とんねるず主義+

クラシック喜劇研究家/バディ映画愛好家/ライターの いいをじゅんこのブログ 

ザ・ミッション 非情の掟

2006年03月25日 16時06分18秒 | 香港的電影
『ザ・ミッション 非情の掟』
(鎗火 The Mission ジョニー・トー監督 1999 香港)



『暗戦 デッドエンド』の記事で、タイタンさんより「アジア映画ベスト5は?」とのコメントをいただきました。タイタンさん、いつもありがとうごじゃいます♪

アジア、というと範囲がとてつもなく広くなっちゃうので、勝手に90年代香港映画に限定させていただきました(功夫映画と周星馳映画はのぞく。それはそれでまた多すぎるので)。
それでも観ていないものが多すぎて、ベスト5を選ぶのもおこがましいんだけど…と、ごちゃごちゃ言い訳しつつ・・・


『欲望の翼』(ウォン・カーウァイ監督 1990)

『黒薔薇vs黒薔薇』(ジェフ・ラウ監督 1992)

『つきせぬ想い』(イー・トンシン監督 1993)

『女人、四十』(許鞍華監督 1996)

『ザ・ミッション 非情の掟』(ジョニー・トウ監督 1999)


ってな感じかなあ?
とりあえず、いろんな監督、いろんなジャンルの作品から、ひとつずつ選んでみました。すべて日本でソフト化されています。
うーん、いずれおとらぬ名作・傑作・珍作ぞろいだ(と一人で満足)。

で、今回取り上げますのは『ザ・ミッション 非情の掟』。

上にあげた5本の中で、わたしのベスト1がこれ。おそらくすべての香港映画をあわせても、やっぱりトップ5に入るでしょう。それほどに衝撃を受けた作品です。

黒社会のある組長(エディ・コー 高雄)が命を狙われる。護衛として呼び寄せられた五人のスナイパー。今は足を洗ってそれぞれ仕事を持っているが、かつては黒社会に属した男たちだ。一度黒社会に身をおいた者は、声がかかれば逆らえない。それが掟だ・・・

簡単にいうと、彼らが組長を守るために敵と戦い、絆を深めていくという、ヤクザ映画にはまあありがちな話です。

しかあし!
この映画のガンアクション、とにかくすごい!
その特徴をひとことでいえば、「リアリティ」。銃の撃ち合いって、実際はこういうもんなんだぜ、というのを見せてくれて、それがとにかくかっこいい!!

わたしたちが見慣れて来たガンアクションというのは、銃を持って走り回ったり、床を転げ回ったりする派手なものですよね。それはそれで迫力があっていいのですが、でもそれはリアルではない。

一方、『ザ・ミッション』のスナイパーたちはというと、直立不動で、標的にねらいを定めて撃つ、ただそれだけ。それなのに、その姿はとてつもなくクールで、緊迫感があり、そして美しいのです。

特に、五人の主役の中で射撃の天才を演じているロイ・チョン(張輝揚)がいい。並外れた射撃コントロールと動体視力を持つ彼は、敵との1対1の撃ち合いにもまったく動じません。絶対に負けない、という自信と確信に満ちたその姿は、まるでギリシャ彫刻のような様式美さえあふれています。

とにかく誰もあわてずさわがず、徹底したプロ意識で組長を守る。なぜならそれが掟だから。その潔さは、ほとんど武士道のような高貴ささえただよわせています。

彼らは、自分達のプライベートをべらべらしゃべったりはしない。でも時に、ちょっとしたいたずらや遊びで、互いを和ませます。それが非常に繊細に描かれていて、すばらしい。言葉にしなくても、彼らはお互いを深く理解している。きわめて高い能力を持ち、また共通の義侠心に支えられた彼らだけの、以心伝心の呼吸が、そこにあるのです。

考えてみると、同年に撮られた『暗戦』でも、この"以心伝心"が描かれていました。
監督は『ゴッドファーザー』の例をあげて、マフィアや黒社会、ヤクザ社会など世界中どこでも同じなんだと言っています。ギリギリに追いつめられた男たちの"以心伝心"というのが、ジョニー・トーのテーマなのかもしれない。彼が時々北野武と比較されるのもうなずけるってもんです。


『ザ・ミッション』は低予算映画で、大スターは出ていません。しかし出演者はみなひとクセふたクセ、百クセぐらいある個性派揃いです。アンソニー・ウォン(黄秋生)、フランシス・ン(呉鎮宇)、ラム・シュー(林雪)、サイモン・ヤム(任達華)。いろんな香港映画作品に顔を出している面々ですので、ぜひ記憶のかたすみにとどめておいてください。

映像は、『暗戦』よりもスタイリッシュです。ぶっちゃけ、香港映画は映像面ではやや他国に劣るかな~と以前はかんがえていましたが、『ザ・ミッション』を観て、そんな時代も終わったのね、と実感。

とにかく映像が美しい!ローアングルへのこだわり、クローズアップの回避、ゆったりとしたキャメラの移動、そういった映像言語のすべてが、物語にぴったりマッチしているのです。

音楽もしかり。キーボードだけのシンプルな音楽(予算がなかったのかも)ですが、印象的なモチーフが、「ボレロ」のように「戦場のメリークリスマス」のように、全編にわたって繰り返されます。

ストイックでいてコミカル。スタイリッシュでいてリアル。
ああ、これくらいいい映画を、日本人も作らなきゃなあ!





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