幕末の京都。尊王攘夷の嵐の中で、尊王意識が高まり「太平記史観」が急激に評価された。その結果、楠正成や新田義貞が英雄視された一方、足利尊氏・義詮親子が敵視された。その挙句、京都衣笠にある足利家菩提寺の等持院。ここには、歴代足利将軍の木造が安置されているが、尊氏・義詮親子の木造が盗み出され、斬首の上鴨の河原に晒された。獄門の刑である。
一方、この度のアメリカに端を発した黒人差別反対運動は世界的に高まりを見せている。その結果、アメリカ中の開拓・建国時の英雄たちの銅像が破壊されていると聞く。いずれも支配した白人と差別された黒人たちの象徴なのだと言う。
このように行き過ぎた衝動的行動に走るものだ。文化遺産はそれぞれ同時に「負」の遺産の象徴でもある。支配者がいれば必ず被支配者がいる。勝者敗者の歴史の積み重ねである。英雄は敗者から見れば単なる侵略者でもある。歴史の進化とともに価値観が変化し、その都度貴重な歴史遺産を破壊しても実質的には何も変わらない。
ここは冷静になってもらいたい。
・・・・・・・。待てよ、黒人の差別を象徴する銅像がダメと言うなら、韓国の「慰安婦像」はどう考える?世界には様々な価値観がある。