私はブルース・リーの大ファンで、彼の映画はほとんど見ている。「考えるな、感じろ!」というのは、「燃えよドラゴン」の冒頭のシーンで、彼の弟子をさとして言った言葉である。(=> "Bruce Lee - Don't Think, Feel" ) スター・ウォーズのヨーダのセリフとしても採用されているので、西洋人から見た「東洋の智慧」的な言葉として受け止められているのだろう。
実際に、この言葉は仏教の世界観を表す言葉でもある。仏教では「すべては空である」と説く。「空」というのは概念(言葉)による規定を拒絶するということである。つまり、世界をあるがまま受け止めるということに他ならない。真実は現前している、言葉による再構成はそれをゆがめる行為である。「考えるな」というのはそういう意味である。だが、決してこれは神秘的な思想ではない。理詰めで考えて行っても到達する普遍的な哲学的見解でもある。西洋哲学者であるウィトゲンシュタインも次のように述べている。
「我々が生きている世界は、感覚与件の世界である。しかし、われわれが語る世界は物理的対象の世界である。」(1931-33年の講義から)
「感覚与件」とは我々の感官が直接受け取る情報、つまり見たまま聞いたまま感じたままの感覚のことである。物理的対象とは「存在していると考えられる対象」つまり推論によって再構成されたものという意味である。この言葉はそのまま西田幾多郎の次の言葉と符合している。
≪我々は意識現象と物体現象の二種の経験的事実があるように考えているが、その実はただ一種あるのみである。即ち意識現象あるのみである。物体現象というのはその中で各人に共通で普遍的関係を有する者を抽象したものに過ぎない。≫ (善の研究P.72)
ウィトゲンシュタインの「感覚与件」と「物理的対象」がそのまま西田の「意識現象」と「物体現象」に各々当てはまる。我々の生きている世界は直接感じ取っている世界そのものに他ならないのであって、それこそが唯一の実在である。
(参考記事=>「非風非幡」)