風 雑記

建築とその周辺で感じたこと、思ったこと

豊郷小学校

2017-09-30 19:24:57 | 日記

 

9月27日から29日にかけ、来年1月16日(火)~21日(日)に開催する「W.M.ヴォーリズin熊本展」開催のパネル、原図、資料借用の確認に豊郷小学校、近江兄弟社、一粒社ヴォーリズ建築事務所、関西学院大学を訪問しました。

この訪問を数回に分けてブログにしたいと思っています。すぐに全てUP出来ないかもしれませんが、とても貴重で有意義な日々でした。

豊郷小学校は1937年(昭和12年)丸紅の専務であった古川鉄治郎氏が寄付を申し出、W.M.ヴォーリズ設計で建てられた校舎が今も残されています。古川氏は欧米の渡航経験から「国運の進展は国民教育の振興にある」と考え、私財の2/3に相当する60万円(現在の物価で数十億円)を寄贈して建設されたとのことです。

当時珍しい鉄筋コンクリート造の校舎は「白亜の殿堂」「東洋一の小学校」と呼ばれ、全国から見学者が絶えなかったと聞きました。(役場の方から)

有名なのは階段手すりに設置してある童話の「ウサギとカメ」のブロンズです。3つの階段に全てに設置してあり、踊り場の眠るウサギは子供たちが触るので摩耗している。

廊下は広く(3.0M程)長さが100Mあり、子供達には走りたくなる誘惑を持っています。

1999年(平成12年)町は老朽化と耐震性の理由から、この校舎を解体して新校舎建設の方針を打ち出し、地元町民の反対運動が起き、その校舎改築問題は2009年(平成21年)まで続いています。

保存運動が実り、現在は町立図書館、子育て支援センターなどの複合施設にリノベーションされ使われています。10年に及ぶ校舎解体反対運動へと町民の人たちの心を動かしたのは、古川氏の思いとヴォーリズ建築事務所設計の校舎の持つ魅力だろうと思いながら、町の方に案内して頂きました。

竣工当時はモダンな校舎だったと思うのですが、写真では近年の建築デザインからはシンプルさに少し物足りなさを感じるのではないかと思っていましたが、確かに内部もシンプルで華美な装飾はありません。しかし子供たちの教育に必要な光や通風、通路・階段などはゆっくり作ってあり、滋賀県は冬雪の多く寒さが厳しい処なので、当時珍しい暖房設備や弁当温めの設備などきめ細かく心遣いがされてありました。私が一番感心したのは無駄が無く、子供の教育に大切なものは徹底して作られていたことです。改めて豊郷小学校校舎から建築の温かさを感じました。

東ウイングの観光案内所に使わている旧図書館

西ウイングの講堂

最近はアニメ「けいおん」の舞台になったこともあり、「けいおん」の聖地として若いファンが訪れ、今年上映の「君の膵臓がたべたい」のロケ地としても人気が高まっているとの事です。毎年ここで高校生の軽音楽甲子園の全国大会がこの講堂で開催されています。

たくさんのアニメパネルやフィギアが置いてあります。ファンの方から寄贈されたものとの事です。写真はほんの一部です。

若い人たちが訪れる町の観光施設にもなっていることは素晴らしいです。旧豊郷小学校はこれからも愛され続けていくだろうと思います。

 

豊郷町と近江八幡の中間辺りに織田信長の安土城跡がありました。この山の上に城の石垣が残っているとの事ですが、周辺ののどかな風景は戦国時代のことは想像できません。琵琶湖に近く北陸、京都、名古屋とつながる水上交通を持つこの場所が当時重要な戦略拠点だったのだろうと思いを巡らせました。