とんねるず主義+

クラシック喜劇研究家/バディ映画愛好家/ライターの いいをじゅんこのブログ 

NHKスペシャル「チャイナパワー第一回 電影革命の衝撃」

2009年11月23日 00時15分43秒 | 香港的電影
11月22日から3回シリーズで始まったNHKスペシャル「チャイナパワー」の第1回を見ました。

最近はあまりまじめに追いかけてないのだけど、いちおうの香港・中国映画ファンとしては、非常に興味深い内容でした。いくつか考えるところもあったので、メモとして。



ピーター・チャン監督の新作『十月囲城』は、主演の孫文役がドニー・イエン!
まさか地上波NHKでドニーさんのお姿が拝めるとは。「イエンさんは香港アクション映画の牽引者で・・・」なんて真面目なナレーションがついちゃってました(「イエンさん」て・・・)。

撮影現場で、アクション設計がうまくいかなくて苦悩するドニーさんが映されてましたが、そんな姿にもつい苦笑してしまうのはなぜだろうか。さすが香港映画界一のナルシスト!

ドニーさんは監督に「思いきって芝居を変えてみたい。今のままでは前と変わらないアクション映画になってしまう」と訴えていた。NHKの意図としては、そこに新しい"チャイナパワー"を象徴させたかったのかもしれないが、香港映画人の進取の気質は伝統的なものであって、なにもドニーさんの言葉が特別なんじゃない。



中華圏の映画人がハリウッドに流出したことについての番組内の説明。実におおざっぱ。
香港の人材がハリウッドに渡った背景には、1997年の香港の中国返還が大きな役割を果たしていたはずだけど、それについては一切ふれず。「中国の映画人」とひとくくりにされてしまっていた。



中国は、急速な経済成長にともない、映画産業を国の重要な文化事業とみなして、その発展に政府として大いに力をいれてゆく計画らしい。しかし中国映画の歴史をかんがみると、なんとも皮肉というか、おもしろい時代だなあと思う。

戦後、そして文化大革命の時代、国からの迫害を逃れて北京の映画人は香港や台湾に大量流出した。彼らがのちの香港・台湾映画の基礎をつくりあげた。いっぽう大陸では、毛沢東の妻・江青が元女優だったことなどもあり、党のプロパガンダ映画制作が奨励されていた(たとえば謝普監督など)。

80年代後半から90年代にかけて、中国第五世代監督の隆盛。張藝謀、陳凱歌、田壮壮らの作品が海外の映画祭で高く評価される。が、文革を痛烈に批判した作品群は中国国内ではもちろん上映禁止。

そんなふうに映画が国家にほんろうされてきた歴史をかんがえると、現在の中国政府の映画政策も「何をいまさら」というか「また利用する気か」という感慨を起こさせるのもやむをえない。



しかし、やはり香港映画人たちは考え方のスケールがちがう。というかしたたか。経済成長の波にうまく乗って、香港の限られた資本ではできなかったことをやろうとしている。確かにピーター・チャンの『ウォーロード』は、どっか安っぽさが抜け切らない従来の香港大作映画(観る側はその安っぽさが大好きなんだけど)にくらべて、お金のかけかたがケタ違いでした。

もちろんそういう行きかたがあっていい。それこそがチャイナパワーのすばらしいところでもあります。中国がもつ良い意味のしたたかさ、おおらかさ、スケールの大きさに、わたしは畏敬に近い思いをもっています。



ひとつだけ危惧するのは、映画によって中国文化を世界に知らしめようとするプロセスで、チベットやウイグル族といった少数民族の文化も「娯楽映画」の名の下にとりこまれてしまうのではないか、ということ。

国家による検閲について、ピーター・チャンは「おもしろい映画さえ撮れば制度はおのずと変わってくる」と言い、イー・トンシン監督は「大陸のタブーでは撮れないものを香港で撮り続けたい」と言う。ピーター・チャンは少々楽観的すぎる気もしないでもないが、イー・トンシンも言い訳をしているだけなのかもしれない。



今回のNHKの番組では一切ふれられなかったチャウ・シンチー。大陸のファンの女の子が「ジェット・リーとチャウ・シンチーを見に来たの!キャア~♪」と言ってたので期待したが、ご本人の映像出てこず。がっかり・・・

シンチーはかなり以前から大陸資本との提携を積極的にやっていた。彼も本当は97年にカナダへ移住したかったのにいろんな事情があってできなかった、という噂を聞いた事があります。彼の人気はアメリカでも高いし、大陸では英雄とあがめられている。ハリウッドと中国、両方とパイプを持っているところに、シンチーのビジネスマンとしての強さを感じます。



『十月囲城』の撮影現場に、日本が誇るアクション監督・谷垣健二さんの姿も。谷垣さんは『カムイ外伝』でもアクション設計を担当していて、この映画のアクションは超一級品でした。日本映画は、中国パワーに「対抗」してる場合じゃなく、互いのハード、ソフト、ノウハウを共有しつつ、良い意味での競争をしていく必要があるのでは。

日本で1年に劇場公開される中華圏の映画が片手の指にあまるほど。レンタルビデオ屋では韓流コーナーにおされて華流ソフトは棚のすみっこ(その半分はF4関連)。こういう状況が変わってゆくのなら、ファンとしてはチャイナパワー大歓迎でございます。


「映画とは、芸術とビジネスの奇妙な結婚である」とかつてブルース・リーは言った。中国映画は、その芸術面ではずっと以前からチャイナパワーを知らしめてきた。いまビジネス面でも一大革命が起きようとしている。おもしろい時代になってきました。






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