◇陰謀のセオリー(Conspiracy Theory)
巨悪陰謀説に惑わされたかに見えるタクシー運転手メル・ギブソンが実は陰謀に巻き込まれて記憶喪失になっていた人物だった、という筋はわかる。わかるんだけど、彼の過去も探らなければ、ジュリア・ロバーツの顔だけおぼえてたっていう記憶がどこまで存在するのか、錯誤と現実の区別が曖昧なだけに判り辛いな。
◇陰謀のセオリー(Conspiracy Theory)
巨悪陰謀説に惑わされたかに見えるタクシー運転手メル・ギブソンが実は陰謀に巻き込まれて記憶喪失になっていた人物だった、という筋はわかる。わかるんだけど、彼の過去も探らなければ、ジュリア・ロバーツの顔だけおぼえてたっていう記憶がどこまで存在するのか、錯誤と現実の区別が曖昧なだけに判り辛いな。
△スリ(2000年 日本 112分)
監督/黒木和雄 音楽/松村禎三
出演/原田芳雄 風吹ジュン 香川照之 伊佐山ひろ子 石橋蓮司 平田満 すまけい 真野きりな
△いつの時代の物語なんだ?
高度成長期の話かとおもったわ。
原田芳雄は格好いいし、風吹ジュンも可愛いし、黒木和雄だからそれなりに期待したのに…。
おいぼれたスリが可愛がってた弟子に指を潰され、ふたたびアル中になりかける彼女を抱いて、刑事に見られながらもはやできそうにないスリの業に挑戦するとかって、いや、これ、現代の話とはちょっとおもえない気がするんだけど、どうしちゃったの?
◇忠臣蔵外伝 四谷怪談(1994年 日本 106分)
監督/深作欣二 音楽/和田薫
出演/佐藤浩市 高岡早紀 荻野目慶子 津川雅彦 近藤正臣 渡瀬恒彦 蟹江敬三 石橋蓮司
◇出だしと締めくくりは『カルミナ・ブラーナ』
ミュージカルあるいは舞台劇みたいな印象。
お岩が湯女で伊右衛門に横恋慕する旗本は気狂い娘で、それで劇薬まで飲ませられ横死しながらも、何故か討入を助けるという物語の暴走をちからわざで捩じ伏せてしまう演出はさすがサクさんなんだろう。
まあ、強引な映画だったわ。
けど、高岡早紀だけが妙に光ってた。
◇39 刑法第三十九条(1999年 日本 133分)
監督/森田芳光 音楽/佐藤俊彦
出演/鈴木京香 堤真一 岸部一徳 吉田日出子 山本未來 勝村政信 國村隼 江守徹
◇リアルさに拘ったの?
とはあんまりおもえないんだけどな~。
実際に「刑法第39条」を主題にしていて、そこにおける問題について提起しようとしているのであれば、もうすこし現実味が欲しかったような気がしないでもない。
たしかに、筋運びは面白い。でも、堤真一がひとり芝居の役者をしているという背景のせいもあってか、どうしようもなく大仰な面が多々見られるし、かとおもえば、他の出演者たちは逆にもごもごと台詞を濁していて、粘着性の高い表情と動作で演じようとしているように感じられる。このギャップはどういうことなんだろね。
演出とすれば、うん、わからなくはないけど、主題が主題だけに、もっと地味な性質の犯人像を持ってきて、徹底したリアリズムに訴えるべきだったんじゃないかっておもうんだけど、どうなんだろね?
だって、ヒロインの鈴木京香の眼鏡もなんだかあざとさばかりが鼻についてくるような印象だったし。
◇遠き落日(1992年 日本 119分)
監督/神山征二郎 音楽/林哲二
出演/三田佳子 三上博史 仲代達矢 牧瀬里穂 田村高廣 河原崎長一郎 長門裕之 山本圭
◇野口英世の否定面
それも書いてる分、焦点の当て方がいい。
邦画で偉人伝みたいなものをするとき、多くの場合、箇条書きになっちゃう。これはほんとに嫌で、まあ映画にかぎったことじゃないんだけど、出版の世界でもそういう本を出そうとする編集者や営業がいたりする。ほんと、物語っていうものを学んだことがないんじゃないかっていうくらいのおばか連中が後を絶たない。
ところが、この映画は野口英世の好悪両面を描き分けたところに演出の良さが見受けられる。演技は全般的にわざとらしさが鼻につくことはつくんだけど、それはまあおいておこう。ともかく、故郷の人々の素朴さと横恋慕される女性の心模様は、野口の妙なこすっからさと上手く天秤にされてて、なんとも上手だ。
さすが新藤兼人ってところなんだろうか。
△福沢諭吉(1991年 日本 123分)
監督/澤井信一郎 音楽/久石譲
出演/柴田恭兵 榎木孝明 仲村トオル 南野陽子 若村麻由美 哀川翔 村田雄浩 芦川よしみ
△箇条書き伝記映画
期待した音楽までもがなんとも残念な青さであるばかりか、なんといっても脚本が辛い。
笠原和夫さんと桂千穂さんの共同ってことになってるけど、完成までまあほんとにいろいろあったようなことが書かれたり伝えられたりで、ほんとのところはよくわからないけれど、とにかく辛い。
少年から成年になるまでもうほんと箇条書きのように点描してるんだけど、敵役の家老が諭吉に「おまえなど出ていけ」と叫んだ次の場面は数年後で、ふたりはとっくに仲良くなっててまた「出ていけ」と叫び次の場面で仲良くなってるなんて、まじ、あかんですよ。
ところで、活弁士の麻生八咫さんもこの映画に藩士のひとりとして出演してるんだけど、ひと言ふた言、台詞があってそれをおもいきり甲高い声で神経質そうにやってみたところ、澤井さんに「端役がめだってどうすんだ!」みたいに怒鳴りつけられてNGになったらしい。役者が一所懸命考えたんだからちょっとは掬ってあげてもいい感じもするけど、八咫さん、ちょっとやりすぎたんだろね。
けど、そんなことはどうでもいいんで、こういう箇条書き的物語になっちゃうのは邦画のいちばんいけないところで、これは単行本や新書とかで妙な伝記めいたものが多くあって、ほんとの意味でのうまい小説がなかなか見受けられないし、たとえあったにしても世間の目に留まらないという、この国のなんともいえない文学の貧困さがそのまま浮き上がっちゃったとしかいいようがない。
ため息でちゃうよ、まったく。
△完全なる飼育(1999年 日本 90分)
監督/和田勉 音楽/十川夏樹
出演/竹中直人 小島聖 渡辺えり子 佐藤慶 泉谷しげる あき竹城 石井苗子 塚本晋也 北村一輝
△新藤兼人、よく脚本書いたなあ
竹中直人のひとり舞台っていうか、コメディの題材かよとおもえちゃうくらいになんだか奇異な感じを受けた。
というよりも前に上滑りするギャグと設定は相当にお粗末で、情けないくらい脚本と演出が稚拙だ。
効果音はまあまあだけどセットもばればれでがっくりするし、小島聖はたしかに綺麗だけど女子高生の意識と台詞にリアルさが欠片も感じられないのは辛さをとおりこして呆然とする。
ほんとうに新藤兼人が書いたの?と訊きたいくらいだけど、まあ考えてみれば、和田勉という人は重低音の効果音を用いたテレビが得意なわけで、映画的な情緒は期待したらあかんのかもしれんね。濡れ場の撮影のときなんか、演出はできないとか言い捨てて出てっちゃったとかいうし。脚本もずいぶんといじっちゃったんじゃないかしら?
◇四十七人の刺客(1994年 日本 129分)
英題/47RONIN
監督/市川崑 音楽/谷川賢作
出演/高倉健 中井貴一 宮沢りえ 西村晃 石坂浩二 浅丘ルリ子 森繁久彌 古手川祐子
◇追悼市川崑その28
人間臭い内蔵助は初めて見た気がするんだけど、どうも往年の『十三人の刺客』とかいった一連の集団時代劇をおもいだしちゃうんだよな~。
ま、それは脚本に池上金男が噛んでいるから仕方のないことかもしれないんだけどさ。
おかること宮沢りえは高倉健との不釣り合いが妙に現実味もあってよかったけど、吉良邸の庭、これはやっぱりいただけませんな。リアルなようでいて絵空事になっちゃってるんだもん。誰の発案かは原作を読んでないし、まあそれはどうでもいいんだけど、なににしてもこういう陣地取り合戦みたいな演出は辛いよ。
いちばんよかったのは「聴きとうない!」という台詞で、こいつはこれまでの忠臣蔵にはなかった。お見事。
◇天河伝説殺人事件(1991年 日本 109分)
監督/市川崑 音楽/宮下富実夫 谷川賢作
出演/榎木孝明 石坂浩二 岸惠子 奈良岡朋子 大滝秀治 加藤武 小林昭二 岸田今日子
◇追悼市川崑その27
原作が市川崑に向いてないんだよね。
ふとした感じは『犬神家の一族』(特にポスターとかね)や『悪魔の手毬唄』をおもいださせるところがないでもないんだけど、オドロオドロしさはまるで影を潜めちゃって、まったくもって中途半端な現代劇になっちゃってる。最後のファイル1というクレジットが、もうなんとも悲しいわ。
加藤武の警部と崑組の役者だけが支えだなんて、もういかん、悲しすぎる。
ていうかさあ、まあ、角川映画ってことになるんだろうから、ほかの版元から探すわけにはいかないんだろうけど、それにしてもなんで…ていうくらいの脱力感だったのは僕だけなんだろうか?
いや、なんつうか、テレビ的なんだよね、原作の世界が。原作を読んでないのになにいってんだって話かもしれないんだけど、どうしても2時間ドラマでよく見かける感じがあるものだから、いくら市川崑が市川崑的に撮っててもやっぱり無理があんだよな~。
◇帰ってきた木枯し紋次郎(1993年 日本 96分)
監督/市川崑 音楽/谷川賢作 ナレーター/日下武史
出演/中村敦夫 坂口良子 岸部一徳 加藤武 鈴木京香 石橋蓮司 上條恒彦 神山繁 尾藤イサオ
◇追悼市川崑その26
タイトルバックはTVかしら?
斬新なカット割にいやまじわくわくした。
紋次郎の墓があって、中年になってからの恋の設定も天眼鏡が水というのも乙な感じだ。
けどまあ、殺陣も決闘前の支度も実にリアルでそのあたりはまったくいうことがないんだけど、惜しむらくはどうしても紋次郎の初々しさが見られないんだよね。まあ、それは「帰ってきた」わけだから仕方のないことなんだろうけどさ。
ふとおもったんだけど、市川崑って人はどうしても横溝シリーズが先に立っちゃうけど、昔の『股旅』もさることながら、こういう侠客の話って好きだったんだろか。金田一耕助もまあいってみれば流れ者なわけで、そういう共通点を市川崑は気に入っていたのかもしれないね。
☆ビルマの竪琴(1985年 日本 133分)
原題/The Burmese Harp
原作/竹山道雄『ビルマの竪琴』
監督/市川崑 脚本/和田夏十 撮影/小林節雄 美術/阿久根厳
音楽/山本直純 音楽補佐/山本純ノ介 竪琴/山畑松枝
合唱/東京混声合唱団 明治大学グリークラブ 明治大学混声合唱団
演奏/東京シティ・フィルハーモニック管弦楽団
出演/中井貴一 石坂浩二 北林谷栄 渡辺篤史 常田富士男 菅原文太 浜村純
☆追悼市川崑その23
ぼくはずいぶんかたくなで、ビルマという呼称をやめる気はない。
これから先も、日本国政府がミャンマーと呼んでいる国を、アウンサン・スーチー女史が「Burma」と呼んでいる以上、ぼくも、それにならうつもりだ。
さて。
先月つまり2008年12月17日に、水島上等兵のモデルとされる僧侶の中村一雄さんが亡くなった。老衰で、群馬県川場村の病院で死去されたそうだ。中村さんは、20名の部隊で捕虜収容所を回って合唱をし、それが小説にされた際のモデルだそうなんだけど、原作者の竹山道雄はビルマに行ったこともなくすべて想像だといっていたらしい。
おそらくは中村さんのことをどこかで耳にしたことが記憶に残っていたんだろうけど、そもそもこの小説は児童文学で、ぼくにしてはめずらしく自分で購入して読んだ本で、なんとも時代を感じさせる中身だった。
ただ、いつだったか、ぼくは、こんなことを聞いた。五筆了以知とかいう陸軍の兵隊さんがいて、かれはオーケストラの指揮ができたものだから、ビルマ戦線に派遣されていた頃、現地で日本兵のオーケストラを作り、その楽隊の指揮者を務めて、各戦線を転進していったんだと。この五筆さんって人にはかなり興味があるんだけど、まるでわからない。
誰か、知ってる人とかいないかな~。
◇おろしや国酔夢譚(1992年 日本 125分)
原作/井上靖『おろしや国酔夢譚』
監督/佐藤純彌 脚本/野上龍雄 神波史男 佐藤純彌
撮影/長沼六男 美術/徳田博 ワレーリー・ユルケーヴィチ 音楽/星勝
出演/緒形拳 江守徹 川谷拓三 三谷昇 沖田浩之 西田敏行 マリナ・ヴラディ
◇追悼緒形拳2
人形浄瑠璃をエカテリーナの前で披露するのが、なんとも唐突な印象があって、ちょっぴり残念な気もしないではない。
もしも浄瑠璃をモチーフにしたかったのなら、映画のすべてを浄瑠璃の音曲と情感で統一して、人物たちの後の人生についても触れてもらえれば、もっと良かったんじゃないのかな~とかおもっちゃうんだけど、どうなんだろね。
ロシアへ行ったことのないぼくは、せっかくシベリアやモスクワに行ってロケできてるのに、口惜しいんだよな~とかおもうんだけど、誰もおもわないのかな?
△咬みつきたい(1991年 日本 98分)
監督/金子修介 脚本/塩田千種、金子修介、金子二郎、福田卓郎
撮影/川上皓市 美術/山口修 音楽/大谷幸 主題歌/久保田利伸
出演/緒形拳 安田成美 石田ひかり 串田和美 吉田日出子 天本英世 糸井重里
△追悼緒形拳
追悼にもならず、きわめて残念。
ポーの一族のような作りなのかと、爪の垢くらい期待したんだけどな~。
案の定、おおかたの予想どおりの展開となってた。
ところで、出演者の女性の方々は、腰を抜かすとき、どうして、下品に股を開いて尻餅をつくのだろうか?
いや、別に悪いとかいってるんじゃなくて、もしかしたらリアルなのかもしれないんだけど、なんだか、すごく気になったんだよね~。
▽RANPO 黛ヴァージョン(1994年 日本 93分)
監督/黛りんたろう 音楽/川崎真弘
出演/本木雅弘 竹中直人 羽田美智子 香川照之 平幹二朗 佐野史郎 岸部一徳 樹木希林
▽奥山版と合わせたら3つある
展開と調子の悪さは狙いなのか?
何が気に入らなかったのか、演出する気がなかったろうと思えるくらい、たっぷりと飽きさせてくれる。
すくなくとも、ぼくはそう感じた。
奥山版は見てないのでなんともいえないんだけど、これはやっぱり撮り直したくなるんじゃないのかな~。美術は流石な感じはあるんだけど、セットばればれの撮影はちょっとね。
乱歩の持ってる雰囲気が書割的な世界だってことはわかるけど、それは今からおもえばって話で、当時は全然リアルな世界だったわけだし。
◇江戸城大乱(1991年 日本 114分)
監督/舛田利雄 音楽/池辺晋一郎
出演/松方弘樹 十朱幸代 三浦友和 池上季実子 加藤武 神山繁 丹波哲郎 江原真二郎 平泉成
◇一千万両で将軍位を買いたい
たしかに、台詞回しは、さすが高田宏治だ。
でも『将軍家光の乱心 激突』もそうなんだけど、どうして、一連の時代劇は将軍の血筋に他人を入れたがるんだろう?
主役の心情がいまひとつ理解できず、魅力的でないまま推移するのはちょっと痛い。
それと、脇役の出し入れが目まぐるしくて、映画全体に落ち着きがなくなってる感じがして、そのあたり、ちょっと辛いかもしれない。
というより、なんとも不思議なのは、この題名とポスターでは中身がまるでわからなくて、まあそれは『将軍家光の乱心 激突』も似たようなことがいえるんだけど、なんだか、観る側としては、おいてきぼりを食らったような気がしないでもない。
とはいえ、蚊帳の外のぼくが宣伝についてとやかくいうのもおかしな話か。