絶滅した日本列島のゾウのはなし(31)
9.日本列島に生息した古代ゾウの絶滅原因をめぐって
(2)第5回目の大量絶滅の原因について
前回(1)でも触れたのですが、東京大学大学院の磯崎行雄教授の生命誌ジャーナルで、「語る科学」に《大量絶滅 生物進化の加速装置》という論稿があり、わたしのような素人には、はっとさせられることが多いのですが、ここでも少しばかり紹介させてもらうことにします。
「大量絶滅」と言う言葉を聞きますと、何だかとても恐ろしいことのように聞こえるのですが、磯崎先生の論稿を読んで見ますと、それは大変大切な自然の現象であることだと納得がいくのです。簡単に言いますと、いままでの種が、新しい種に、自分の棲みかを明け渡すという意味合いもある」、ということなのです。
磯崎先生は、「大量絶滅と聞くと、生きものにとって嫌な出来事という否定的印象を持つ人が多いように思う」が、考え方を変えて見ると、違った見方ができる、と言われています。 たとえば、「もし恐竜達が生き延びて、今も大きな顔をして地上を歩き回っていたなら、私達人類がこれだけ繁栄することはなかっただろう」、と指摘されています。
大絶滅が起こったことで、「その後の時代に新しい種類の生物を生み出す。隕石衝突であれ、プルームの活動であれ、環境劣化の原因はやがて消え去り、地球環境は生きものが暮らしやすい元の状態に回復する。すると、生態系に大きな空白がうまれ、幸運にも生き延びたたわずかな生物は、それを埋めるように急速に広がる。そこでの頻繁な遺伝子組み合わせの試みの中で、種の多様化が急速に進んだだろう。
このように、大量絶滅は、既存の生物の消滅と同時に、進化の次の段階を促すアクセルの役割をもっている。過去に大量絶滅が、しかも何回もおきていなければ、私達は今ここにこの姿でいないはずである」、と述べています。
ところで、かつての大量絶滅、ビッグファイブについて考察してみますと、多くの地質学者・地球物理学者・惑星科学者等が注目し、よく研究されているのが第五番目、白亜紀と古第三紀の境界で起こった6500万年前の恐竜と爬虫類時代の大絶滅ではないか、と考えられます。
とくに白亜紀末の恐竜時代を絶滅させて、哺乳類の時代を進化させて、種の多様化に結び付く契機となったのもこの時代だったと言えます。白亜紀末恐竜の大量絶滅をもたらしたのは、地球に巨大隕石が衝突したことによって引き起こされたとする、惑星科学分野の専門家は多いように思います。
数年前に一度読んだことのある本なんですが、比較惑星学の専門家松井孝典先生(まついたかふみ;1946ー )の数多い著作の中の2冊です。現在、先生は東京大学名誉教授で、2020年からは千葉工業大学の学長をされています。比較惑星学の第一人者というか、比較惑星学という学問の生みの親であり、育ての親である、と言った方が適切でしょう。
1986年には世界的に有名な英国の科学誌『ネイチャー』に海の誕生を解明した「水惑星の理論」 を発表して、世界の地球科学者たちの注目を集めたことでも有名です。本節をまとめるに当たり、先生の著書➀『新版・再現!巨大隕石衝突 6500万年前の謎を解く』(岩波科学ライブラリー155、2009)と、②『天体衝突 斉一説から激変説へ 地球、生命、文明史』(講談社ブルーバックス、2014)の2冊に再び目を通してみました。
松井先生ご自身がお書きになっていることなんですが、➀の旧版を出された頃(1999年)は、「私自身が、チチュルブ(注)・クレーター(6500万年前の衝突の跡)の地下構造を地震探査するプロジェクトや、キューバでの地質調査を進めていたので、その頃の調査結果や報告を中心に、6500万年前に起こった巨大隕石衝突という事件の背景を含め、まとめたのが本書」、だそうです。
そして先生は、著書①の《プロローグ ―アルバレスの仮説》において、1991年に、メキシコのユカタン半島の地下に、直径にすると200から300キロメートルくらいの大きいクレーターがあるという論文が発表されたことに関心をもたれたようです。そのクレーターのできた年代は、放射性同位元素を用いた年代決定法で推定した結果、6490万年プラスマイナス10万年前につくられたクレーターであることがわかったそうです。
6500万年前と言いますと、巨大隕石の衝突で恐竜の大量絶滅があった時代と結びつくわけです。それが巨大隕石の衝突と関係があるのかの問題は、一般には地球の地殻ではほとんど含まれていない「イリジュウム」という元素が6500万年前の地層からは100倍も多く含まれていることがわかったのです。
松井孝典先生の言われるには、隕石には、地殻より多くの「イリジュウム」が含まれていますから、隕石が地球に衝突した際のスピードは秒速数十キロメートルにも達するもの凄い速さで圧力がかかるのですから、その衝突の瞬間、水蒸気や隕石の破片が飛び散れば、その時代における地層中のイリジュウムは濃集することになります。
こうした隕石衝突とイリジュウムに関する研究に携わっていた研究者が、ルイス・ウォルター・アルバレス(Luis Walter Alvarez:1911-1988)と息子のウォルター・アルバレス(Walter Alvarez:1940- )の二人です。研究者の親子鷹として有名な方々なんですが、彼らはこの時代の恐竜の大量絶滅とユカタン半島の巨大隕石の衝突は密接に関連している、とする論文(アルバレス仮説)をまとめ発表して、大きな関心を呼んだのです。
ところで、先に掲げた著作➀(2009)の中で、先生は、隕石の衝突と地表環境の変化に言及されています。地表環境に与えた衝突の影響について、「特に浅い海と陸上に大打撃を与えたことがわかると思います。
したがってそのような環境下に生存した生物に大きな影響を及ぼしたはず」(2009、93頁)で、浅い海にいた生物の大部分が絶滅し、陸にいた大型動物もほとんどが絶滅したと言われています。また、松井先生は、6500万年前にいた生物の60から70%が絶滅したと推定されています。いわゆるそれが、白亜紀の隕石衝突がもたらした大量絶滅なのです。
(注)チクシゥルーブ・クレーター(Chicxulub crater)と書いてある書物もあります。
9.日本列島に生息した古代ゾウの絶滅原因をめぐって
(2)第5回目の大量絶滅の原因について
前回(1)でも触れたのですが、東京大学大学院の磯崎行雄教授の生命誌ジャーナルで、「語る科学」に《大量絶滅 生物進化の加速装置》という論稿があり、わたしのような素人には、はっとさせられることが多いのですが、ここでも少しばかり紹介させてもらうことにします。
「大量絶滅」と言う言葉を聞きますと、何だかとても恐ろしいことのように聞こえるのですが、磯崎先生の論稿を読んで見ますと、それは大変大切な自然の現象であることだと納得がいくのです。簡単に言いますと、いままでの種が、新しい種に、自分の棲みかを明け渡すという意味合いもある」、ということなのです。
磯崎先生は、「大量絶滅と聞くと、生きものにとって嫌な出来事という否定的印象を持つ人が多いように思う」が、考え方を変えて見ると、違った見方ができる、と言われています。 たとえば、「もし恐竜達が生き延びて、今も大きな顔をして地上を歩き回っていたなら、私達人類がこれだけ繁栄することはなかっただろう」、と指摘されています。
大絶滅が起こったことで、「その後の時代に新しい種類の生物を生み出す。隕石衝突であれ、プルームの活動であれ、環境劣化の原因はやがて消え去り、地球環境は生きものが暮らしやすい元の状態に回復する。すると、生態系に大きな空白がうまれ、幸運にも生き延びたたわずかな生物は、それを埋めるように急速に広がる。そこでの頻繁な遺伝子組み合わせの試みの中で、種の多様化が急速に進んだだろう。
このように、大量絶滅は、既存の生物の消滅と同時に、進化の次の段階を促すアクセルの役割をもっている。過去に大量絶滅が、しかも何回もおきていなければ、私達は今ここにこの姿でいないはずである」、と述べています。
ところで、かつての大量絶滅、ビッグファイブについて考察してみますと、多くの地質学者・地球物理学者・惑星科学者等が注目し、よく研究されているのが第五番目、白亜紀と古第三紀の境界で起こった6500万年前の恐竜と爬虫類時代の大絶滅ではないか、と考えられます。
とくに白亜紀末の恐竜時代を絶滅させて、哺乳類の時代を進化させて、種の多様化に結び付く契機となったのもこの時代だったと言えます。白亜紀末恐竜の大量絶滅をもたらしたのは、地球に巨大隕石が衝突したことによって引き起こされたとする、惑星科学分野の専門家は多いように思います。
数年前に一度読んだことのある本なんですが、比較惑星学の専門家松井孝典先生(まついたかふみ;1946ー )の数多い著作の中の2冊です。現在、先生は東京大学名誉教授で、2020年からは千葉工業大学の学長をされています。比較惑星学の第一人者というか、比較惑星学という学問の生みの親であり、育ての親である、と言った方が適切でしょう。
1986年には世界的に有名な英国の科学誌『ネイチャー』に海の誕生を解明した「水惑星の理論」 を発表して、世界の地球科学者たちの注目を集めたことでも有名です。本節をまとめるに当たり、先生の著書➀『新版・再現!巨大隕石衝突 6500万年前の謎を解く』(岩波科学ライブラリー155、2009)と、②『天体衝突 斉一説から激変説へ 地球、生命、文明史』(講談社ブルーバックス、2014)の2冊に再び目を通してみました。
松井先生ご自身がお書きになっていることなんですが、➀の旧版を出された頃(1999年)は、「私自身が、チチュルブ(注)・クレーター(6500万年前の衝突の跡)の地下構造を地震探査するプロジェクトや、キューバでの地質調査を進めていたので、その頃の調査結果や報告を中心に、6500万年前に起こった巨大隕石衝突という事件の背景を含め、まとめたのが本書」、だそうです。
そして先生は、著書①の《プロローグ ―アルバレスの仮説》において、1991年に、メキシコのユカタン半島の地下に、直径にすると200から300キロメートルくらいの大きいクレーターがあるという論文が発表されたことに関心をもたれたようです。そのクレーターのできた年代は、放射性同位元素を用いた年代決定法で推定した結果、6490万年プラスマイナス10万年前につくられたクレーターであることがわかったそうです。
6500万年前と言いますと、巨大隕石の衝突で恐竜の大量絶滅があった時代と結びつくわけです。それが巨大隕石の衝突と関係があるのかの問題は、一般には地球の地殻ではほとんど含まれていない「イリジュウム」という元素が6500万年前の地層からは100倍も多く含まれていることがわかったのです。
松井孝典先生の言われるには、隕石には、地殻より多くの「イリジュウム」が含まれていますから、隕石が地球に衝突した際のスピードは秒速数十キロメートルにも達するもの凄い速さで圧力がかかるのですから、その衝突の瞬間、水蒸気や隕石の破片が飛び散れば、その時代における地層中のイリジュウムは濃集することになります。
こうした隕石衝突とイリジュウムに関する研究に携わっていた研究者が、ルイス・ウォルター・アルバレス(Luis Walter Alvarez:1911-1988)と息子のウォルター・アルバレス(Walter Alvarez:1940- )の二人です。研究者の親子鷹として有名な方々なんですが、彼らはこの時代の恐竜の大量絶滅とユカタン半島の巨大隕石の衝突は密接に関連している、とする論文(アルバレス仮説)をまとめ発表して、大きな関心を呼んだのです。
ところで、先に掲げた著作➀(2009)の中で、先生は、隕石の衝突と地表環境の変化に言及されています。地表環境に与えた衝突の影響について、「特に浅い海と陸上に大打撃を与えたことがわかると思います。
したがってそのような環境下に生存した生物に大きな影響を及ぼしたはず」(2009、93頁)で、浅い海にいた生物の大部分が絶滅し、陸にいた大型動物もほとんどが絶滅したと言われています。また、松井先生は、6500万年前にいた生物の60から70%が絶滅したと推定されています。いわゆるそれが、白亜紀の隕石衝突がもたらした大量絶滅なのです。
(注)チクシゥルーブ・クレーター(Chicxulub crater)と書いてある書物もあります。