生き物の種類を調べると、必ず和名の他に学名があります。学名は、スウェーデンの学者カール・フォン・リンネが生物分類を体系化した際に、種名に属名と種小名で表す二名法を採用したもので、それはラテン語で表すことになっています。
それはどう発音するのか、外国語は苦手なので細かいことは調べずに放っていたのですが、少し気になってラテン語の本を覗いてみると、それまで耳にしていた学名の発音と少し違います。それどころか場合によってはだいぶ違います。
一般の人でもその違いを体験できる場所と言えば花屋でしょうか。園芸植物の多くは花の名前をおおまかに属名で呼んでいます。ただ、いささかその発音がラテン語とは違っています。
「シクラメン」という名で通っている花は、属名が「Cyclamen」で、発音を仮名で表現すると正確ではないのですが“キュクラメン”(「y」は‘ユ’と‘イ’の間のような母音)となります。「ハイビスカス」という花は、属名は「hibiscus」で、同じように仮名で表現すると“ヒビスクス”となります。
山などへ行って虫屋さんなどが話しているのを聞いていると、よく属名や種小名を通称にして話しています。ラテン語は古代ローマ人の言葉なので、学校で教わるローマ字読みをするとおおかた近い発音になるので、日本人にとっては読みやすいかもしれません。しかし、違う部分もあるので要注意です。
ある昆虫関係の雑誌を見ていて、「アイヌホソコバネカミキリ」の話が出ていました。学名は「Necydalis major」で、“更に大きなホソコバネカミキリ”といった意味でしょうか。話しの中では通称「マジョール」とされていました。あくまでも通称なのでそれが正しいとか間違っているとか言う話しではありませんが、ラテン語の発音としては“マイヨル”となります。
だいたい見ていると、日本人がラテン語を発音する場合は、英語の発音の影響を多く受けているようです。外国語に対してこだわりのない日本人ですから、多くの人はどちらでも良いように考えておられることと思いますが、ヨーロッパでは国によってはこだわりがあるようです。
「virus」は病原体のことで“ウィールス”(「v」は英語の「w」に相当します)と発音します。日本では“ウィルス”と発音するのですが、英語では“ヴァイァラス”と発音するようです。「Venus」は日本人も“ヴィーナス”と読んでいるのですが、本来なら“ウェヌス”です。「Caesar」にしても然り、“シーザー”ではなくて“カエサル”です。いずれにしても名前ですから、他の読み方は本来あり得ないものだと思います。カエサル氏に後ろから「シーザーさん!」と呼んでみたところで、振り向いてももらえないでしょう。
学名は世界共通の名称であるはずなのに、書いた場合は通じて話すと通じないのでは、場合によってはいささか不便な気がします。会話の中に学名が出てきても、綴ってもらわなければ分からないようでは困ることもあるのではないでしょうか。幸い私は学者でもないし学会で他の人と話すような事はありえないので、人ごとではあるのですが。
しかし、学名をラテン語本来の発音で読もうとすると難しい部分があります。例えば、人名や地名を学名にあてている場合です。綴りもその国の綴りのままあてているので、それをどう発音するかが悩むところです。
とてもきれいな「ルリボシカミキリ」の学名は「Rosalia batesi」です。種小名は、ベイツ型擬態の発見者で知られるヘンリー・W・ベイツ氏にちなんで、その名「bates」に属格の格語尾「-i」が付いて「ベイツ氏の」の意味になっているのですが、これをラテン語で発音すると“バテスィー”になって別人のようになってしまいます。もしローマ人なら発音通り「beitsi」と綴ったかも知れません。
いずれにしても学名を発音する場合、人名や地名はまたの機会に考えるとしても、基本はラテン語であるので、各国々の変則的な発音ではなくて、ローマ人が話していたラテン語をその通り発音することに統一して、どの国の人にも通じるようにするべきではないかと私は思います。
詳しいラテン語の発音などについては、本などで知ったことを次の機会に紹介しようと思います。