雪国、幌舞駅で、もうすぐ定年を迎えようとしている駅長乙松のお話です。
この駅のある幌舞線は、積み重なる赤字で、今年廃線が決定していて、乙松は、これまで愚直とも思えるほど、仕事一筋に生きてきました。
幼い我が娘が亡くなった時も仕事を休まず、ただひたすら仕事に励んできました。
長年連れ添った妻が亡くなった時も、仕事を終え、駅舎の灯を消してから、病院に駆け付けました。
そんな乙松を、非情な人間だと非難する人もいましたが、彼のひたむきさに共鳴する人もいました。
若い頃、一緒に働いた美寄中央駅の駅長やその息子秀男です。
乙松が、もし家族の為に、仕事を投げ出したら、駅はどうなるでしょう。
汽車はどうなるでしょう。
自分を押し殺し、職務に忠実に服する事の大変を、同じ職業に従事する二人はよく理解していました。
ある雪の降る寒い夜の事です。駅舎に一人寝泊まりする乙松のもとに、幼い少女が現れました。
しかし、その姿はすぐに消え、乙松は夢でも見たかと思いました。
こんな夜更けに一人少女が駅に来るはずがない。
ところが、翌日の深夜、前日の少女の姉らしき小学六年生の女の子が忘れ物を取りに来ました。
その姿に、乙松は幼くして亡くなった娘ユッコも生きていれば、このくらいに成長しているのではと、娘の姿を重ね合わせずにはいられないのでした。
そして、次の日にはさらに姉と思われる少女が現れました。
その少女は、乙松に仕事の話を尋ねました。
「今まで、一番辛かった事はなんですか?」
乙松はそれに目を閉じ、遠い昔を思い出すように、しゃべり出しました。
「集団就職で、中学を卒業したばかりの子供達が、涙をこらえながら、汽車に乗る姿が、かわいそうでならなかった。しかし、駅長だから泣く訳にもいかず、気張って肩を叩いて笑顔で送り出した。あの時は辛かったなぁ」
少女は、その言葉に、そっと目を閉じ、黙って聞くのでした。
実は、その少女は乙松が幼くして亡くした娘ユッコの魂だったのです。
ユッコは現れた理由を、乙松にこう告げました。
「お父さん、今まで、何もいい事なかったでしょう。私も親孝行出来ずに、早く死んで・・・だから・・・」
乙松は、その言葉を振り払うかのように、「俺は、おまえが死んだ時も、ホームの雪かきをしていたんだぞ。そして、日報に本日異常無しと書いたんだぞ!」
と、泣きながら大声で叫びました。
ユッコ「だって、お父さん、ぽっぽやだもの。仕方ないよ。私、気にしてないよ」
その言葉に、乙松は、長年自分が背負ってきた後悔の念が薄らぐのを覚えるのでした。
翌日、駅のホームで、雪の中に倒れている乙松の姿がありました。
遠い天から、降り積もる雪は、まるで乙松を優しく包んでいるかのようでした。
私はこの作品を読んで、仕事や、家族の在り方、そして生き方について、考えさせられました。
つづく
この駅のある幌舞線は、積み重なる赤字で、今年廃線が決定していて、乙松は、これまで愚直とも思えるほど、仕事一筋に生きてきました。
幼い我が娘が亡くなった時も仕事を休まず、ただひたすら仕事に励んできました。
長年連れ添った妻が亡くなった時も、仕事を終え、駅舎の灯を消してから、病院に駆け付けました。
そんな乙松を、非情な人間だと非難する人もいましたが、彼のひたむきさに共鳴する人もいました。
若い頃、一緒に働いた美寄中央駅の駅長やその息子秀男です。
乙松が、もし家族の為に、仕事を投げ出したら、駅はどうなるでしょう。
汽車はどうなるでしょう。
自分を押し殺し、職務に忠実に服する事の大変を、同じ職業に従事する二人はよく理解していました。
ある雪の降る寒い夜の事です。駅舎に一人寝泊まりする乙松のもとに、幼い少女が現れました。
しかし、その姿はすぐに消え、乙松は夢でも見たかと思いました。
こんな夜更けに一人少女が駅に来るはずがない。
ところが、翌日の深夜、前日の少女の姉らしき小学六年生の女の子が忘れ物を取りに来ました。
その姿に、乙松は幼くして亡くなった娘ユッコも生きていれば、このくらいに成長しているのではと、娘の姿を重ね合わせずにはいられないのでした。
そして、次の日にはさらに姉と思われる少女が現れました。
その少女は、乙松に仕事の話を尋ねました。
「今まで、一番辛かった事はなんですか?」
乙松はそれに目を閉じ、遠い昔を思い出すように、しゃべり出しました。
「集団就職で、中学を卒業したばかりの子供達が、涙をこらえながら、汽車に乗る姿が、かわいそうでならなかった。しかし、駅長だから泣く訳にもいかず、気張って肩を叩いて笑顔で送り出した。あの時は辛かったなぁ」
少女は、その言葉に、そっと目を閉じ、黙って聞くのでした。
実は、その少女は乙松が幼くして亡くした娘ユッコの魂だったのです。
ユッコは現れた理由を、乙松にこう告げました。
「お父さん、今まで、何もいい事なかったでしょう。私も親孝行出来ずに、早く死んで・・・だから・・・」
乙松は、その言葉を振り払うかのように、「俺は、おまえが死んだ時も、ホームの雪かきをしていたんだぞ。そして、日報に本日異常無しと書いたんだぞ!」
と、泣きながら大声で叫びました。
ユッコ「だって、お父さん、ぽっぽやだもの。仕方ないよ。私、気にしてないよ」
その言葉に、乙松は、長年自分が背負ってきた後悔の念が薄らぐのを覚えるのでした。
翌日、駅のホームで、雪の中に倒れている乙松の姿がありました。
遠い天から、降り積もる雪は、まるで乙松を優しく包んでいるかのようでした。
私はこの作品を読んで、仕事や、家族の在り方、そして生き方について、考えさせられました。
つづく