素人、考古学・古生物学を学ぶ

人類の起源・進化・移動や太古の昔、日本に棲んでいたゾウ類にも関心があり、素人の目線で考えてみます。

始祖鳥についての改訂増補版(3)

2024年03月20日 10時28分00秒 | 絶滅と進化
                 始祖鳥は「鳥類」なのか、それとも「恐竜」なのか(3)

            
                  第1章 始祖鳥の化石とその標本について         
 
                   (2)
 
 次に、始祖鳥の生息した時代ですが、それは中生代と考えられています。中生代とは、通常使用されている「地質年代の大区分の一つ」ですが、大凡2億5,100万年前〜6,550万年前までの期間、約1億8,500万年もの途方もなく長い期間を指しています。始祖鳥が生息していた期間は、ジュラ紀後期2番目の地質年代キンメリッジアン(Kimmeridgian:約1億5,730万年前~約1億5,210万年前)と言われています。ここで地質年代とは、約46億年の地球の歴史を区分したもので、中生代は古生代と新生代の間の区分に相当します。中生代は、三畳紀(さんじょうき)・ジュラ紀・白亜紀(はくあき)の三つに分けられています。始祖鳥は、最古の鳥類とされてきましたが、今では鳥類に進化する前の恐竜類、デイノニコサウルス類に分類されて、ジュラ紀の後期にはすでに生息していたと推測されています。

 始祖鳥の化石が最初に見つかったドイツを中心に、1860年以降から始祖鳥の研究は進められていましたが、20世紀後半から21世紀かけて、中国において始祖鳥らしき鳥のようでもあり恐竜のようでもある「恐鳥」の化石がしばしば発見されるようになると研究者の間では、そもそも始祖鳥とは鳥類ではなかったのではないかとする論文も発表されるようになりました。始祖鳥の起源と言うか、始祖鳥の祖先を巡って研究者の間で論争が起き、注目を惹くようになったのです。その論文の一つが2011年7月28日のネイチャー・ハイライト版(Nature 475, 7357)に掲載された「始祖鳥が『始祖』ではなくなる?」と言う論文で、世界の研究者たちの注目を集めることになりました。

 ネイチャーによりますと、「鳥のようでも鳥ではないのは、どんな鳥だろう。 —— その答えは始祖鳥ということになりそうである。最初の化石発見から150年が経った今、最古の鳥類としての始祖鳥の地位が危うくなっている。この15年の間に、羽毛を持ち、鳥類に似た恐竜の化石が続々と発見されたためだ」、と言うものです。これまでにも、オハイオ大学の古生物学者で、恐竜や翼竜などの絶滅動物の頭蓋骨の軟部組織解剖学の世界的な権威、ローレンス・ウィットマー(Lawrence M. Witmer,1959- )は、「始祖鳥とは、ジュラ紀にそこら辺をうろちょろしていた小型で羽毛を持つ鳥に似た獣脚類に過ぎない」と言い、始祖鳥の飛行能力を巡っては、これからもずっと議論が続くだろう。しかし、これらの新たな発見がこれまでの論争に大きな影響を与えるものではない、とも言っています。その理由は、多くの研究者によって、アーケオプテリクス(始祖鳥)が、恐竜か鳥類か、その境界が中間的で、しかも極めて曖昧であることから、便宜的に古代の翼(アーケオプテリクス)と名付けたに過ぎないのではないかと見られているからだ、と言うわけです。

 中国の古生物学者Xu博士(Xu Xing 、徐星:1969~)たちの研究チームが2009年、中国・遼寧省の約1億5,000万年前(ジュラ紀後期)の地層から羽毛を持つ新種の恐竜の化石を発見しました。その体長は70センチほどの小恐竜(恐鳥)でした。この恐鳥に対して、2011年研究チームの徐星らは、中国の古生物学者鄭曉廷(Zheng Xiaoting :ツェン・シャオティン)に由来して、シャオティンギア(Zhengi Xiaotingia )と命名しました。中国チームが化石骨の形などから系統を解析して報告したことで、始祖鳥の祖先が恐竜であったことを駄目押すことにもなりそうなのです。

 確かに、新たな分析が、ある意味では暫定的ではあったとしても、この報告は、始祖鳥の系統分類上の位置を、シャオティンギアが恐竜のグループに入った上、始祖鳥とも近いとの結果が出たことで、これまで分類上は鳥に近い位置にいた始祖鳥が、恐竜グループに引きずり込まれる形になったという見方(日本経済新聞)が強くなったわけです。そしてそれはまた、デイノニクスなどの恐竜と同じくらい現生鳥類の祖先から離れていることを示唆しているものとも言えなくもないのです。

 ところで、いまから160余年前にドイツ・バイエルン(Bavaria)州で初めて、始祖鳥の化石が発見(1860年)されて以来、始祖鳥は進化系統樹において、現生鳥類の祖先に当たる原始鳥群Avialaeの大元に位置するという見方が定説になったのです。Avialaeと言う用語の意味は「鳥の翼」の意味なのですが、その中身は「唯一の現生恐竜である鳥類」を含むクレード(clade: ある共通の祖先から進化した生物すべてを含む生物群のこと)を指し、通常、獣脚類恐竜のうち鳥類(Aves)に近い恐竜と定義されることがあるようです。

 ドイツのジュラ紀後期の地層、ゾルンホーフェン層から発見された始祖鳥(アーケオプテリクス・リトグラフィカArchaeopteryx lithographica)の羽根の化石は、始祖鳥が飛行可能であったかどうかが問われる資料ともなっているのですが、その可能性のあった最古の「竜鳥」と考えられていました。しかし研究者の中には恐竜の進化形であった可能性を示唆する研究者がいたのも事実です。その理由は羽毛や叉骨、脚の3本の指を持つ非鳥類型恐竜もまま見られたことから、鳥類説に疑問を抱く研究者も出てきたというわけです。しかしながら、鳥類説を覆すだけの確たる資料に乏しく、大雑把に言いますと、2000年代に至るまでは始祖鳥は鳥類の祖先と考えられていたのです。さすがに21世紀の現在は始祖鳥が現生鳥類の直接の祖先と考える人は少ないと思います。



コメントを投稿