デューク・アドリブ帖

超絶変態ジャズマニア『デューク・M』の独断と偏見と毒舌のアドリブ帖です。縦横無尽、天衣無縫、支離滅裂な展開です。

ドンエリスノアンゴウヲカイドクセヨ

2008-01-20 07:49:44 | Weblog
 個人情報保護のためパソコン通信ではメッセージを暗号化することは欠かせない。暗号の歴史は古く、シーザーの時代にカエサル暗号が開発されている。国を治め、軍を動かすためには貴重な秘密がライバル国家に漏れる危険性を理解していたのだろう。カエサル暗号は文字をずらす方式だが、文字を数字に置き換える方法をゲマトリアの秘法といい、中世ユダヤ人の間で流行して以来広く使われている。

 そのゲマトリア数秘術のようなタイトルの曲「33 222 1 222」で始まるのは、ドン・エリス・オーケストラのモンタレー・ライブ盤だ。ベースが3人、打楽器奏者が3人という変則編成に加え、変拍子の展開、さらに前衛的なプレイとくる。果たしてこのような実験でスイングするのだろうかと・・・前衛的なビッグバンドは、ヨアヒム・ベーレントがプロデュースしたバーデン・バーデン・フリー・ジャズ・オーケストラの成功例もあるが、ほとんどは統一性を欠くフリーキーな音の集合で失敗に終わるケースが多い。理論が実験によって検証されない例は化学だけではなく、広く芸術にまで及ぶようだ。

 このアルバムには、最初静かだった聴衆も次第に熱を帯び、最後は割れんばかりの拍手と歓声で沸き返る興奮のステージに変っていくようすが記録されている。70年代のスタン・ケントンと評されたエリスのバンドは間違いなくここでスイングしていた。シャープで透明感のあるエリスのトランペットはキャンディド盤「How Time Passes」で聴かれるが、トランペッターよりも前衛でありながらスウィンギーな曲を作る異色のミュージシャンとしての評価が高い。エレクトリック・トランペットをいち早く吹き、ロック・ビートや電子楽器を取り入れたスタイルは、フュージョンの魁であろう。

 変拍子でスイングするという革新的なオーケストラを編成したのは66年のことであった。このライブが収録されて40年以上経ったが、エリスの変拍子ジャズを踏襲し、発展させたプレイヤーはいない。未だエリスの暗号「33 222 1 222」は解読されていないことなる。
コメント (26)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする