<コメント>
1997年6月8日、三重県志摩沖で発生した日本航空MD-11型機のピッチ変動による負傷事故で、控訴審が開始されました。
第一審で機長は無罪となっていましたが、検察側が控訴していたもの。それでは簡単に事故当日の様子を再現してみましょう。
※画像は、事故が起こったと思われる地点(Google earth 4)
当該機 :日本航空株式会社ダグラス式MD-11(JA8580) JA706便
出発到着:香港啓徳国際空港-名古屋空港
飛行経路:G581 TAPOP A597 KEC V52 XMC KCC
巡航速度:480kt 巡航高度:FL370 所要時間:3時間27分
16:38 香港啓徳国際空港を離陸(協定世界時07時38分)
16:59 FL370に達する(約12,000メートル)
19:34 FL290へ降下を開始
19:42
FL290へ達する しばらく水平飛行 機長は9,000ftをリクエストするがスタンバイの指示
19:44 高度9,000ftへの降下指示(東京コントロール)
19:45 降下を開始
19:45 52秒 高度26,000ftを通過
19:46 10秒 高度25,000ftを通過
19:48 25秒 最大運用限界速度(Vmo)を越え368ktに達する
19:48 26秒 高度16,700ftで自動操縦が解除される
19:48 27秒 急激に大きなピッチアップ(機首上げ)となる
19:48 40秒 15秒間で5回のピッチ変動が発生 乗客乗務員が負傷
19:48 41秒 自動操縦が再度エンゲージされ振動が止む
20:14 名古屋空港へ着陸
<私感>
事故は日本時間19:48頃に発生しています。直接の原因は、自動操縦の解除により、機首が急激に上がり15秒間にわたり揺れが続き14人が死傷。
これだけ見れば、MD-11の自動操縦にトラブルがあり、操縦不能に陥った。ともとれますが、そうとも言えないようです。
機長の降下イメージと東京コントロールとの間にズレが生じています。19:42機長は9,000ftへの降下をリクエストしますがスタンバイの指示があり、しばらくFL290で水平飛行しています。次の降下を開始するまで機は十数マイル進んでいましたので、通常の降下率より大きな降下率と速度をFCPへセットし降下をはじめました。通常では2,500ft/min程度ですが、この機では4,500ft/minとなっていたようです。降下率の増加に伴い速度が上昇し、機長はスピードブレーキを1/3セットします。が速度が落ちず2/3をセット。その直後、自動操縦が解除され急激な機首上げを起こしました。
検察側が機長の責任を追及している点は、この降下率と降下速度の選択および、スピードブレーキの適切な運用、また自動操縦解除後の緊急対応についてと思われます。自動操縦解除直後に急な機首上げ動作となった事を考えますと、まずトリムが正確に諸条件にマッチしていたのか?
人間が機械(コンピューター)をどう使い、トラブルをどう回避するか。ハイテク化が進む今、改めて考えさせられるインシデントでした。
(時事通信) - 9月22日11時1分更新
三重県・志摩半島上空で1997年6月、香港発名古屋行き日本航空706便MD11型機が乱高下して乗客乗員14人が死傷した事故で、操縦ミスがあったとして業務上過失致死傷罪に問われ、1審で無罪となった機長高本孝一被告(56)の控訴審第1回公判が22日、名古屋高裁(門野博裁判長)であった。検察側が控訴し、弁護側と再び全面対決する構図となった。
検察側は「操縦桿(かん)を引き過ぎ、自動操縦装置を解除させて急激な機首上げを生じさせ、修正操作に伴う機首の上下動を発生させたのが事故原因」と1審判決を批判。被告側は「事故は(飛行機全体を制御する)コンピューターの不具合などが重なったのが原因」と主張している。