107 片仮名と平仮名はだれが発明したの
文字の発明者は字種によってくるところである。
世界の文字種に、その文字の発明を見るのは限られる。
言い換えれば、特定する誰かがいるわけではないが、そうだとする文字は、少ないということである。
一つの例に、ハングルがある。あるいは、ロシア文字のもとになるキリル文字である。
多くの文字は歴史の経緯のうちに人々の使い方により、勢力を得て文字として定着する。
絵文字からラテン文字が作られるとされるが、それは、いま言うところの、英文字としては長い歴史にさまざまな地域と言語のかかわりあいがある。
さて、日本語の仮名文字には漢字から工夫された、漢字の省文また省画としての表わし方、あるいは崩し字としての書き方による。
それがいつごろ、誰の手によるものかとなれば、日本人であるかどうかも推測して言えば、誰という名前を特定した人物はいないし、いつごろであるかとなれば、それを経文、漢文、あるいは和歌を記録した文書によって推定される。
すなわち、カタカナは漢文を訓読した貴族であり僧侶である、知識階級でもあろう。
漢字に添えて、漢文に書き加えられる形で日本語を記したものであるし、平仮名は和歌を記録する毛筆によって日本語発音を表記しようとして編み出されたもので、仮名文字のいずれも時代的には8世紀頃であるし、そして記録が見られるのは、カタカナは9世紀初頭、平仮名の淵源は8世紀以降になってからのことである。
日本大百科全書(ニッポニカ)
仮名文字
表音文字の一種。日本語を書き表すために、漢字について創案された独自の用法、および漢字を基にしてつくりだされた新しい文字の総称。前者は「万葉(まんよう)仮名」(または「真(ま)仮名」)といわれ、漢字の意味を捨て発音を採用した用法であり、後者については、漢字の全画を極度に草体化、簡略化した「平仮名」、および漢字の字画の一部だけを省略した「片仮名」の2種がある。「かな」は古く「かんな」と発音した。「かりな」の音転で、「かり」は「仮」、「な」は「字」の意で、漢字を「まな」(真字)といったのに対する語と解せられる。
[築島 裕]
日本大百科全書(ニッポニカ)
ラテン語は本来、ラティウムLatiumとよばれた七つの丘の地からおこったローマ人の言語だが、その形成に大きな影響を与えたのはギリシア語とエトルリア語である。ギリシア語は、文化的にはるかに優れた先進国の言語であり、ローマの文人のことごとくがこれを熟知し、その文学を範として、詩型に至るまでもそれと同じ型を踏襲したほどであるから、その影響は長くて深い。ラテン人は、深い内容をもつギリシア語の単語をラテン語に翻訳しようと苦心したが、それでも訳しきれずにそのまま借用した形が、近代の諸言語に数多く伝えられている。それらをみるとacademy, gymnasium, philosophy, rhythm, theaterなど学術的な用語も多いが、purple(ラテン語の形はpurpura)、machine(ラテン語m c〔h〕ina「道具」)、lanternなどのように、日常の単語も含まれている。これは文人の手を経たものではなくて、イタリア南部にはシチリアを中心に、非常に早くからギリシアの植民市がつくられていたために、そこで民衆が商売などを通じて直接借用した語彙(ごい)である。
ギリシア語ほど根深くはないが、エトルリア語とその文化の影響もラテン語にとって無視することはできない。ギリシア文字と同じフェニキア系のアルファベットで綴(つづ)られた万余の碑文を資料とするこの言語の全貌(ぜんぼう)はいまだ明らかでなく、その系統も確かではないが、この言語の話し手が、ローマの栄える以前に、その北部で有力な文化を誇っていたことは疑いない。ローマ史家も、前4世紀の末ごろにはエトルリア語の文書がローマの若者たちによって、後のギリシア語と同じくらい学習されていたと述べている。彼らはまずラテン人に、われわれの知っているラテン・アルファベットを供給した。
日本大百科全書(ニッポニカ)
ハングル
この文字は、1443年李朝第4代国王世宗の命によってつくられ、1446年に『訓民正音』という書物の形で公布されたもので、当時の朝鮮語の音韻を分析し、抽出された音素に該当する文字を人工的につくりだした、世界の文字史上画期的なものである。
キリル文字
紀元後9世紀、サロニカ(ギリシア)の伝道僧キリロス(別名コンスタンティノス)とメトディオスの兄弟が、ギリシア正教の布教のためにギリシア語の福音(ふくいん)書をこの言語に翻訳したが、その際キリロスがギリシア字母の大文字の形に基づいてつくったといわれる。
日本大百科全書(ニッポニカ)
文字
もじ
「もんじ」ともいい、言語を点や線の組合せで単位ごとに記号化するもの。
[日下部文夫]
運用
文明が広がると、文字を指標に勢力圏ができる。現在、漢文明圏のほか、ギリシア・ラテン圏、アラブ圏、インド圏がある。1980年の識字人口で推測すると、ギリシア・ラテン圏15億2469万、漢字圏11億4387万、インド圏3億2200万、アラブ圏8079万で、別に、わが国の仮名が1億を超え、隣国のハングルが5000万、さらにヘブライ文字、アルメニア文字、グルジア文字、南セムのエチオピア文字のように、1民族または1国に固有の文字の使用がある。それらのなかで仮名には、漢字との混用に特徴があり、ハングルは同じ混用から抜け出そうとしている。
アラビア文字はイスラム教とともに、ラテン字母は西ヨーロッパ文明とともにある。かつてアラビア文字を借用したトルコ語が、現在、トルコ共和国ではラテン字母、アゼルバイジャン共和国ではキリル字母と、分裂した表記になっている。モンゴル語も、モンゴル国ではキリル字母、中国の内モンゴル自治区では旧来のモンゴル文字と分かれている。勢力圏の対立は文字にあらわである。かつてインド系やアラビアの文字を使ったマレーシアやインドネシア、漢字圏に属していたベトナムも、いまは、ラテン圏に入っている。北朝鮮が漢字混用からハングル専用になり、韓国(大韓民国)も漸進的にハングル専用に移ろうとしている。中国では、固有の文字のない少数民族語も含めて、ラテン字母表記(ピンイン)が活用され、台湾の注音符号と見合っている。フィリピン諸語のラテン字母表記は、以前からだが、いまやミクロネシア諸島をはじめ、オセアニアのラテン字母表記も定着した。国際的には、万国郵便条約や万国信号書や国際標準化機構の諸国語翻字法など、つねにラテン字母を用具としている。理工科方面で、アラビア数字とともに、記号として標準化しているのも、ラテン字母とそれに交じるギリシア字母である。すでにこれらは人類の共有財産となり、現代を支えている。
なお、日本では文学的伝統や社会的実務などの基本を仮名が下支えしている。
[日下部文夫]
文字の発明者は字種によってくるところである。
世界の文字種に、その文字の発明を見るのは限られる。
言い換えれば、特定する誰かがいるわけではないが、そうだとする文字は、少ないということである。
一つの例に、ハングルがある。あるいは、ロシア文字のもとになるキリル文字である。
多くの文字は歴史の経緯のうちに人々の使い方により、勢力を得て文字として定着する。
絵文字からラテン文字が作られるとされるが、それは、いま言うところの、英文字としては長い歴史にさまざまな地域と言語のかかわりあいがある。
さて、日本語の仮名文字には漢字から工夫された、漢字の省文また省画としての表わし方、あるいは崩し字としての書き方による。
それがいつごろ、誰の手によるものかとなれば、日本人であるかどうかも推測して言えば、誰という名前を特定した人物はいないし、いつごろであるかとなれば、それを経文、漢文、あるいは和歌を記録した文書によって推定される。
すなわち、カタカナは漢文を訓読した貴族であり僧侶である、知識階級でもあろう。
漢字に添えて、漢文に書き加えられる形で日本語を記したものであるし、平仮名は和歌を記録する毛筆によって日本語発音を表記しようとして編み出されたもので、仮名文字のいずれも時代的には8世紀頃であるし、そして記録が見られるのは、カタカナは9世紀初頭、平仮名の淵源は8世紀以降になってからのことである。
日本大百科全書(ニッポニカ)
仮名文字
表音文字の一種。日本語を書き表すために、漢字について創案された独自の用法、および漢字を基にしてつくりだされた新しい文字の総称。前者は「万葉(まんよう)仮名」(または「真(ま)仮名」)といわれ、漢字の意味を捨て発音を採用した用法であり、後者については、漢字の全画を極度に草体化、簡略化した「平仮名」、および漢字の字画の一部だけを省略した「片仮名」の2種がある。「かな」は古く「かんな」と発音した。「かりな」の音転で、「かり」は「仮」、「な」は「字」の意で、漢字を「まな」(真字)といったのに対する語と解せられる。
[築島 裕]
日本大百科全書(ニッポニカ)
ラテン語は本来、ラティウムLatiumとよばれた七つの丘の地からおこったローマ人の言語だが、その形成に大きな影響を与えたのはギリシア語とエトルリア語である。ギリシア語は、文化的にはるかに優れた先進国の言語であり、ローマの文人のことごとくがこれを熟知し、その文学を範として、詩型に至るまでもそれと同じ型を踏襲したほどであるから、その影響は長くて深い。ラテン人は、深い内容をもつギリシア語の単語をラテン語に翻訳しようと苦心したが、それでも訳しきれずにそのまま借用した形が、近代の諸言語に数多く伝えられている。それらをみるとacademy, gymnasium, philosophy, rhythm, theaterなど学術的な用語も多いが、purple(ラテン語の形はpurpura)、machine(ラテン語m c〔h〕ina「道具」)、lanternなどのように、日常の単語も含まれている。これは文人の手を経たものではなくて、イタリア南部にはシチリアを中心に、非常に早くからギリシアの植民市がつくられていたために、そこで民衆が商売などを通じて直接借用した語彙(ごい)である。
ギリシア語ほど根深くはないが、エトルリア語とその文化の影響もラテン語にとって無視することはできない。ギリシア文字と同じフェニキア系のアルファベットで綴(つづ)られた万余の碑文を資料とするこの言語の全貌(ぜんぼう)はいまだ明らかでなく、その系統も確かではないが、この言語の話し手が、ローマの栄える以前に、その北部で有力な文化を誇っていたことは疑いない。ローマ史家も、前4世紀の末ごろにはエトルリア語の文書がローマの若者たちによって、後のギリシア語と同じくらい学習されていたと述べている。彼らはまずラテン人に、われわれの知っているラテン・アルファベットを供給した。
日本大百科全書(ニッポニカ)
ハングル
この文字は、1443年李朝第4代国王世宗の命によってつくられ、1446年に『訓民正音』という書物の形で公布されたもので、当時の朝鮮語の音韻を分析し、抽出された音素に該当する文字を人工的につくりだした、世界の文字史上画期的なものである。
キリル文字
紀元後9世紀、サロニカ(ギリシア)の伝道僧キリロス(別名コンスタンティノス)とメトディオスの兄弟が、ギリシア正教の布教のためにギリシア語の福音(ふくいん)書をこの言語に翻訳したが、その際キリロスがギリシア字母の大文字の形に基づいてつくったといわれる。
日本大百科全書(ニッポニカ)
文字
もじ
「もんじ」ともいい、言語を点や線の組合せで単位ごとに記号化するもの。
[日下部文夫]
運用
文明が広がると、文字を指標に勢力圏ができる。現在、漢文明圏のほか、ギリシア・ラテン圏、アラブ圏、インド圏がある。1980年の識字人口で推測すると、ギリシア・ラテン圏15億2469万、漢字圏11億4387万、インド圏3億2200万、アラブ圏8079万で、別に、わが国の仮名が1億を超え、隣国のハングルが5000万、さらにヘブライ文字、アルメニア文字、グルジア文字、南セムのエチオピア文字のように、1民族または1国に固有の文字の使用がある。それらのなかで仮名には、漢字との混用に特徴があり、ハングルは同じ混用から抜け出そうとしている。
アラビア文字はイスラム教とともに、ラテン字母は西ヨーロッパ文明とともにある。かつてアラビア文字を借用したトルコ語が、現在、トルコ共和国ではラテン字母、アゼルバイジャン共和国ではキリル字母と、分裂した表記になっている。モンゴル語も、モンゴル国ではキリル字母、中国の内モンゴル自治区では旧来のモンゴル文字と分かれている。勢力圏の対立は文字にあらわである。かつてインド系やアラビアの文字を使ったマレーシアやインドネシア、漢字圏に属していたベトナムも、いまは、ラテン圏に入っている。北朝鮮が漢字混用からハングル専用になり、韓国(大韓民国)も漸進的にハングル専用に移ろうとしている。中国では、固有の文字のない少数民族語も含めて、ラテン字母表記(ピンイン)が活用され、台湾の注音符号と見合っている。フィリピン諸語のラテン字母表記は、以前からだが、いまやミクロネシア諸島をはじめ、オセアニアのラテン字母表記も定着した。国際的には、万国郵便条約や万国信号書や国際標準化機構の諸国語翻字法など、つねにラテン字母を用具としている。理工科方面で、アラビア数字とともに、記号として標準化しているのも、ラテン字母とそれに交じるギリシア字母である。すでにこれらは人類の共有財産となり、現代を支えている。
なお、日本では文学的伝統や社会的実務などの基本を仮名が下支えしている。
[日下部文夫]