呑んべぇ爺さん

呑んべぇ爺さん「音岳」の記録とつぶやき

発送電分離?

2011年05月20日 | つぶやき

 菅直人首相は18日、電力会社の発電、送電部門の分離を議論する思いつき?の考えを、またもや表明しました。以前、電力自由化の時にも議論されたようですが、議論するにしても、電力の一番重要な特性である「消費=発電」という事をわきまえた上での「電力の安定供給」の議論が必用だと思います。

 大規模停電がどうして起きるのか、理解していない人が多いようです。専門的には物理現象として同期発電機が電力系統との周波数同期がとれなくなり脱調が起きるからですが、解りやすく言えば発電量以上の消費が起きると、発電機が瞬時に発電する能力が無くなって、突然空回りし、送電線から切り離されます。(イメージとしては、自転車で坂を登って漕いでいる時、次第に坂の斜度がきつくなって漕いでも進まなくなり、突然チェーンが外れて空回りするという感じです。)すると他の発電機も消費に追いつけませんので、電力系統につながっている発電機が同様に次々脱落するのです。

 「計画停電」という言葉が世に普及?してきたために、何となく理解していらっしゃる方が増えたのではないかと思いますが、一瞬でも消費電力が発電量を上回らないように、刻々と発電量を調整(電力需給調整)しなければならないのです。これはどこでやっているかというと、電力会社の「(中央)給電指令所」が行っています。

 ここでは、長年の消費電力統計と気象予測などを元に、消費電力をいろんな時間のスパンで予測した上で、どの発電機をいつ回すかを決めて、現場の発電所に指令しているのです。発電機の使用(運用)を決めるにあたっては、当然ながら(資産の償却も含めて)発電コストも考慮されます。つまり、これまでの日本の発電所の実態では、発電コストの高い「火力発電所」より発電コストの安いと言われてきた「原子力発電所」を優先して動かそうとするのですが、春先から夏にかけての雪解けの時期や梅雨時ならば水を捨てずに「水力発電所」を有効に利用すべきなのです。「原子力発電所」は消費電力に追随して出力の上げ下げが不得意です。なので夜間余った電力で「揚水発電所」動かす事(ピークシフト)も考えなければなりません。

 それだけではありません、発電機は定期的に異常がないか検査しなければなりません。また、何時どこの(原子力・火力・水力)発電機が定期検査をするのか、「水力発電所」の水のたまり具合はどうか、「火力発電所」の重油価格の変動・予測はどうかなど、複雑な状況を考えながら総合的に進めなければなりません。それに、1つのルートに乗せられる電力には限界があるので、どのルートの送電線で電力を送るかの調整も必用です。

 電力消費動向を踏まえて、こんな複雑な調整を、利害の違う複数の他企業を含めた世界で、時事刻々に調整するのには、かなりの困難が発生すると思われ、調整が失敗すると、即、大規模停電になるのです。(実際は消費を優先的に遮断するという仕組みも作っているので、簡単には大規模停電にはなりませんが・・・)

 勿論ヨーロッパなど他国で、発送電分離を実施している国もありますが、待機電力のような何らかの犠牲もある筈です。イメージで言えば、必要ない発電機を予備運転(空回し)、または待機しておけば、いざ故障や事故が起きた時の発電機の予備になります。しかし待つ間のメンテナンスコストがかかる事や、例え空回しでも、例えば火力発電所であれば余熱して置かなければ直ぐに立ち上げられませんし、水力発電所なら捨てる水が多少なりとも使われるのです。(実際、水力発電は立ち上がりが早いので、空回しにする事はありませんが・・・)

 独立発電会社がコスト中心にぎりぎりの利潤追求のみに専念すれば、想定外?の故障や事故も増える懸念があります。1つの会社で多数の発電機を持っている場合、利益の大きい発電機を優先して回そうとするでしょう。発電機の建設コストが高くなって採算がとれなくなれば、需要が増大して発電機の建設の必用が出てきても、建設に乗り出そうとしなくなるでしょう。ひとたび大規模停電が起きれば、国民生活のみならず経済活動に大きなダメージが発生します。

 再生可能エネルギーの促進に発送電分離というのは、1つの選択肢であると考えられますが、「電力の安定供給」という意味で、発送電分離をするには、スマートグリッドといった理屈だけの世界でなくて、利益構造を含めた系統全体の有機的な一体運用ができるような仕組みが新たに構築できなければならないと思います。