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マチ弁が暇なときに,情報提供等行います。(兵庫県川西市の弁護士井上伸のブログです。)

傍聴のススメ

2006年07月09日 | ⑫雑談
是非一度法廷傍聴に行ってみましょう。

【1 傍聴へ行こう】

法廷には,そこら辺に転がっている身近な問題から,別世界の未体験な出来事まで様々なドラマがあります。
法廷傍聴では,ワイドショー的な事件,事実は小説より奇なり的な事件などみなさんの好奇心をくすぐる事件,泣ける事件,笑える事件,憤る事件まで色々見ることができます。
法廷傍聴に行くことにより今度始まる裁判員制度の予行演習にもなりますし,裁判官,検察官,弁護士などの仕事の一部がどんなものか見ることができます。
その他色々な意味で社会勉強になることでしょう。

また,そもそも憲法82条が裁判の公開原則を定めているのは,傍聴人の監視により裁判をより公正なものとするためです。
もちろん裁判官・検察官・弁護士は,傍聴人がいなくても一生懸命仕事をしていますが,やはり傍聴人がいるのといないのとでは少し緊張感が違う気がします。
裁判を公正なものとし,人権を守り,社会をよくするためにも,裁判官・検察官・弁護士を鍛える意味でも,みなさん是非裁判の傍聴に行ってください。

【2 傍聴の注意事項】

裁判では,関係者のプライバシーなどとてもデリケートな事柄を扱っていますので,あえてここでいうまでもないかもしれませんが,法廷内外でも言動には十分気をつけて下さい。
裁判所や法廷の付近には被告人や被害者の関係者などもおられます。
また,有名事件以外のほとんどの事件では,インターネットなどでは読む人がよめば個人が特定される情報は流さないよう十分気をつけましょう。
ものによっては,名誉毀損やプライバシー侵害にもなりかねませんし,被害者に二次被害・三次被害を与えかねませんし,被告人の更生やその家族の生活を脅かす可能性もありますので。

法廷では,通常マイクなどによって声を大きくする措置はとっていないので,静かにしましょう。
一応裁判官,検察官,弁護人,証人席には,マイクはついているのですが,単に録音用のマイクなので声は大きくなりません。

法廷内は,飲食禁止で,メモはとることはできますが,写真やビデオ撮影は原則許されていません。
(テレビでは開廷する前だけビデオを撮っています)。

【3 傍聴のポイント】

皆様の参考になればと少し長めですが,以下,法廷傍聴の仕方やポイントなど書いて行きたいと思います。

《1》裁判所,法廷への入り方

まず,裁判所ですが,建物自体はだれでも入れます。
東京地方裁判所などでは,金属探知など凶器のチェックなどがあるらしいですが,それを除けば9時から5時までは自由にだれでも裁判所の建物内に入れます。

法廷については,普通の民事や刑事の訴訟では憲法上原則公開が義務付けられており,開廷中は傍聴席がいっぱいにならない限りだれでも自由に入れます。
一部世の中を騒がす有名な事件などニュースになるような事件では,傍聴人希望者が傍聴席数をはるかに超えるため,くじ引きするなどして「傍聴券」を配ったりします。

一般的には,民事裁判より刑事裁判の方が傍聴席から見てて何をやっているかわかりやすいので,刑事裁判を傍聴されることをおすすめします。

裁判の途中でも法廷には自由に入ることができます。
法廷の出入口のドアにはパカッと開いて中が見える小窓がついてますので,そこから中の様子を見ることもできます。

どの事件を見るかについては,開廷中の各法廷の前の掲示板には,開廷表なるものがありますのでそれを見て入ることになります。
刑事裁判の開廷表には,被告人名,罪名,開始時刻,進行予定などが記載されています。

《2》刑事裁判の手続の解説

いよいよ刑事裁判の内容に入りますが,刑事裁判の審理の順番を覚えて行くと,今何をやっているか等わかりやすいと思いますし,よりおもしろくなると思います。
おおまかに解説すると,刑事裁判は,
 冒頭手続(人定質問→起訴状朗読→黙秘権等告知→被告人罪状認否→弁護人意見)
  ↓ 
 証拠調手続(冒頭陳述→罪についての検察官立証→罪についての弁護人立証→情状立証)
  ↓
 弁論手続(検察官の論告求刑→弁護人の弁論→被告人の最終陳述)
  ↓
 判決
という順番で行われます。

冒頭手続(冒頭陳述とは違う)は,上述のとおり
 人定質問
  ↓
 起訴状朗読
  ↓
 黙秘権等告知
  ↓
 罪状認否
という順で行われます。

人定質問は,裁判長が被告人に氏名,住所,本籍,職業などが聞き,人違いがないかを調べる手続です。
冒頭手続でのポイントは,起訴状で読まれた事実が何かを把握すること(その訴訟で審理する対象,事件の概要がわかる),それに対する被告人・弁護人の意見は何かを把握することです(その訴訟の争点が明確になります。)。
被告人・弁護人が起訴状に書かれている事実を全く認めて争わないときは,以下に述べるとおり通常検察官が請求する書証は全部「同意」され,ざっと書証を取り調べ,さっさと被告人の情状についての証人調べに入りますが,被告人・弁護人が起訴状記載の事実を一部でも否認し争うときは,多くの場合検察官の請求する書証の一部又は全部が「不同意」にされ,それに代わる証人の取り調べが行われることになります。

続いて,証拠調手続に入りますが,証拠調手続は,
 冒頭陳述
  ↓
 罪についての検察官立証(書証,証拠品,証人の取り調べ)
  ↓
 罪についての弁護人立証(被告人質問など)
  ↓
 情状立証(情状証人,被告人質問)
という順で行われます。

「冒頭陳述」は,検察官が行うものであり,検察官が証拠によって立証しようとする事実(但し,情状は除く)が詳細に紹介されます。
つまり,起訴状朗読ではわからなかった事件の全貌はこの冒頭陳述を見ればある程度(検察官が把握している事実のうち証拠で立証できる範囲に限られますが)わかることになります。
ここでは,被告人の身上・経歴から,事件の背景やなぜ事件が行ったかという事件経緯などが紹介されます。
ただし,事件の内容は起訴状をそのまま引用して読まれないことが多いので,起訴状朗読とセットで聞くことをおすすめします。

冒頭陳述後,証人尋問までの間の手続は一般の方にはわかりにくい手続なんですが,まず検察官が裁判所に書面(「証拠等関係カード」)を使って証拠の申出をします。
これは読まれないので,ここでは傍聴席ではどのような証拠が出されたかわかりません。

その後,弁護人がその申出のあった証拠について意見を言います。
書証(書面の証拠,例えば被害者,目撃者の供述調書など)は,原則弁護人の同意がなければ裁判所は調べることができません(伝聞証拠の原則禁止。刑事訴訟法320条1項,例外は321条以下)。
この同意がなければ,せっかく警察や検察が時間をかけて取った被害者・目撃者の供述調書等は裁判所では調べられず,その代わりに被害者や目撃者等を呼んできて証人尋問を行うことになります。
これは,被害者・目撃者等の参考人(法廷では証人と呼ばれる)を警察署や検察庁の取調室などの「密室で取り調べた結果」を「警察官や検察官がまとめた文書」にすぎない供述調書を調べるのではなく,その証人を呼んで裁判所が「直接」「公開法廷」でその話を聞くことによって,慎重に審理をしようという趣旨です。

事件の被害者や目撃者になったら,警察や検察に呼ばれて事情聴取を受けますが,最悪の場合,警察,検察に何回も行った上で,さらに裁判所にも行って同じ話をしまくらないと行けないので,少し大変です。

この後,その同意されてるなどして裁判所が調べることを決めた証拠を調べることになります。
書面の証拠の調べは,現在はどういうことが書いてあるかを簡単に紹介されるだけです。
(裁判長は検察官に「それでは検察官,要旨の告知をお願いします」などと言ってこれは始まります)
ここでは書面の内容を要約したものが読まれるか最悪書面の題名しか言いません。
検察官は「甲1号証は○×,甲2号証は□△・・・・乙1号証は●○・・・というよう紹介して行きます。
(乙号証は被告人の供述調書や前科調書や身上等の調書で,甲号証はそれ以外の証拠です。必ず甲号証→乙号証の順で調べられます(刑事訴訟法301条)。)
裁判員裁判が始まると,わかりやすいように実際に書いてある内容を裁判員に読んで聞かせることになるかもしれませんね。

弁護人の罪についての立証は,罪を争っているときだけ行われますが,被告人質問やその他証拠があればその取調が行われます。

それが終わると,情状について弁護人の立証ですが,無罪を主張している場合は特に悪いことをしていないと言っている以上,通常これは行われません。
罪の全部又は一部を認めている事件では,被告人の親戚,友人,会社の上司などの知人が呼ばれ証人尋問などが行われますが,被告人がいかにいい人かや被告人がまた同じことをやらないように監督するかなどの質問がされます。

これらの立証が終わると,弁論手続,つまり,
 検察官の論告求刑
  ↓
 弁護人の弁論
  ↓
 被告人の最終陳述
が行われます。
検察官の論告求刑では,被告人の罪や情状についての意見を言った上で,検察官としてはどのくらいの刑か妥当かという意見を言います。
ここで,検察官が懲役刑として実刑を求めているか執行猶予付判決でもいいかは,求刑の前に「被告人を矯正施設に収容させろ」とか「被告人に矯正教育を受けさせろ」と言っているかで見ます。
弁護人の弁論は,弁護人が有罪か無罪かについての意見や情状についての意見を言います。
被告人の最終陳述では,被告人が「やってません」とか「すみません。もうしません」など好きなことを言えます。

これら冒頭手続から弁論手続までの一連の作業(審理)は,通常何回かの期日に分けて行うことになります(簡単な被告人が罪を認めている事件では1回で終わることもあります)。

これら一連の作業が終わるといよいよ
    判決
ということになりますが,通常は審理とは別の日に行われます。

【4 傍聴会】

裁判所の広報に申し込むなどして行われる傍聴会などもあります。
傍聴会では,広報に頼めば,裁判が終わった後に裁判長や運が良ければ検察官に質問する機会を設けてくれることもあるようです。
必ず質問させてくれるとは限りませんが,滅多にない機会なのでダメもとで広報の人に頼んでみるのもいいと思います。

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