近所の大型スーパーに行って母の好物を見かけて、あっと思った直後に「そうだった。」と気付いて通り過ぎる。一緒に買い物にいき、嬉しそうに食品棚を見上げる母の横顔が忘れられず、ホームで撮ったスマホの動画は未だ観ることが出来ないでいる。昨年顔を見に行くと、建長寺の高井和尚様にご恵投いただいた『建長寺物語』を膝に車椅子で眠り込んでいる姿に、起こすことが出来ずにしばらく座って眺めたことを思い出す。私の手がけるモチーフは友人の間でさえ年々、馴染みのなさに遠目に目を細めて眺めているような有様であるが、ホームに持っていった蘭渓道隆(大覚禅師)の頭部の私の説明に、何も知りもしないのに知ったかぶりまでして興味深そうにしてくれる母であった。
