入手した日本髪のカツラは、おそらく貸衣装屋あたりから出た高島田である。花嫁用の、もちろん独身者用なわけで、実際は40くらいの女房の丸髷に加工しなくてはならない。一般の花嫁が使う高島田に対して、丸髷の需要が少ないのは当然で、手頃な中古となると高島田を選ぶしかない。 撮影時には、日本髪について調べている余裕もなく、あとで合成することに決めていた。気持ち悪いだなんだ、といいながら、櫛、笄など入手したこともあり、合成を始めている。それにしても自分が始めたこととはいえ、島田と丸髷の違い、笄の使い方、使われる布は手柄という、等々、いちいち知らないことばかりで大変である。それに素人と玄人の違い、年齢、身分により様々だ、というのだから、私がこの件を後回しにしていたのは、人毛のカツラの薄気味悪さだけではないのである。 しかしこんな物を入手し、着物に関してお世話いただける方が近所にいるとなると、妙な虫が湧いてくるのを抑え難い。もちろん当初考えていた鏡花の『高野聖』も良いが、乱歩、鏡花、と来たら谷崎である。その他、伊藤晴雨であんな場面やこんな場面を作らなければ殺す、と脅迫されたなら、しかたなく?作るであろう。 手持ちの私家版には、日本髪が徐々に崩れていく様子を描いた付録が付いている。いやこんな妄想している場合ではない。まずは鏡花作品を完成させなければならない。いやその前に森鴎外の仕上げをしなければならない。
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