絶滅した日本列島の古代ゾウの
仲間たち(その4)
1.日本には凡そ2000万年前にもゾウの仲間がいた
(1)日本列島はどのように生まれたのか
(2)日本のいろんなところにステゴロフォドンゾウがいた
(3)とにかく大昔のはなしです―ステゴロフォドンゾウ
(4)常陸大宮市産のステゴロフォドンゾウ―標本「記載」事項を見る―
以上は前回までの掲載分
2.ステゴロフォドンとステゴドンの違い
(1)両者の違いについて
これまでにも何度か取り上げたステゴロフォドン(Stegolophodon)の化石は、どちらかと言えば日本では、多くが北北東部(関東・北陸そして東北)の地域で見つかっています。時代は、主に1800万年前から1600万年前の新生代中新世の地層から出土しているんです。生息地は日本だけではなく、南アジアにも広く生息していたといわれています。
その形態的特徴は、上顎と下顎に切歯(牙)4本もつ原生的なゾウの仲間と考えられ、ステゴドン科に含められています。日本では、こうした中新世の地層からステゴロフォドンの臼歯や切歯そして頭蓋骨等の化石が、分かっているだけでも宮城、山形、福島、冨山、石川、長野、そして茨城の各県から見つかっています。しかし見つかったどれもがステゴロフォドンなのかどうか、小生は全くの素人ですし一つ一つの化石を調べたわけではありませんので偉そうなことは言えないのです。
ただ注意しておきたいことは、ステゴロフォドンとステゴドンのことなんですが、専門家の先生方の分類によりますと、どちらも長鼻目、ステゴドン科なのですが、両者は生息していた時代がかなり違うのです。ステゴドンは、大雑把な言い方ですが、アジア各地で約2000万年前の中新世の地層から発見されているステゴロフォドンというゾウ類を祖先にもつ新生代第三紀鮮新世から第四紀更新世、つまり533万年前から1万数前年前頃まで日本列島にも生息していたアジアの代表的なゾウとして繁栄したと考えられています。
(2)エオステゴドン・シュードラチデンスゾウとは
このステゴドンの祖先に当たるステゴロフォドンとステゴドンとを合わせたグループが、今日ではステゴドンゾウ(ステゴドン科)と呼ばれているようですが、われわれ素人にはここが大変厄介で分かり難いところなんです。
ステゴロフォドンは、長鼻目、ステゴドン科、ステゴロフォドン属、そして種が「ステゴロフォドン・シーウドラチデンスゾウ(Stegolophodon pseudolatidens)」なんです。
ところがです。大阪市立自然史博物館の『ゾウのきた道』(1995)を読んで見ますと、さらに興味をそそられるんです。ステゴロフォドン・シューウドラチデンスゾウは、エオステゴドン・シューウドラチデンスゾウ(Eostgodon pseudolatidens)とほぼ同種だというのです。
前掲『ゾウのきた道』(1995)の表表紙の裏面「長鼻類(広い意味のゾウのなかま)の系統図」には、ステゴロフォドンではなく、エオステゴドン・シュードラチデンスゾウが図示してあります。冨田幸光編著『絶滅哺乳類図鑑』(2002、平成14)年版では、185頁「ゾウのなかまとその近縁有蹄類」の「ゾウ類の系統図」ではステゴドン科としてステゴロフォンドを図示してあります。
また、『ゾウのきた道』(1995)25頁には、エオステゴドン・シュードラチデンスゾウは、「アネクテンスゾウとほぼ同じころの地層から発見される種類で、よく似たものにツダゾウ(Eostegodon tsudai)がある」と記されており、これらの化石は、これまでのところ分布の状態を見ると,関東地方北部から北陸地方を結ぶ線より北に偏在していると述べています。
以前は、アネクテンスゾウとかツダゾウは、ステゴロフォドン属(Stegolophodon)に含められていたというのです。そして、ステゴロフォドンはゴンフォテリウム科とステゴドン属(Stegodon)との中間的な形の臼歯を持っており,ステゴドンの祖先またはステゴドンと共通祖先をもつグル-プとされステゴドン科に含められていた」が、しかし、「最近の研究の結果、エオステゴドンはステゴロフォンドより古い時代に生息していたにもかかわらず、よりステゴドンに近い形の臼歯を持っていることが再確認された」と解説しています。
(3)ステゴドン(ステゴドンゾウ)について
ステゴドン(ステゴドンゾウ)について少し詳しく説明しますと、分類学上の話しになりますが、門が「脊索動物門」、その下位の亜門が「脊椎動物亜門」です。次の綱が「哺乳綱」で、下位の亜綱は「獣亜綱」と呼んでいます。目は、長鼻目(別名:ゾウ目 )に分類されます。また、科は「ステゴドン科」なんですが、分類学上は科の上位に「上科」を持ち「ゾウ上科」がおかれ、そして次が「ステゴドン科」になるんです。その次が属で「ステゴドン属」なります。
ミエゾウ(S. miensis)、アケボノゾウ(S. auroae)、トウヨウゾウ(東洋象:S.orientalis)という名をよく聞きますが、これらは何れも「種名」なんです。 例えば、アケボノゾウは属名が「ステゴドン属」で、種名が「アケボノゾウ(S. auroae)」です。学名はStegodon auroae(Mtsumoto,1918)、そして和名を「アケボノゾウ」と言います。ミエゾウもトウヨウゾウも和名として使われていますし、両ゾウとも属名はステゴドンです。
地質時代は新世代第三紀鮮新世から第四紀更新世です。鮮新世は533万3000年前からです。更新世は約258年前から約1万年前までを言います。ですから、ステゴロフォドンとの地質時代がまるで違うのです。しかも鮮新世から更新世に日本列島を含むアジアで繁栄したステゴドンゾウは上顎にだけ、左右に長い切歯(牙)がありますが、ステゴロフォドンのように上顎・下顎に2本ずつ4本の牙は持っていません。
以上のように、日本には最近新種と認められたハチオウジゾウを始め、アケボノゾウやミエゾウ、トウヨウゾウなどステゴドンゾウ系のゾウの仲間が大変多いようです。