小川洋子さんの「ミーナの行進」を読み終わりました。
素敵な挿絵でしょう!?
この挿絵のように寓話を思わせる物語でした。
はじめは小さなエピソードだったものが、だんだん重なり層をなして感動となって押し寄せてきます。
一気に読むのがもったいなくて、はちみつをなめるように、少しづつ読みました。
事情により芦屋の洋館の住人達と暮らした、朋子という中学1年生の1年間が描かれています。
朋子の他に登場するのは
・カバのポチ子に乗って通学する病弱で利発な小学6年生のミーナ。
・ダンディーでちょっと秘密のある伯父さん。
・こっそりお酒を飲み、たばこを吸いながら、活字の誤植を探し続ける伯母さん。
・50年以上も前にドイツから日本にお嫁にきたおばあちゃん。
・懸賞はがきと練乳が好きな、家政婦さんというより一家の仕切り屋の米田さん。
・スイスの寄宿学校から夏休みに帰ってきたミーナの兄の龍一さん。
・ポチ子の飼育係の小林さん。
・図書館の司書のとっくりさん。
・毎週水曜日に「フレッシー」なる清涼飲料を届ける運送係の青年。
・カバのポチ子やお墓に眠っている動物たち。
・コウモリおじさん。
人物の一人一人、一匹一匹が深く描きこまれています。
私は世代が近いせいか、やけ酒を飲みながら、誤植を探し続ける伯母さんの胸中に思いを馳せました。
かすかに誰かの死の予感が物語に漂っていて、だからこそ小さな日常の物語が濃く感じられます。
登場人物の二人が死ぬのではないかとバクバクした場面があって、こんなに本を読んでバクバクしたのは久しぶりでした。
写真の挿絵はミーナが集めているマッチ箱のラベルの絵です。
ミーナはその絵から物語を作り朋子に聞かせます。
閉ざされているからこそ、はばたくミーナの空想と想像の力は圧巻です。
・シーソーと像の物語
・綻びた羽を繕う天使の物語
・三日月に座っている二つのタツノオトシゴの物語
そのマッチ箱のラベルの物語は、本体であるストーリーにマトリョーシュカのように埋め込まれていて、それだけ読んでも面白いです。
時は1972年、ミュンヘンオリンピックの年に突然二人の少女はバレーボール日本代表に夢中になります。
オリンピックの夏の様子は、そのころにあった実際の事件や出来事も絡めて書かれていて感慨深いものがありました。
ミーナが書いた猫田にあてたファンレターを涙失くして読めなかった私です。(号泣)
今更ながら言葉の力は無限だと思います。
有限の人間の時間の中で、無限なる世界を紡ぎだす言葉たち。
じわっとくる描写に、最初は付箋を貼っていましたが、めくるたびに続くので付箋を張り付けるのをやめました。
師走の慌ただしいなかで、なつかしい夕日に包み込まれるような物語に出会えて、しばし現実を忘れさせてもらえました。
一人で静かに本を読む時間が、どんなに必要なことかって、つくづく実感した本でした。
小川洋子さん、ありがとう。