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大峰正楓の小説・日々の出来事・日々の恐怖

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日々の恐怖 9月9日 穴

2013-09-09 18:06:18 | B,日々の恐怖




     日々の恐怖 9月9日 穴




 当時祖父が住んでいたのは、へんぴな山麓の農村だった。
住んでる人が少ない上に、その村から外に出る事も無いから、村一つで1個の大きな家族みたいな感じだった。
そこで当時小学生だった祖父は、肝試しとか鬼ごっことかして育っていった。

 そんなある日、祖父の親友Kの家に新しく弟か妹ができるみたいな話を、そのKから聞いたらしい。
祖父も喜んで、また家族が増えると心の底から祝ってやった。
Kの話だと、もう弟の場合も妹の場合も名前は決まってるらしい。
 親にその名前の由来を聞いたら、

「 大きなしあわせを作るように。」

とかのもっともらしい事を言われた後に、

「 ずーっと前から決まってたんじゃあ。」

みたいな事を言われたらしい。
 当時の祖父はよくその意味がわからなかったらしいが、なんとなく幸せそうな雰囲気だって事は分かったらしくて、ただただ笑っていたらしい。

 それで、Kに下の子ができるって事が周知の事実になったある日、Kが祖父とその親友Mに、神妙な顔で相談を持ちかけてきたらしい。
どういう事かというと、

「 父ちゃんが毎晩遅くに何処かにフラフラ歩いてってしまう。
いくら聞いてもどこに行くのか教えてくれないし、すごく遅くに帰ってくる事もある。」

という内容だった。
祖父とMは、

「 お産が迫って色々忙しいんだろう。」

みたいな事を言ったが、Kは必死な顔つきで泣きそうになりながらも、

「 違う。
なんだか行って帰ってくる時の父ちゃんは怖い。
なんだかわからないけど凄く不気味なんだ。
他の大人に話しても取り合ってくれないし。」

と主張する。
 事態はわかったけど、どうした物か祖父とKが頭をひねらせていると、Mが突然思いついた様に言い出した。

「 それなら夜俺らで集まって、Kの父ちゃんの後についてったらいいじゃん!」

Kも祖父も、

「 えっ・・・・。」

って感じだったらしい。
 夜に出歩くという事もさる事ながら、なんだか不気味な雰囲気が漂う提案である。
Kが返事に困っていると、Mが、

「 なんだ、怖いんか?
今度お兄ちゃんになるんだろ?」

という風に、兄というワードをちらつかせる。
 するとKはすぐに、

「 わかった!行きゃええんだろ!」

と了承したらしい。
こうなると祖父もしぶしぶ参加せざるを得ない。

 深夜、Mは祖父の家に、Kと祖父はMの家に泊まりに行くと嘘をついて、Kの家の前に集まった。
しばらく三人が物陰から様子をうかがっていると、なるほど、Kの父がフラフラと何処かへ誘われていく。
すぐに三人は後ろに続きだした。

 真夜中、月の他に灯りもない道をフラフラと歩くKの父。
だんだん民家もまばらになり、やがて闇と無音が辺りを包んだ。
Kはもう泣きかけで、必死に祖父にしがみ付いて歩いている。

“ いつまで歩くんだ、俺らは家に無事に帰れるのだろうか・・・。”

そんな考えがだんだん濃くなり、祖父がとうとう“帰ろうや”と言おうとした時、Mが小声で、

「 隠れろ!」

と叫んだ。
 一番視力の良いMに言わせると、Kの父は雑木林の中の物置のような小屋に入っていったらしい。
三人は岩陰から物置を見守る。
すぐにKの父は物置から出てきて、またフラフラと帰途を辿っていった。
 Kの父が完全に見えなくなったのを確認すると、Mが立ち上がり、

「 よっしゃ、帰り道は覚えた。
川二回渡って右だ。」

と言いながら、持参した油と布切れとそこいらの枯葉を枝に巻きつけて、小型たいまつみたいな物を作った。
 それに着火すると、なかなか辺りは明るくなる。
Kはいくぶん安心したようだ。
祖父も暗闇から開放されて安堵していると、すぐにMが言った。

「 ほれ、早くあの小屋覗くぞ。
これすぐに火ぃ消えちまうから。」

祖父もKも、その一言に相当びっくりして首を横に振る。
Mの神経が信じられなかったという。
 しかしMは、また、

「 お兄ちゃんがそんな弱虫だと、下の子はかわいそうだな。」

みたいな事を言ってKを挑発する。
仕方なくKも祖父も建物に入ることにした。

 古い木材でできている軋む扉を開けて中に入る。
そこには穴があったらしい。
小屋の広さはさほどしゃないが、床に一部分大きな穴が空いている。
木材が腐って空いたような穴じゃなく、完全な円形の穴だ。
床を貫いて、下の土にも穴は続いている。
 覗いてみると、深く、暗い。
この時点でKも祖父も相当不気味な物を感じ取って、ただただ身をよせあって震えている。
すると、Mが突如大笑いしだした。
 Kも祖父も状況が飲めずにいると、Mはなおも笑いながら言う。

「 こいつは便所だK。
四隅に紙が重ねてあるだろ?
そいつで尻をふくんだ!」

 祖父も始めはポカンとしていたが、やがて笑い出した。
なんで便所をこんなに怖がっていたんだ、と。
 Kはただボーッとしている。
Mが穴をまたいで糞をするジェスチャーをした途端、Kが口を開いた。

「 違う、これ。便所じゃないよ。
壁、おかしいもん。」
「 え?」

と祖父もMも壁を振り返る。
そして凍りついた。
壁にはびっしり紙が貼られていた。
四方全部。
しかし、所々隙間はある。
そしてそれには、それぞれ祖父の村の、村人の名前が書かれていた。
三人はただ壁を眺める。
 不意にMが、

「 あっ!」

と声を漏らした。
 Mが指差した紙をみると、そこにはMの名前が書かれていた。
Mより年下の子どもの紙が、僅かにMの名前の紙に重なっている。
すぐにKの紙も、祖父の紙も見つかった。
Kの母の紙も。
Mの父の紙も、全部。
 立ち尽くしている祖父とMをよそに、Kは隅の紙を手にとる。
少しの間、Kは紙の束をめくっていたが、やがて二枚の紙を見つけ出して抜き出した。

「 これ、俺の下の子につける予定の名前だ。」

 その紙には、苗字のスペースは空白だったが、以前聞かされた弟、妹の名前が書かれている。
Kはその二枚を突き出したまま固まっている。
 祖父が振り返って隅の紙の束を見る。
そこにはやはりびっしりと、聞き覚えの無い名前があった。

「 これ全部、これから生まれてくる子か・・・?」

びっしり名前が張り巡らされた四方の壁、床の真中の大きな穴、
そしてこれから産まれて来る子供の名前が書かれた紙の束。

「 ここに村がある。」

その時、フッと小型たいまつの火が消えた。
突如真っ暗になる。
三人は弾かれたようにその小屋を出て、一目散に走り出した。
無我夢中で各々の家に帰ったと言う。

 祖父はその何ヶ月か後に、関西の方に引っ越す事になる。
結局、何かタブーのような気がして、あの小屋が何だったのかは大人に聞けずじまいだった。
 祖父は言う。

「 例え教えてくれるという大人がいても、決して詳しく聞く事はしなかっただろう。」

祖父はこの奇妙な体験談を話し終えた最後に、布団の中でこう言った。

「 あの紙の束には、当然産まれなかった子供らの名前が含まれる訳や。
Kの家に産まれたのが弟だったら、妹用の名前はいらなくなるやろ。
他の家族の子ォにその名前を使いまわす事も出切るけど、多分そうはせんかったと思う。
多分、その使われなかった名前、というか産まれなかった子供らの名前を、その穴に捨ててたんとちゃうんかな。
昔から長いことずーっと。
 多分、あの小屋が何となく恐ろしかったのは、真ん中の穴があったからちゃうんか。
子供の名前を捨てつづけた穴。
今やっても、ようあそこに行く気はせえへんわ。
まあ、もう、のうなって(無くなって)しまっとるやろうけど・・・・。」

それだけ言うと、祖父は眠った。












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