〈記者有論〉橋下知事 もうドン・キホーテに映らない/朝日新聞

2011-07-30 08:50:05 | 社会
■池尻和生(大阪社会グループ)

 大阪府の橋下徹知事の担当になって2年。意外かも知れないが、普段の彼は物静かだ。新聞や専門書を丹念に読み込む勉強家の一面もあり、私より七つ年上のおとなしいお兄さんという感じなのだ。

 それが「政敵」を前にすると、罵詈雑言(ばりぞうごん)、ののしって挑発する。今なら府との再編を掲げる「大阪都構想」に反対する平松邦夫市長がターゲットだ。言われる方はたまったものではないが、普段とは違う物言いに、私の目には妙に芝居がかって見える。

 そんな表面的なことより最近、気がかりなのは危うさが目につくことだ。今春の統一地方選で自らが率いる地域政党「大阪維新の会」が府議会で過半数を握って迎えた5月議会で、府議定数109を88に大幅削減する条例案の採決のときも感じた。

 反対派が「バリケード」で議場を封鎖し、「数の横暴だ」と怒号が飛び交う中、維新の会の議員がスクラムを組んで突破。他の主要会派が本会議を欠席する中、過半数を握る維新の会が賛成多数で可決させた。橋下氏は「民主主義の最終的な合意は多数決だ」と主張した。

 同じ削減案を提出した9カ月前は過半数に届いておらず、議場での議論もなく他会派の反対で即否決された。そのとき維新幹部が「議論させろ」と怒っていたのとは、全く逆の事態だった。

 橋下氏に維新の会という政治的な支えがない時、たった1人で国会議員や行政組織に闘いを挑む姿はまるで「ドン・キホーテ」のようだった。

 財政再建で市町村の補助金をカットする時には、市町村長の説得のために涙さえ見せた。時間のかかる調整も必要だったし、「若造のくせに」とののしられても、なんとか突破口を見いだしてきた。それも、府民から喝采を受けた理由だったと思う。

 しかし今は違う。府議会で「大軍団」を率いる橋下氏はもうドン・キホーテとは映らない。「橋下さんは最近なんか怖い」という言葉を有権者からよく聞く。

 「実績」への焦りも感じる。橋下氏は今秋の知事・大阪市長のダブル選で市長へのくら替えが確実視されている。定数削減は維新の目玉公約だったが、適用は4年後の統一選で時間はまだあった。

 確かに政治は「数」だ。スピードも大事だ。だが、民主主義の肝は議論を尽くすことだ。おごった権力者に映ることは、「普段」を見てきた私にとっても残念だ。
*2011.7.30

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