不倫の渚
デンマンさんは、あたしにはまだ分かっていない愛があるとおっしゃるのですか?
そうですよ。
レンゲさんが書いた上の詩の中の“愛”とは、そういうまだレンゲさんが知らない“愛”に対する不安であり怖れですよね。
あたしが愛を恐れているとおっしゃるのですか?
そうですよ。つまり、いろいろな“愛”があるのを知れば知るほど、レンゲさんが育った家庭から、そういう愛を受けてこなかったのではないのか?お父さんとお母さんから他の家庭でならば当たり前の“愛”を受けてこないで、何も知らずに大人になってしまったのではないだろうか?
あたしには、そういう愛に対する不安があるとおっしゃるのですか?
そうですよ。愛に包まれた家庭ではなかった。愛の欠落した崩壊家庭だった。レンゲさんの心のどこかに、常にそういう不安のようなモノが蟠(わだかま)っている。それがレンゲさんの心のしこりになっている。
あたしが境界性人格障害を患っている事も、その事と関係があるとおっしゃるのですか?
決して無関係ではないと思いますよ。しかも、レンゲさんにだって、その事が分かっている。
どうしてそのような事をおっしゃるのですか?
レンゲさんがちゃんと次のような手記を書いていましたよ。
わたしの胸には、愛情はない。
だって教わってないから。
2005-08-13
わたしは生まれた時から、
必要な愛情をあたえられなかった。
両親ともに、
こんなめんどくさい生き物の
ニーズなんて考えもしない。
わたしはいつも見捨てられてきた。
わたしの胸には、愛情はない。
だって教わってないから。
わたしは、親を憎んでいました。
今は“血のつながった
やっかいな他人”だと思っています。
これからどうなるか分かりませんが、
今の私には親との和解は無理です。
ウチの親を客観的に見れば、
社会性が欠如していたんです。
ふたりともボンボンとお嬢だから世間知らずだし。
で、わたし親から最後の一撃食らわされて、
自分は将来利用するために育てられてきたことがわかっちゃって。
親はわたしに向かって確かにそう言ったのです。
それで、わたしは親から離れたのです。
by レンゲ
『デンマンさんが私のことをグロリア・スタイナムに似ていると』より
レンゲさんはこうして書いていますよね。“見捨てられてきた” だから、愛情とは、どういうものなのか“教わってない”と書いているんですよね。最近、日本で起こっている悲惨な事件。。。親殺しだとか、息子殺し、娘殺し、幼児殺し、。。。そういう犯人が心の内を明かすならば、おそらくレンゲさんと同じような事を言うだろうと僕は信じていますよ。でも、レンゲさんのように素直になれないし、また知的でもないし教養もない。だから、自分から進んで精神科に通って境界性人格障害と闘うという気持ちもなかった。その帰結として、ああいう痛ましい事件を起こしてしまった。僕はそう思っていますよ。
つまり、あたしも、まかり間違えば愛人と組んで父と母を殺すだろうとデンマンさんは思っているのですか?
もちろん、そうは思っていませんよ。レンゲさんの場合には、自分で境界性人格障害だとはっきりと分かった。そう分かった時点でレンゲさんは精神科に通い始めている。ある意味で現実に直面して、自分の人格障害と闘おうとしていますよ。少なくとも、レンゲさんのことを良く理解してくれるドクターとめぐり合う事が出来た。だから、悲惨な事件を起こすような事もなかったんですよ。問題なのは、そういう現実に直面したくないという人たちが居る。そういう人たちが悲惨な事件を起こしているんですよ。
現実逃避ですか?
そうですよ。ところでね、僕は現実逃避って英語でなんと言うのだろうか?ちょっと調べてみたんですよ。僕がいつも使っている『英辞郎 on the Web』を使って調べたら次のように出ていましたよ。
現実逃避
cop-out〈俗〉 // detachment from reality // escapism
彼女は時々衝動的に現実逃避したくなる
She sometimes feels an urge to escape from reality.
現実逃避する
divorce oneself from reality // push the reality away // refuse to face (the) reality
現実逃避する人
cop-out〈俗〉
現実逃避の
【形】escapist
現実逃避者
ostrich // ostrich putting its head in the sand
現実逃避主義者
escapologist
現実逃避的な態度
head-in-the-sand disregard for〔ダチョウは危険が迫ると、砂の中に頭を突っ込み、現実を見ようとしないといわれるところから来た表現〕
現実逃避文学
literature of escape
面白いのは“現実から離婚する”という言い方があるんですよね。僕はね、本当にこのような使われ方がされているんだろうかと思って、ネットで調べてみたんですよ。
実際にそのような使い方がされているのですか?
そうなんですよ。そうしたら、あるアニメ好きな連中が集まっているフォーラムに出くわしたんですよ。次のような投稿にぶつかりました。
by tsurumaru 2004-07-07, 10:28
Yes, anyway, Maromi is indescribably evil.
Fantastic Series, along with GITS SAC this will go on my shopping list whenever it is released over here.
As for Maromi, at first I agreed with you but now I'm not entirely so sure:
I think that although Maromi and Shounen Bat are the "same" they are actually flipsides of the same phenomenom, that is imagination used as a means of escape from reality.
Tsukiko obviously lived a life greatly detatched from reality she could not accept responsibility for her own actions and part of her psyche became Shounen Bat bringing retribution to a person cornered by their situation (sagi-san at first, but then later others in the same situation as the power invested in a delusion grew).
Maromi was created in much the same way but to protect Sagi-san from the responsibility by further divorcing her from reality, this "protection" could in some ways been seen as a useful trait as many people need support when facing emotionally tough times.
However the crux of the problem is that this divorcing from reality just created more problems for Sagi-san in the long run (and allowed Shounen Bat to continue to exist) she just seems to be putting off the inevitable and others are suffering in the meantime (so you could says that Maromi is not especially helpful in this sense! :p )
I think she needs to face up to what she did and accept it in which way she could hopefully banish Shounen Bat and Maromi and relate to others (like her father).
Otherwise I think someone else might put her out of her misery and end it all!
Anyway I haven't seen the raws and am eagerly awaiting the final episode! :)
From “Moso Dairinin (Paranoia agent) 妄想代理人”
“鶴丸 (つるまる)”
ホントだよ。とにかくさぁ、マロミは言葉では言い尽くせないほど悪い女なんだよね。
ファンタスチックシリーズは、GITS SAC と同様、リリースされたら絶対買わなきゃと思っているんだぁ。
マロミのことだけどさぁ、僕は最初、あなたと(waoさん)と同じ意見だったんだよ。
でもさ、今では、はっきりとそうだとも思えないんだなぁ~
マロミと(通り魔事件の犯人の)少年バットは同じような者だと思うんだよ。
実際には同じ(心理)現象の表と裏じゃないかと思うんだよ。
Sagi Tsukiko(鷺月子)は、明らかにメチャ現実離れした生活を送っていたよね。
彼女は自分のした事に対しても責任を認めることが出来ない。
つまり、現実逃避の手段としてイマジネーションを使っていた、と言うわけさ。
彼女の精神的人格の一部は少年バットになっていた。
そして、同じような状況に追い詰められた人に報復をしていた。
(初めは鷺さん自身に、それから妄想にどっぶりと浸ってゆくにつれて、同じような状況にある他の人たちに報復した。)
マロミという女は鷺さんと同じような女として(鷺さんによって)構築された。
鷺さんが現実離れしてゆく、しかし鷺さんは責任を取りたくない。
そういう鷺さん自身を守るためさ。
この“自己防衛”は感情的にも精神的にも苦しい状況に置かれた時には多くの人が見せる、いわば本能的なモノだよね。
でもさ、問題の本質は、(鷺さんの)現実逃避が長い目で見た時に鷺さんに、ますます多くの問題をもたらすという事だよね。
(そうする事で、少年バットも生き続ける)
鷺さんは避けられない破綻を引き伸ばしているだけのように見えるよ。
そうしている間にも、他の人たちは苦しんでいる。
(だからね、こういう風に考えれば、マロミは実際には鷺さんの助けにはなってないんだよ。あなただってそう思うよね)
僕は思うんだけどさぁ、鷺さんは自分のしたことに対して直面し、それを認める必要があるよね。
そうすれば、(自分の中から)少年バットとマロミを追い出す事が出来るよ。
そして(彼女のお父さんのように)他の人とも、うまくやってゆける。
さもなければ、他の誰かが、鷺さんがそうするようにサポートしてあげる。
そうすれば、鷺さんも悲惨な境遇から抜け出せるし、すべての苦しみを断ち切る事が出来る。
とにかくさぁ、僕は“現物”をまだ見てないんよ。そんなわけで最後のエピソードを首を長くして待っているわけ。うしししし。。。
長い引用になったけれど、上のように実際に使われているんですよね。
上の訳はデンマンさんが書いたのですか?
そうですよ。
これだけ長く引用して、しかも翻訳までしたのですから、ただ英語の単語を説明するためではありませんわよね?
さすが、レンゲさんですね。知能指数が140もあると、言う事が違いますねぇ~
デンマンさん、こういう時に知能指数を持ち出すのを止めてくれませんか?
レンゲさんの洞察力がすごいなあぁ~と思ったんですよ。僕はレンゲさんの知的なところをほめているんですよ。
分かりましたわ。それで、デンマンさんは何がおっしゃりたいのですか?
僕は“現実逃避”が一体英語で何と訳されるのか?ただ、その事だけに興味を引かれて上のフォーラムを読んでみたんですよ。
それで。。。?
いや、ビックリしましたね。
どうしてですか?
僕が引用した上の記事を書いたtsurumaruさんは、おそらくアメリカに幼い頃から住んでいる日本人か、3世か4世の日系アメリカ人だと思いますね。この人は、実は返信を書いているんですよ。その返信の相手がwaoさんと言う人なんですが、この人は、まず間違いなく日本人ですよ。つまり、移住者か、長い間アメリカに住んでいる日本人ですよ。
どうして分かるのですか?
上にリンクを貼っておきましたから、実際にこのフォーラムをを覗いて見れば分かりますよ。waoさんは日本語の文章まで引用して英語で説明しています。日本人でないと分からないような発音まで知っていますからね。アメリカ人でも、極めてまれには、それ程日本語に習熟した人が居る事を僕も知っていますが、それは極めてまれですよ。
その事にビックリしたわけなのですか?
そうですよ。僕は日本のサイトでは下らない2ちゃんねるのようなモノばかりが目について、しょうがなかったのだけれど、こうして英語が堪能な日本人がアメリカのフォーラムで頑張っているのを見ると、やはりネットの世界には国境がない事がしみじみと分かりますよね。waoさんやtsurumaruさんのように、これからは、日本人がどんどん海外のフォーラムで国際語をつかって交流してもらいたいものだと思いますよ。