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極東極楽 ごくとうごくらく

豊饒なセカンドライフを求め大還暦までの旅日記

アロマは危険な匂い

2012年11月15日 | デジタル革命渦論

 

 

    海の近くに住むのは、すてきだ。
    船が、岸辺ぎりぎりのところを
    通り過ぎていく。手を伸ばせば、
    ここにはえている柳の枝を、折って
    いけそうなくらい。馬たちは
    いきおいよく、水辺を駆けていく。
    船乗りたちは、その気にさえなれば、
    投げ縄をつくって、馬を一頭
    いけどりにして、船に乗せていくこともできそうだ。
    東洋への長い航海のあいだの、
    良き連れ合いになることだろう。
    うちのバルコニーからは、馬や、柳や、二階建ての
    家々を見つめている船乗りたちの顔がよく見える。
    僕にはわかる。ハルコニーから手を振るひとりの男を、
    その家の前に停めてある赤い車を、目にしながら、
    彼らの考えていることが。
    彼らは僕を見て、こう思うのだ。おれたちはなんて
    ラッキーなのだろう。なんだかんだいって、今こうして、
    アジアに向かう船の甲板にたっているおれたちは、なんという
    不可思議な幸運にめぐまれたのだろう、と。
    あちこちで半端な賃仕事をつづけ、
    倉庫の人夫をやったり、沖仲仕をやったり、
    あるいはドックで、仕事をもとめてごろごろしていた歳月は、
    どこかにわすれられてしまう。そんなもの、実際に
    おこったとしても、誰かべつの、そのへんの
    若いやつの身におこったことさ。

                     甲板の男たちは、
    僕に向かって手を振りかえす。
    それから手すりを握って、じっとそこに
    立っている。船はゆっくりと行き過ぎる。馬たちは、
    樹木の蔭から、日なたにでてくる。
    彼らはまるで彫刻の馬みたいに立っている。
    通り過ぎる船を見ている。
    波は船にくだけ、
    浜辺にくだける。そして馬たちの
    こころの中、それはいつも
    いつも、そこはアジアなのだ。

 

 
 

                                                   レイモンド・カーヴァー“Asia
                              村上春樹 訳 『アジア』
 

 

【アルマは危険な匂い】

感性工学という言葉が使われるようになったのは1990年代半ば。日本感性工学会が1998年に
設立されるなど認知度は高まりつつあった。感性工学が対象とする領域は広く、ある人は、
感性検索という用語のもとにファジー演算を用いたシステム一般をイメージするし、デザイ
ン支援をイメージする人もいる。ところで、感性という言葉は、もともと哲学用語で、理性
や悟性と対立する概念で2番目の意味であった「物事に感じる能力=感受性」といった用法
が定着しつつある。さて、感性検索研究の単純な例としては、映像データに意味的データを
付与するものがある。意味的データとしては形容詞が使われる場合が一般的であるが、形容
詞そのものがどのような意味空間を形成しているか想定するかによって結果が異なる。「美
しさの経済価値」のように、主観を排して一般的に値を求めることがむずかしいテーマも含
まれ、橋などの公共建築物に美しさのためのコストをいくらまで支払ってよいかという問題
は現実に存在し、こうした問題に答えるための学問と考える立場もあるだろう。

特に、嗅覚と味覚を工学的に表現することはむずかしい。視覚は、電磁波である光を認識す
るし、聴覚では音波といわれる空気の振動を認識する。どちらも物理的な波動を認識する。
また人間の認識も物理量に比例して、大きい音は大きく聞こえるようになっている。一方、
嗅覚と味覚は、物質の把握が必要である。これらの感覚は、もともと生体にとって有毒であ
るかどうかを判断するための機能が進化してきた。これは(1)非線形性(三原色の重合せ
で視覚が表現できるようには、味覚や嗅覚は要素還元できない)(2)相互作用(二つのう
まみ成分を同時に摂取すると個別摂取の場合に比べてはるかに大きいうまみを感じる、鼻が
つまっていると味がしないなど感覚内および感覚間で相互作用が存在する)(3)ゼロの表
現(匂いがない状態を作り出すには匂い物質を除去する必要があり技術的にむずかしい)と
いった難しいさだ。

※『においと脳科学』についてはこのブログ『ミストファウンテン・ランプ』に掲載。

さて、カリフォルニア州オークランドのデジセンツ社(DigiScents http://digiscents.com
/blog/
)は、パソコンに接続して匂いを発生させるiSmellという装置を開発した。これは、
カートリッジに格納されている128種類の「基本匂い分子」の組合せで、インターネット経由
で匂いを表現できるというものである。DigiScents社だけでなく、TriSenx社(http;//www.
trisenx.coln)、AromaJet社(http;//www.aromjet.eom)、Senselt社(http:/senseit.com)
なども同様の取組みを行っていたが、現在ではこのような製品が拡販されているという情報
を聞目されない?(ようだ)。ここまでは『デジタル革命渦論』の考察である「デジタル&
バイオ」の感性工学に関しての掲載部分なのだが、ここからは日本でデジセンツ社のように
128種類「基本匂い分子」の組合せで匂い表現できるものはないかという作業に入る。


特開2003-343870 

それによると、一旦デンソの新規考案(特開2003-343870 香り発生装置/上図)で「デジセ
ンツ
社、フランステレコム社から、加熱した金属板の表面に液体状の香り源を滴下して気化
させ
それを送風装置により受け手側まで伝達する香り発生装置が、アロマジェット社からは
液体
香り源を噴霧させる香り発生装置は、液体状の香り源を使用しているため、傾斜・振動・
置させた場合、液体の漏洩が生じる可能性がある。また、液体状の香り源から自然揮発す
可能性があり、寿命も極めて限定されている」として否定され「複数の固体香り源を個々
収納する各空間から制御揮発させる装置」が提案されたものの、日立製作所の新規考案
特開2009-265453 視覚情報と、融合した嗅覚情報提示装置/下図)で 「液体の香り源に比較
し、固体の香り源から一定強度の香りしか発生させることができず、香り強度を任意に変化
させることができなかった」と否定されるに至る。

 特開2009-265453

アロマセラピの流行はどうやらこの日本でも定着しつつあることは、毎日のテレビコマーシ
ャルから少しは理解できるが、視覚情報に合わせて、固体香り源からの香りの強度、発生量
を任意に変化させることにより、嗅覚情報の提示においてより臨場感のある情報を伝達する
ことができるシステムが普及するかどうかは、一旦停滞下火になったかのように見えるが、
再び開発競合期に突入する前段階のように感じる。そうすると、毎度くどいようだが、そう
すると嗅覚情報と視覚情報とが融合する空間が実現し、デジタル革命の基本特性の第1、6
則のシームレスとエクスパンションが働いたということになる。しかし、ここで楽観的な予
測はだめかもしれない。つまり、脱臭という機能が働かないと前の匂いが残り新たな匂いと
混じり合う弊害が起きる。実際、前述したデジセンツ社のデモで異臭を放っていたといこと
が報告されていた。それではどうすればよいか?1つは換気・排気、2つめは脱臭・消臭。
前者は設備コストが増える。後者は、特定、電磁波や化学物質、あるいは物理吸着というに
なるがいずれも厄介な話になりそうだ。消えるトナーのように消えるアロマも1つの選択肢
だろうが、これは安全性も含め検討がいる。つまりは「アロマは危険な匂い」ということに
なりかねない。

 

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