈で解決していくということであり、その意味が『県外移設』の要求となるのであろう。

つまり、伊波氏の『県内移設反対』と仲井間氏の『県外移設要求』で、似たような主張に見えるが、それを支える基本的な政治的主張がかなり異なる。

(引用おわり)
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たしかに、伊波氏が「日米両政府と直接、普天間飛行場の撤去を交渉していく。日米安保も見直す必要がある」と訴えているのに対し、仲井間氏は「日米安保は守るべきものだ」という姿勢を貫いています。

そこで、ふと湧き上がってくるのが「普天間の県外移設を唱えながら日米安保は守りたいという主張は矛盾しているのではないだろうか?」という疑問でしょう。

その疑問に「イエス、日米安保を守るイコール辺野古に新基地を作るということです」と答えたのが、先日のブログで紹介した、クローリー米国務次官補(広報担当)の22日の記者会見の内容です。

この記者会見のなかでクローリー次官補は、「選挙は沖縄県民の意思を示すもの。しかし、日米両政府は選挙後も、現行計画の遂行に向け協力を継続していく」と断言していました。

鳩山前首相の在任時には、普天間問題の成り行きを聞かれるたびに「沖縄と日本国民の民意を尊重する」と答えてきた同次官補ですが、今回はガラっと主張を転換させ、柔らかな言い方で「普天間問題ではもう交渉の余地なし」という強硬な見解を示しました。

こうした米政府の方針を仲井間氏はこれをどう捉えているのでしょう。

沖縄県知事選について、20日に沖縄発の記事を掲載したワシントン・ポスト紙は、大勢の支援者を前にした集会で仲井間氏が普天間について触れたのは「1回もなかった」と指摘。そのかわりに、同氏が前面に押し出して主張していたのは経済振興だったと伝えています。

地元紙が「静かな選挙」と評している沖縄県知事選ですが、北朝鮮の事件で事態は一変してしまいそうな気配です。

米韓合同訓練中に起きた韓国哨戒艦沈没事件も記憶に新しいところですが、今回の事件でも、一部の米メディアは、北朝鮮が韓国に砲撃する前に、米韓が自国領海と主張する海域で軍事演習を行い、北朝鮮が主張する海域に砲撃してきたため北朝鮮がそれに報復した、と伝えています。

この事件を受け、北朝鮮の脅威があるから、やはり沖縄には米軍基地が必要だと考える人には、今回のアメリカの対応を冷静にみて判断してほしいと思うのです。

オバマは北朝鮮の行動を激しく批判したものの、「軍事行動は考えていない」と言明しました。韓国にある米軍基地も、日本にある米軍基地も、有事があっても抑止力とはならない、米政府は米軍を抑止力として行使しない、ということです。

米軍は抑止力にはなりえない。アメリカは、今回の事件でそうした考えをはっきり示しました。

さて問題は、そうした米国に従属し続けている日本政府に対し、今回の知事選で沖縄がどのような意思を示すのか、ということでしょう。そのためにも、沖縄の有権者は、両者の主張を真に見極める必要があります。

今回、沖縄の有権者が一票を投じる知事選には、沖縄の未来がかかっています。子供たちに基地闘争のない未来を作るためには、「県内反対」を掲げる両者の主張の違いをしっかりと把握し、自分の判断に基づいた一票を投じることが重要です。

軍が島を守らない、ということは沖縄戦という歴史が示しています。

気がついたら、小さな狭い島が米軍と自衛隊に占領されていた、ということだけは避けなければなりません。

すみっち通信今日も晴天♪LA発のアメリカニュース

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