OT園通園日記

車椅子生活の母を老人ホームへ訪ねる日々。でもそればかりではいられない!日常のあれこれを書いています。

金木犀

2005年10月06日 | Weblog
空気を吸い込むと、金木犀の香りがかぐわしい。
朝、犬の散歩に出て、i-podから聞こえる「A Cappella」というゴスペルグループの歌に耳を傾けていたら、ふいに去年の秋に飛んでいた。

あのころの母はまだ意識を回復したばかりだった。
気道に、まだ酸素を吸入し、痰を吸引するための穴を開けていた母は、話すこともできず、ただ私の顔を見ると嬉しそうに笑いかける。
右足と左手には重そうなギプス。
何か少しでも希望を叶えてあげたいと、ホワイトボードを渡すと、「家に帰りたい」とばかり書いていた。

なんとか少しでも気を紛らわせたくて、母の好きな金木犀の花を病室に持っていきたいと思った。
実家の庭に咲いていたはずの木を見に行ったら、枯れてしまっている。
近所で何とかと、散歩の途中に緑地公園の隅に咲いていた一枝をそうっと折り取った。

その公園の一角には、数本の金木犀が生け垣のように並んで咲いて、今はねっとりとした甘い香りが漂う。
行き帰りの車で流していたゴスペルの祈りの調べを聞きながら、甘い香りを呼吸していると、あの頃のどうしようもない切迫感と心細さがよみがえる。

去年の秋には何があったっけと思い返しても、細かい事柄はあまり思い出せない。
ただ、時々こんな形であの時の気持ちだけが急によみがえってくる。
焦りに似た気持ちと、胸のドキドキ感。

今年も一枝もらって、母の部屋に差して上げようかな。
思い出も新しくしていきたいから。