読書など徒然に

歴史、宗教、言語などの随筆を読み、そのなかで発見した事を書き留めておく自分流の読書メモ。

うそのツイート投稿で刑務所行きに?

2012-11-09 09:05:35 | 暮らしの中で
wsj日本版から

短文投稿サイトのツイッターでうその情報を広めたとして起訴されることがあり得るのだろうか。大型ハリケーン「サンディ」が襲来した際、ツイッターのユーザーである@ComfortablySmugはうその情報を広めた。例えば、ニューヨーク証券取引所(NYSE)が「3フィート(約90センチメートル)を超える高さの水につかっている」とか、アンドリュー・クオモ・ニューヨーク州知事が「マンハッタンで身動きが取れなくなり、安全な避難所に連れて行かれた」などといったツイートを投稿したのだ。

 ツイートはニュースを広めるという意味でプラスの効果を発揮してきた。しかし、虚偽のニュースを意図的に投稿することは、そもそも法的に問題になるのだろうか。法律専門家たちは、問題になり得るが、それにはいくつかの法的なハードルがあると指摘する。

 デューク大学のスチュアート・ベンジャミン教授(法学)は「これは混雑した劇場で誰かが偽って『火事だ』と叫ぶことの現代版だ」と述べた。これは、1919年の最高裁判決でオリバー・ウェンデル・ホームズ判事が示した有名な説明を引用したものだ。最高裁はその際、この種の発言は直ちに危険をもたらすものであり、言論の自由などを規定している合衆国憲法修正第1条によって保護されないとの判断を示した。

 ニューヨーク州は、他の多くの州と同様に、人々が特定の状況下でうその報告をするのを州法で禁じている。こうした州法は、警察にうその報告をするといった行動を訴追する際に最も多く用いられるが、うそのツイートにも適用できる、と指摘する憲法修正第1条の専門家もいる。

 ニューヨーク州の法律は「人々の不安や不便さが結果的に生じる公算が小さくない(not unlikely)状況で、破局ないし緊急事態が発生したという虚偽の報告ないし警告を発したり広めたりする」ことを罪だと定めている。 

 ニュースサイトの「バズフィード(Buzzfeed)」は、うそを報告した@ComfortablySmugのアカウントユーザーが、下院議員候補クリストファー・ワイト氏(共和)の選挙対策本部長であるシャシャンク・トリパシ氏(29)であると暴露した。これを受け、ニューヨーク市議会議員のピーター・F・バロン氏はマンハッタンの地方検事に対し、同氏を起訴するよう求めた。トリパシ氏はその後、選対本部長を辞任すると同時に、「無責任で不正確な」ツイートをしたことを「謙虚に、そして無条件に」謝罪するとツイートした。トリパシ氏にコメントを依頼したが、回答はない。同氏のNYSEに関するツイートは、ウォール・ストリート・ジャーナルを含む複数の報道関係者にリツイート(再投稿)された。 

 ワイト氏は声明の中で、トリパシ氏は過去7カ月間、選挙運動に関わっていたが、「彼がそのような行動をする人物だとは全く思っていなかった」と述べた。

 地方検事のオフィスにコメントを要請したが、回答はない。起訴手続きは行われていない模様だ。 

 ニューヨークの法律を適用して起訴する場合、連邦最高裁が今年示した画期的な判決、つまり「自分は戦争の英雄だ」とうそをつくことが犯罪だとする法律を無効にした判決(U.S. v. Alvarez)に立ち向かわなければならないだろう。最高裁は、うそをつくことは、多くのケースにおいて保護されるべき言論だとの判断を示し、それがいかに不快に思えるようなものであってもそうだと指摘した。ただし、一部のうそは明確に処罰対象とされる。例えば偽証がそれで、公式の問題について政府にうそをついたり、政府を代表して発言しているかのように話すことだ。 

 カリフォルニア大学ロサンゼルス校のユージーン・ボロク教授(法学)は、最高裁のAlvarez判決が出たにもかかわらずニューヨークの州法が有効で適用可能との見方を示した。ただし、同時に同法の文言の一部が不明確過ぎており、逆に訴えられて敗訴する恐れがあると述べた。同教授は、先の戦争の英雄に関するAlvarez裁判で、スティーブン・ブライヤー最高裁判事が「犯罪の行為ないし破局」についてうそをつくことを禁じる法律の合憲性を認めていると指摘した。 

 同教授は「わたしは、今回のツィートの一件にAlvarezと同じ問題が存在するとは思わない。あいまいさの問題が潜在的に存在するのだ」と述べ、それはニューヨーク州法の文言、例えば「公算が小さくない(not unlikely)」という文言だと指摘した。 

 一方、前出のデューク大学のベンジャミン教授は、ニューヨーク州法に異議があるとすれば、それは、人を警戒させるようなツイートが、政府に虚偽の報告や警告を送るのと同じか、あるいは、類似した効果を持つかどうかに左右される公算が大きいと述べた。政府に対するうその報告や警告は、人を驚かすようなツイートよりも処罰対象になりやすい。同教授は、裁判所がこの2つが同じでなかったと判断すれば、被告側弁護人は、うそのツイートを罰する法律は憲法に違反して適用が広範すぎるとの強力な主張ができるだろうと述べた。 

 テキサス大学のデービッド・アンダーソン教授(法学)はニューヨーク州法について別の問題を指摘した。同教授は「この法律を適用してトリパシ氏を起訴するというのであれば、これをなぜ報道機関の起訴に使えないのかを説明する明白な理由がないことになる」と言い、「残念ながら報道機関は、(ニューヨーク州法にあるように)人々の不安や不便さが結果的に生じる公算が小さくない(not unlikely)状況で、犯罪、破局、それに緊急事態が差し迫っていると報じる場合が時々ある(そして実際には空振りに終わる)からだ」と述べた。

 トリパシ氏を起訴するよう求めた前出のバロン議員は元検事でもある。同議員は、トリパシ氏を実際に起訴した場合、検察側が困難に直面することを認めた。同議員は、検察側は同氏が「話をでっち上げて物議を醸そうとした」ことを証明しなければならないからだと語った。

 同議員は「今回のように、多くの人々が情報を入手する手段としてツイッターが使われ始めている。ソーシャルメディアは概して良い仕事をした」と述べながらも、「(トリパシ氏のように)理由もなく人々を怖がらせようとする人が出てきたのは残念だ」と話した。

記者: Joe Palazzolo