食品配布で受け取った袋を手に、会場を後にする女性=東京・新宿区で
(東京新聞)
単身で暮らす中高年女性の貧困が深刻化している。長期化する新型コロナウイルス禍の下、女性の従業員が多い飲食・宿泊業での解雇や雇い止め、休業が相次ぎ、困窮に追い打ちをかけている。(中村真暁)
◆雇用切っても構わないと思われているみたい…
「1日2食を食べられたらいい方です」
2月中旬、支援団体が東京都庁前で行った食品配布に初めて訪れた豊島区の女性(47)が声を落とした。年金暮らしの高齢の両親は頼れない。貯金は底を尽き、生活費に充てたカードローンが80万円ある。
短大卒業後に正社員として働いた会社では、早朝から深夜まで長時間労働を強いられた。結婚や出産を機に辞める女性が多く、働き続けるイメージを持てないまま8年ほどで退職した。「男性同様の働き方ができないと、続けるのは難しかった」と振り返る。
その後、派遣社員として職場を転々。年齢を重ねるにつれ契約が短期化した。「誰でもできるような仕事ばかり。スキルも蓄積しませんでした」
コロナの感染が拡大した2020年春、パート先の飲食店が休業し、それまでの月収10万円はほぼなくなった。就職活動もうまくいかない。家事や育児を担うことが多い女性の就労は「家計補助のためでしかなく、雇用を切っても構わないと思われているみたい」。
昨年12月からは、国民年金も払えていない。「老後のためにも健康でいたい。1日も早く仕事を見つけて収入を得たい」と話す。
◆公営住宅の抽選で当選したが…
シングルマザーだった練馬区の女性(83)はデパートなどでパートの仕事に就き、子ども3人を育てた。元夫から養育費などの支援はなく「生活はぎりぎりで、がむしゃらだった」と振り返る。国民年金は未納期間がある。60代後半から清掃の仕事に就き、5万円の家賃を払いながら、月収8万円で生活した。
約10年前に公営住宅の抽選で当選したが、家賃を払えなくなるのが心配で役所に辞退を申し出た。「職員から生活保護を勧められて利用しました。人に頼るのは良くないと思っていたが今は安心して暮らせている。同様に制度を利用せず、困窮する高齢女性は他にもいると思う。そうした人がもっと生きやすい社会になれば」と願う。
◆65歳以上の女性の半数が「相対的貧困」
「中高年単身女性の貧困問題は、社会的にも政治的にも置き去りにされてきた」。当事者団体「わくわくシニアシングルズ」代表の大矢さよ子さん(71)は、女性の就労が多いサービス業などを直撃したコロナ禍が、この問題をより深刻化させたと強調する。
大矢さんは、就労や相談支援について、その対象から中高年層が漏れていることを問題視する。例えば、資格取得などを支援する教育訓練支援給付金制度は45歳以上を対象外とする。「年齢制限を撤廃するべきだ。母子家庭への支援策も、子どもが18歳以上になると薄くなる。女性は子を産むことでしか、その存在が認められないようだ」
単身世帯では、勤労世代(20〜64歳)の女性の約4分1、65歳以上の女性の約半数が、相対的貧困(標準的な所得の半分を下回る水準で暮らす)状態とされる。
2020年度の老齢厚生年金の月額平均受給額は、65歳以上で男性は約170000円で、女性が約109000円とは大きな差がある。低賃金の非正規労働に従事してきた女性が多く、正社員でも男女間で賃金格差があるためだ。
大矢さんは、多くの女性が年金受給額だけでは生活が成り立たないとして「社会には、女性は男性に扶養される存在という思い込みがある。特に40代前後の就職氷河期世代は非正規が多く、未婚率も高まっている。高齢女性の貧困率はさらに高くなっていく」と指摘した。
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