日々の恐怖 4月5日 黒いカーテン
これは自分が体験した中で一番怖いガチの実話です。
「 おい!暇だし肝試ししようず。」
それはこの一言から始まりました。
今から6、7年くらい前の自分達は、週末にやることがなかったら肝試しに向かうような暇人全開な生活を送っていました。
その日も台風が迫っていたにも関わらず、そんなものはお構いなしに現地へと向かいました。
その日に向かったのはA県のOという地区にある廃墟、まあ自分を含めたA県のホラースポット好きの人間なら間違いなく知ってるメジャーな場所です。
車を一時間ほど走らせ現地に到着、自分、A、B、C、Dの五人は早速中へと侵入しました。
廃墟の中は重く暗く、夜なのと近くに街灯が無いのとを差し引いてもお釣りがくるくらいの雰囲気です。
ですがそんな事は意に介さず自分達は進んで行きました。
ちなみに以前一度来たときは地下の方だけを見て回ったのでこの時は屋上を目指す事になりました。
一階・・・。
二階・・・。
歩を進めるとようやく目的の場所らしき所に到着しました。
懐中電灯で照らすと、そこは一面の黒!黒!黒!
「 ああ、ここだな。」
わざわざ口に出さなくてもその場にいた誰もが理解していたのでしょうが、自分は思わず口走っていました。
そこは二階と三階の間の踊場で、絨毯は焼け焦げ天井や壁は煤けていて、言うなればそれは焼死体の発見された現場の見本のような状態になっていました。
自分達がこの日この廃墟に向かった理由はこれでした。
“ 1ヶ月ほど前にここで焼身自殺をしたヤツがいる。”
という話を聞きつけたからです。
ソースは友達Aの会社の先輩がテレビだか新聞だかで見た、という微妙なものでしたが実際目の前にその光景が広がっているのですから、まず間違いないはずです。
しかし、いざ実際に焼死体のあった場所を見てみると、さすがに不気味さというか物悲しさというか、様々な感情が生まれてきました。
それと、同時に謎の悪寒・・・。
自分「 なんか寒い・・・。」
B「 俺も思った。」
D「 霊がいる場所って寒くなるっていうよな・・・。」
不思議と五人のうち三人が同じ悪寒を感じていました。
しかしCの、
「 いやいや、台風近づいてるせいで風めちゃくちゃ強いからだろ?」
という突っ込みで、気に現実に戻されました。(笑)
考えてみりゃその廃墟は海沿いの高台にあり、潮風がモロに当たる場所、加えて部屋によっちゃ窓ガラスも割れてて風が通り抜け放題だしそりゃ夏場でも寒いわけです。
Cの一言で緊張が緩んだのか、その後は恐怖とは無縁な感じで建物の中を巡りました。
三階 ・・・。
「 階は特に見るべき場所もないからスルーして屋上に向かうか?
という話になりました。
しかし、廊下を歩いていると全員の視線がある部屋の入り口に集中しました。
『 ←地獄 』
ドアの横の壁にこの部屋を指してこう書かれていたんです。
まあぶっちゃけ廃墟特有の落書きなわけですが、なぜか誰も一向にドアノブに手が伸ばしません。
Aに至ってはポタポタと汗を流して呼吸が荒くなる始末です。
言葉にして表すのならば、根源的恐怖、というのが自分が感じた感覚の中で一番近い感覚でした。
とりあえずAが過呼吸になりそうだったので一時撤退、車の中で作戦会議兼反省会です。
自分「 A、大丈夫か?」
A「 おー、なんとか。」
D「 なあ、もう帰んねー?」
B「 あの部屋気になんねーのか?」
C「 でもAがその状態じゃ帰るしかねーだろ。」
なんというか、五人が五人、同じ感覚を感じているのが不思議で仕方ありませんでした。しかも霊感なんて皆無な五人がです。
結局ビビりな自分達は、とりあえずこの日は帰宅、次の日の昼にまた来る、という話になりました。
次の日です。
A「 昨日はわりーな、色々迷惑かけちまってさ。」
自分「 気にすなー、行くぞー。」
集合場所に最後に来たAを車に乗せ、再び廃墟へと向かいました。
地元を出発して一時間、廃墟の近くまで来たところで、
B「 ん?ん~?」
と助手席に座るBが気の抜けた声を出しました。
「 どうした?」
と聞くと、
「 廃墟が変だ。」
と言い出しました。
車を停め、みんなで廃墟を見てみると、
「 ああ、あれか、昨日の違和感の原因は・・・。」
一目でわかりました。
自分達は高台にある廃墟を斜め下から見ていたのですが、ある一室にカーテンがしてあったのです。
まあカーテンのしてある部屋ならいくつもあったのですが、他の部屋は白っぽいようなカーテンなのに対し、その部屋だけは黒いカーテンでした。
直感的に、というかそんな大層な感覚を持ち合わせていなくともあの部屋には何かある、と感じるのは当然の成り行きでした。。
廃墟に着き、一階を昇り、二階を抜け、三階の例の部屋へとたどり着きました。
しかしいざ部屋の前に立つといくら明るい昼間とはいえ昨日の感覚を思い出してしまい手をノブに伸ばす事ができません。
B「 どうする?ってか開けるしかねーんだよな。」
D「 かまた寒気がする・・・。」
自分「実は俺もなんだよな。
C「 だからそれは台風のせいだと・・・・。」
A「 いいぜ、昨日は迷惑かけたしまず俺が先に入ってみる、少し待ってろ。」
Aはそう言うと、何の前置きもなくいきなりドアノブを捻り中へと入りました。
そして数秒後、
「 うあぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
というAの叫び声。
それを聞いて自分達も中へと入ると、
A「 お前ら、アホス!」
はい、騙されました。
A曰く、
“ いざ決死の覚悟で入ったもののびっくりするぐらい何もなかったので逆に自分達をビビらせよう。”
と思ったらしいのです。
とりあえず自分達はAに鉄拳制裁を喰らわし、
「 アホらしくなったので撤収するか・・・。」
という話になりました。
しかし、Aが一言、
「 でもカーテンないんだよな、この地獄って書いてある部屋さ。」
暑さによる汗を出す汗腺が、嫌な汗を出す汗腺に変わる瞬間を理解できたのは恐らく生まれて初めてでした。
確かにこの部屋は窓が割れていてカーテンは既にボロボロ、強風に煽られてバサバサと音を立てています。
思えば自分達はこの部屋ばかりに気を取られすぎていたんです。
まだ奥に部屋が二つ残されていたのにインパクトに釣られてそこで三階の探索を止めていました。
そして外から見た位置関係だと黒いカーテンの部屋はこの部屋でなければ隣です。
迷う事なくすぐに向かいました。
今考えれば、もう少し冷静に物事を判断して行動すればよかったと反省しています。
なぜあれがこうなのか、どうしてああなっていたのか、そういう事をきちんとある程度の想像力を以てして事前に考えていれば、あんな事態にはならなかったはずですから。
“ ジジジジジジ、ミーンミーンミーンミーン、ブブブブブブブブ・・・。”
自分「 えっ、蝉?」
部屋を開けた瞬間の感想がそれでした。
外の強風の中鳴いているアブラゼミがそう思わせたのか、ビーンビーンと羽音を鳴らす部屋の中の虫がそう思わせたのか、それがまず頭に浮かびました。
突如、黒いカーテンは無くなり、外からの光が中で飛び交う何百という虫を不気味に照らし出しました。
そして次は猛烈な吐き気です。
酷い腐敗臭により口腔内には酸っぱい液体が上ってきました。
“ 直感や霊感、寒気や悪寒なんてどうでもいい!とにかくこの場を離れたい!”
もうそれしか頭の中にありませんでした。
自分達はすぐにドアを閉め、廃墟から出ました。
そして警察に連絡、当然色々聞かれましたが自分達は発見者として調書を取らされたくらいで特にお咎めはありませんでした。
自分達はすぐにドアを閉めたので部屋のどこに腐乱死体があったのかはわかりませんが、見てしまったらトラウマになっていたと思います。
そしてドアを開けるまで腐敗臭に気づかなかったのは、台風による強風が原因だったようです。
黒いカーテンは、窓ガラスに群がっていた腐乱死体に湧いたウジが孵化したハエの大群でした。
あれはもう二度と見たくありません。
ほんとね、自分達の霊感の無さを実感しましたよ。
隣の部屋が修羅場になってるのに、たかが地獄って文字にいらない不安を煽られてその部屋に恐怖するなんてね。 (笑)
でも、こんなとき、もし黒いカーテンを見つけたら気をつけてくださいね。
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