
今回は、明日の敬老の日にちなんで、お年寄りを扱った手塚治虫先生のマンガをご紹介したいと思います。
この作品はなんでも読者が選んだ「ブラック・ジャック」のエピソードで、231作品中、第6位にランクされ、発表当時はシリーズ最高傑作とまで言われたほど、多くの感動を呼んだそうです。

この作品に登場するおばあちゃんは、主人公にとって、年老いたお母さんをさします。
ところで、あなたはおばあちゃんにどんなイメージを持っていますか?
穏やかで優しくて、いつもにこにこしている。
私は、そんなイメージがあります。
だけど、この作品に登場するおばあちゃんはすぐにお小遣いを息子や嫁にせびるなど、とてもがめつくて、ケチンボに描かれています。
そんな訳で、このおばあちゃんは息子や嫁と衝突することが多く、しょっちゅう問題ばかり起こしてるんです。
でも、ある時、息子は疑問に思うんです。
うちの、おばあちゃんはあまりお金はいらないはずなのに、どうしてあんなにお金を欲しがるのだろう?
嫁と話していたら、「おばあちゃんは時々、ひとりで出かけて行く」と教えられるのです。
それで、気になって、ある日、息子は出かけて行くおばあちゃんの後をつけていくのです。
すると、おばあちゃんは、どこまでもどこまでも歩き続け、ある大きなお屋敷に入っていきました。
そこで、おばあちゃんはそのお屋敷の老婦人となにやら話をしています。
その会話を、息子がそっと聞いていると、思いがけない事実を知らされるのです。
そのお屋敷は、昔、医師が住んでいたのですが、息子がまだ赤ん坊だった頃、難病を大手術で、治療してくれたのだそうです。
その時、おばあちゃんは1200万円の治療費を請求されたのです。
おばあちゃんは、その金額に大変驚きました。
しかし、お金で、わが子の命が助かるならと、「一生かかっても払います」と約束し、身のまわりのものを殆ど売り払い、貯金もすべて預けたのですが、それでも500万円足りなくて、家族の誰にも秘密にして、お金を貯めては、せっせと返済を続けていたのです。
それは、息子に余計な心配事を作らせず、全部、自分で責任をもつという母親の愛情の現れだったのです。
それを初めて知った息子は、今まで母親を疑っていた自分を恥じ、母親の愛情の深さに、泣いて泣いて、涙がとまらなくなるのです。
その日はちょうど、治療費のすべての返済を終えた日でした。
おそらく、おばあちゃんは肩の荷が下り、今まで張り詰めていた気持ちが急になくなったからでしょう。
その帰りに、突然、倒れてしまうのです。
ブラック・ジャックの診断は脳いっ血でした。
「治る見込みは少ない。90%命の保証はない。だが、もし助かったら、三千万円いただくが・・・あなたに払えますかね?」
そう、ブラック・ジャックに言われた息子は、「一生かかっても、どんなことをしても払います。」と力強く答えるのでした。
これを読んで、私は今年、79歳で亡くなった自分の母親のことを思い出しました。
私の母は、優しい反面、若い頃は仕事熱心で、とても厳しい人でした。
母は、私の仕事をいつも気にかけてくれ、何もないようにと仏壇に手を合わせていたようで、常々、仕事する時は、「念を入れるんだよ」とか「気をつけるんだよ」と言っていました。
人間は仕事をしている姿が一番素晴らしいとも言っていました。
病床にあって、あまり意識がはっきりしていない時でも、その言葉を口にする時だけは引き締まった表情になり、今でもしっかり、私の脳裏に焼き付いています。
どうやって、私は亡き母の愛情に報いればいいのでしょう?
私にできる事。
それは、その言葉通りに仕事に励むのが、もっとも亡き母の愛情に報いることではないかと思うのです・・・