奈々の これが私の生きる道!

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「春琴抄」谷崎潤一郎

2016-04-08 20:20:19 | 読書
前回、NHKの「歴史秘話ヒストリア」を観て、谷崎潤一郎の「細雪」を読みたくなった

と書きましたが、その番組では「春琴抄」についても紹介されていました。
 それによると、谷崎は松子夫人と恋仲だった頃、身の回りの世話をさせてほしいと申し

出て、御寮人様と呼ぶようにしたそうです。
 その頃、谷崎は女主人と奉公人の物語を小説にしようと考えていて、創作の参考にする

ため、松子を女主人に見立て、自らは奉公人として振る舞おうとしたのだとか。
 それに、松子ははじめ戸惑っていたけれど、谷崎の意を汲み取り、女主人の役を見事に

演じるようになったそうです。
 そうして、出来上がった「春琴抄」は一般の読者はもとより作家仲間からも絶賛され、

のちのノーベル文学賞作家、川端康成をして「ただ嘆息するばかりの名作で、言葉がない

」とまで言わしめたそうです。

 それを知った私は「春琴抄」のお話をしてみたくなったのです。
 
 「春琴抄」は谷崎潤一郎の作品で、もっとも知られ、読んだことがなくても、大まかな

荒筋くらいはご存知の方も多いと思います。
 かくいう私も、この作品を読む前から、荒筋だけは知っていました。
 佐助は、春琴が顔に大やけどをしたあと、美しかった春琴の姿を永遠に記憶にとどめよ

うと自らの眼に針を刺し、盲目になってしまいますが、そこに愛の究極の形を見るような

思いがします。

畢竟めしいの佐助は現実に眼を閉じ永劫不変の観念境へ飛躍したのである


 しかし、私がこの作品に最初にふれたのは谷崎潤一郎のこの小説でなく、新藤兼人監督

の映画「讃歌」によってでした。
 

「讃歌」は、「春琴抄」を映画化したもので、私はこの映画を、深夜のテレビ番組で観

て、主人公、春琴のただならぬ美しさに圧倒され、途中からではありましたが、録画をし

て、何度も繰り返し観ては春琴の美しさに酔いしれ、かつ女性の美や魅力について深く考

えこまずにはいられませんでした。
 なぜなら、春琴は尊大で、誇り高い女性として描かれ、普通、私たちが考えるところの

いわゆる優しくて、思いやりのある女性とはまったく違っていたからです。
 なのに、気品があって、とても美しく感じられるのです。
 実は、新藤兼人監督は女性を美しく撮ることで評判で、「ギャラは要らないから、ぜひ

出演させてほしい」という女優さんが何人もいたそうです。

 そうして、映画の春琴があまりにも美しかったので、原作の小説も読んでみたわけです



 その時、私は春琴の美しさや、佐助の我が身を傷つけても、春琴への愛を貫こうとする

姿に心を奪われた訳ですが、今回読んでみて、それまで気づかなかったことに関心が移っ

てしまったのです。
 つまり、この小説はマゾヒズムを香気あふれる芸術に仕上げたという面も合わせ持って

いたのです。 
 マゾヒズム、いわゆる変態の世界です。
 それは佐助が、自らの眼を傷つけるのにも現れているそうですが、三味線を春琴に習う

際、厳しく折檻される時に、ひいひい泣きながら甘んじて受けるのもそうだと言うのです


 
 この小説に、変態の一例として、ジャン・ジャック・ルソーが挙げられていますが、ル

ソーは少年時代の環境が不遇で、愛情に欠けていたところから、マゾヒズム的な傾向を持

つようになったそうです。

 そういえば、私はある人が、変態は弱者の処世術みたいなもので、過剰なストレスを受

け続けると、自らを防御するべく、変態となるのだと書いた文章を目にしたことがあります。


 しかし、もちろん、この「春琴抄」はただ変態を謳歌しているだけではありません。

 気をつけて読んでみると、鳥という文字が何度も出てきて、鳥に何かを託しているよう

にも思われてきます。
 例えば、春琴の苗字が、鵙(もず)屋なら、女中の苗字が鴫(しぎ)沢で、春琴の趣味

が小鳥道楽なんです。
 春琴は小鳥のなかで、鶯(うぐいす)が一番、好きらしく、気に入った啼き方をさせよ

うと、別の師匠の鶯に附けて稽古をさせたりします。
 鶯の次に好きなのは雲雀(ひばり)で、雲雀は天に向かって飛揚せんとする習性があり

、籠より放って、その姿が見えなくなるまで空中に舞い上がらせ、雲の奥深く分け入らせながら、地上にあって聞くのを楽しむのだとか。

 またこのほかにも、春琴は駒鳥や鸚鵡、目白、頬白なども飼っていたと書いてあります



 そして、春琴が亡くなる時にも、鳥が重要な役割で出てくるのです。

 春琴は佐助と二人でいる時、大切に飼っていた雲雀を籠から放すのです。
 二人は手を取り合って空を仰ぎ遥かに遠く雲雀の声を聞くのですが、雲雀はそのまま高

く雲間に入り、いつまで待っても帰ってこないのです。

 春琴はそれから、まもなく亡くなってしまうのです・・・

 
  
 春琴は、もしかしたら小鳥のようになりたかったのかも知れません・・・

 それは、佐助の春琴に寄せた愛情とともに、余韻となって、いつまでも私の心に響くよ

うでした。


   

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