By BIANCA BOSKER
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ボンジュール、チャイナ。河北省にそびえる「エッフェル塔」
wsj日本版から
北京で建設中の「望京Soho」は、3棟の曲線的なオフィスビルからなる複合施設だ。世界的に著名な建築家、ザハ・ハディッド氏が設計したこの施設はいま、スモッグに覆われながらゆっくりと空に向かって伸び続けている。一方、同施設の関係者によると、そこから約1600キロ南でもハディッド氏のものとそっくりな2棟のビルが建設されているという。
そのビルの開発会社は、設計を模倣してはいないと否定し、自社の公式マイクロブログにプロジェクトのスローガンを掲げた――「決して模倣するつもりはない。超越したいだけだ」このスローガンは、中国にはびこるすべての模造建築物に当てはまるかもしれない。中国は自らの繁栄を示すため、模倣に手を染めてきたのだ。
近年、中国の一部の不動産デベロッパーや、さらには政府機関までもが、西洋の有名建築物を次々と精巧に模倣している。モデルにされているのは、ユネスコの世界遺産登録地から、ル・コルビュジエの名作、マンハッタンの摩天楼までさまざまだ。
フランスのパリ、米カリフォルニア州のオレンジ郡、スイスのインターラーケン、オランダのアムステルダムは、いずれも中国に瓜二つの場所が存在する。
浙江省杭州市に造られた「水の都」ベネチアには、ゴンドラが行き交う運河やサン・マルコ広場、ドゥカーレ宮殿がある。
広東省恵州市のデベロッパーは昨年、オーストリア北部の町ハルシュタットのレプリカを披露した。丸石を敷き詰めた街路に、歴史的教会、歩道沿いのカフェまでをも再現している。報道によると、ハルシュタットの住民は、中国人関係者が現地を訪れ建物を調査していたと知り驚いたという。
中国人建築家で元マサチューセッツ工科大学建築学部長の張永和氏によると、最も模倣の多い建築物は米ホワイトハウスだ。シーフードレストランから一戸建て住宅、それに広州、無錫、上海、温嶺、南京の政府庁舎まで、あらゆる建物のモデルにされている。
こうした「複製建築」は、西洋への迎合でもなければ、「自国の植民地化」を意味するものでもない。中国の技術的発展や豊かさ、威力をたたえるモニュメントとして建造されているのだ。中国人は、国際的覇権への躍進と憧れを表す力強いシンボルとして、西洋の有名建築物に飛びついた。
こうした欲求は、中国の建築における数千年来の伝統に深く根差したものである。近代以前の中国では、皇帝は自身の領土内に敵の領土を再現することで支配力を誇示した。広大な庭園に遠隔地から集めた動植物を配し、既知の宇宙の精巧な複製を創造、所有できる力を見せつけることで、支配者の権威を強めた。
中国の皇帝はまた、敵に対する優位を示すために模倣建築物を利用した。紀元前3世紀、秦の始皇帝は敵対していた6つの王国を征服した記念として、それら王国の宮殿の完全なレプリカを首都に建造するよう命じた。今日の中国は、エッフェル塔やクライスラービルディングを複製し、欧州と米国を自国内に再現することで世界に支配力を顕示している。
模倣に対する中国人の伝統的な考え方は、現在のトレンドにも反映されている。米国人は模倣を軽蔑だと見なすが、中国人は昔からこれをより寛容で繊細な視点で捉えている。模倣は技術力や卓越性の証と見なされることもある。中国著作権局の局長は、模倣を「文化的創造性」の象徴であると称賛すらしている。
中国経済の拡大と欧米経済の衰退を見ていると、紫禁城がホワイトハウスに取って代わり、誰もがうらやむステータスシンボルになる新時代の到来も予感される。すでに中国国内には、ベルサイユ宮殿そっくりの建物の隣に、中国の伝統的な建築物を模した建物が現れ始めているところもある。
北京の清華大学で建築学教授を務めるZhou Rong氏は、中国国民は「『私たちにはお金がある。たくさんのお金がある。西洋のライバルたちよりも豊かだ』と認識するようになった」と語る。そしてその結果、中国的なスタイルへの関心が新たに生まれた。西洋人は、真似されることに文句を言わずに中国がわれわれをモデルとしなくなったときのことを心配した方がいいかもしれない。
筆者のビアンカ・ボスカー氏は『Original Copies: Architectural Mimicry in Contemporary China(オリジナルコピー:現代中国における模倣建築)』の著書。本記事は同書をもとにして書かれた。