本稿の初出は「トゥヴァルの人口と経済に関するノート:Fongafale(Funafuti)島の場合」として、大東文化大学環 境創造学会『環境創造』第8号(2005年4月)に掲載した【研究ノート】である。
その後、ブログに図表を取り除いて、毎回少しずつ分載した. 今回、再びトゥヴァル(ツバル)政府統計局およびその他機関の新しい数値を用い補筆、改訂した次第である。
《要 旨》
(1)赤道を南におよそ500kmから1000km、そしてフィジーからは北へ、赤道に向っておよそ1100Kmから1600Km、南緯5°から10°30′、東経176°~ 180°の範囲にあって、水半球に点在している島嶼国家(旧エリス(Ellice)諸島)こそが本 稿の主役トゥヴァル(Tuvalu)である。
(2)トゥヴァルは、現在、英連邦に加盟しており、英国女王を元首とする立憲君主制を政体としている独立国で、総人口約1万人のマイクロステートである。
(3)トゥヴァルの首都は、水半球にエメラルドを散りばめたような美しい9つの環礁の島々からなる列島の1つで、南緯8°25′、東経179°15′に位置するわずか2.79km2の小さな環礁の島、フナフティ島(Funafuti Island)に総人口の44%が 生活している。それが1km2当り人口密度1,610人の首都である。
(4)筆者が首都フナフティ島に足を向けた目的は、「南太平洋島嶼国の経済開発と環境問題」を考える上で、地球温暖化の影響等「究極的な環境問題」を抱えていると言う点から島嶼国研究の原点として、この国の実態を踏まえておくことがど うしても必要であると考えたからである。
(5)周知のように、ポリネシアの人々の主食はタロイモ(taro)、キャサバ(cassava)そしてヤムイモ(yam)などで、トゥヴァル人も同じで、土地の人々が「プラカ」と呼ぶタロイモを主食としている民族である。しかし、海面上昇や海水 の湧き水で主食のイモさえも自給できなくなり、輸入に依存せざるを得なくなっている。もっとも、近年は米や小麦粉を主食にする人々も増えている。
(6) 今、トゥヴァルの人々は地球温暖化によって、その地に生きる民族として築き上げてきた最も枢要な文化である筈の食文化までもが変化の波に晒されている。全島9つの島を合わせた国土面積が、わずか25.9km2 に過ぎない島嶼国トゥ ヴァルは、地球温暖化と経済のグローバル化と言う二つ現実に追い詰められた南太平洋諸国の凝縮された姿を示している。その意味でも、この国の実態を把握しておくことが島嶼国研究のスタートラインであると考えられる。
はじめに
2004年3月、筆者がトゥヴァルの首都フナフティ島に足を向けた目的は、トゥヴァルが「南太平洋島嶼国の経済開発と環境問題」を考える上で地球温暖化の影響等、究極的な問題を抱えていると言われている点からも、これからの島嶼国研究の原点として、このとくに小さな島嶼国トゥヴァルの実態を踏まえておくことが重要であると考えたからである。
最近は、日本からも現職の環境大臣をはじめ有名な女性の俳優さんが現地トゥヴァルを訪れるなど、また報道機関も取材活動でこの島嶼国を訪れるようになった。それだけではない。地球温暖化に関心もつ若者など多くの日本人がこの小さな島に足を踏み入れている。エコ・ツアーなどで、多くの日本人がこの小さな島にやってくるようになったといわれている。その結果、いろいろ考えさせられる新しい問題も生じているようだ。
さて、周知のように、ポリネシア島嶼国の人々の主食はタロイモ(taro)1)、キャサバ(cassava)2)パンの実3) そしてヤムイモ(yam)4)などである。ポリネシア系の人種であるトゥヴァルの人々の主食もまったく同じである。 トゥヴァルの場合は、現地の人々が、とくに「プラカ」と呼んでいるタロイモの類を主食にしているケースが多い。
しかし、海抜1~2mしかないフナフティ島では、海面上昇の影響やフナフティ環礁の1つで、少し北方にある小さな島で、海員養成学校のあるアマツク島では海水が地面から湧き出しているところもある。加えてサイクロンによる洪水の影響などで、土壌の塩分が増して主食のタロイモさえも自給できなくなり、現在では食料の大半を輸入に依存せざるを得なくなっている。もっとも、最近では主食が、いも類から米や小麦粉に変わって来ている。スーパーや食料品店でも米や小麦粉が売られるようになった。
いま、トゥヴァルの人々は、「メラネシアとミクロネシアに挟まれたミニポリネシア」5)の地に生きる民族として築き上げてきた最も枢要な文化である筈の食文化さえも地球温暖化の影響を受けて、変化させざる得ない事態に直面しているのである。とくに近年、大潮の時には首都フナフチの至る所で海水が湧き出し、水没の危機に瀕する状態におかれており、海水を被ることで農作物および自然環境の劣化が一段と進み、この土地に住む人々の自給自足的な生活でさえ成り立たなくなってしまっている。それはなにもトゥヴァルだけではないが、南太平洋の小島嶼国の人々の生活に共通する3つの困難な問題が存在している。
すなわち、第1には島嶼間アクセスの困難性からくる国際社会との隔絶という「辺境性の問題」が存在することが考えられる。第2に人口の過少性にかかわる「市場の狭隘性の問題」が存在すること。そして第3には、地理的散在性から生じていると考えられる小島嶼国の「経済構造的特殊性の問題」を内在していることが指摘できる。 これらの3つの問題点を踏まえて、以下、小島嶼国トゥヴァルの人口と経済について言及することで、南太平洋島嶼諸国研究のスタートラインに立つことが可能になると考えられるのである。
(注)
1)タロ(taro)イモは、里芋の一種といわれている。サトイモ科のサトイモ属で、学名はColocasia esculentum Schottである。英名ではElephant Ear(象の耳)ともいう。草丈は、1~1.5mにも高くなる。葉の大きさは長さ30-50cm、幅30cmにもなる。
2)キャッサバ(cassava, manioc)はトウダイグサ科の潅木で、学名をManihot utilissima Pohl.という。原産地はブラジル北西部およびメキシコ西部であるが,現在はアジア、オセアニアにも広くに栽培されている。塊根は食用,飼料用(チップ等),でん粉原料用に使われる。ただ、塊根に青酸を含む品種もある。高さ1.5 ~3 m に達し,茎は木質で太く,多数の枝を生じよく繁茂する。痩地,酸性土壌,乾燥に強く、栽培し易いと言われている。
3)パンの木(bread-fruit)になる実である。クワ科のパンノキ属(属名:Artocarpusと言う。ギリシャ語でパンの木の果実の意味)で、学名をArtocarpus altilis と言う。原産地はインド、マレーシア である。樹高は通常5~10mであるが、南太平洋島嶼国の多くの家庭では、自分の家の庭に植えてタロイモなどとともに主食に用いている。
4)ヤム芋(yam)は、ヤマノイモ科ヤマノイモ属(Dioscorea)に属する芋で、蔓性の植物である。南太平洋島嶼国では大変重要な主食として栽培されており、タロ芋に比較して高価である。タロ芋とともに、根菜農耕文化の代表的な食用作物である。ポリネシア・ゾーンのトンガ、ミクロネシア・ゾーンのポナペ島の人々はヤム芋を好んで食する。昔は、ミクロネシアやメラネシアでは、ヤム芋は首長への貢納物として使われていた。
5)長島俊介「ツバル(1)」(『会計検査資料(「小国の財政・生活事情65」)』・建設物価調査会・ 1991年11月号、36頁。
*:原則として、国名は「トゥヴァル」と表記する。資料名、著作名として使われている場合、引用文中に「ツバル」とある場合はそのまま「ツバル」と表記する。
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます