古文書に親しむ

古文書の初歩の学習

第二章 異国舩・その十四(まとめの①)

2011年05月26日 15時37分13秒 | 古文書の初歩

異国舩のまとめ(その①)

定(さだめ)又は定書(さだめがき)とは、江戸時代、法令・規則などを記したものの事。

この「定」は、異国船を発見した時、及びキリシタン取締に関する規則を書いたものです。

一、で始まる文章は、一つ書きと呼び、項目が変わる毎に一で始まります。現在の様に① ② ③ と番号が変わる方が説明する時は便利が良いのにと思います。

最初の一は、陸上に居る時に、海上に異国船風の船を発見した時の定めです。発見した人は、発見した場所の庄屋(現在の村長)に報告すること。聞いた庄屋は確認した上で、自分が所属する組の大庄屋に報告すると共に、組内の他の村々へも報せること。

附則、もし大庄屋が不在の時は、近くの組の大庄屋へ報告すること。

庄屋・大庄屋・組・浦・村について

庄屋・・・江戸時代、藩主が村民の名望家の中から選任し、代官に所属、納税や通達等の事務を統括させた、村落の長のこと。ここには出て来ないが、助役の仕事をする役を「肝煎」(きもいり)と呼びました。庄屋は年貢を立て替えたりする事が出来るほど、相当な資産家が任命されたようです。(関東地方では庄屋と呼ばず「名主」と言ったようです。)

大庄屋・・・庄屋が一村の長で、大庄屋は一組の長になり、相当な権力者でした。普通、苗字と帯刀が許されます。(苗字帯刀人) 私の地方で言えば、周参見代官所管内の五つの組は「周参見」「江田」「古座」「三尾川」「四番」です。当地は「江田組」に属し、仮に田並の沖で異国船を見つけたら、その人は田並の庄屋に報告、田並の庄屋は江田の大庄屋に報告し、大庄屋がたまたま留守だつた場合は、隣の古座組の大庄屋に報告しなければなりません。大庄屋は「おおじょうや」と濁って言いました。

浦・村・・・一般的に最小行政単位は村でした。江戸時代米穀経済の時代ですから、年貢(税金)は米で納めます。浦は一般的に海岸沿いの村を言い、漁業を主体とした経済ですから、年貢はお金で納めます。上記の五つの組内には、百六十二の村や浦が有り、その内、浦は十七だけでした。

二つめの一つ書きは、舟で沖へ漁に出ていた時に、異国船を見つけたら、早々に庄屋に注進すること。近くに仲間の舟が居る時は、仲間の舟に報せて置いた上で、港に漕ぎ戻る事。仲間の舟は、跡に残って、異国船の進行方向を見届ける事。

附則、異国船をいち早く見つけた者及び残って行衛を見届けた者には、ご褒美を下さる事。

以下つづく。


第二章 異国舩・その十三

2011年05月24日 11時35分19秒 | 古文書の初歩

異国舩の第4ページ(最終ページ)

解読

   右之趣前々数度被仰出候得共

   猶又今度御改被 仰出之間

   常々惣百姓共ニ読聞せ無油断

   可申付者也

   正徳六年申三月

読み方

   右の趣(おもむき)、前々数度仰せ出(いだ)され候得(そうらえ)ども

   なお又今度、御改め、仰せいださるの間(かん)

   常々惣百姓どもに読み聞かせ、油断無く

   申し付くべきものなり。

解説

   この定め(条例)の締めくくりの項目です。  「右之趣」の「趣」(おもむき)と言う字は、古文書ではもっと頻繁に出る言葉ですが、本ブログでは始めてで、崩し方は様々ですが、この文字は比較的読みやすい方です。「走」部首に、旁が「取」と読めます。もっとも「取」も難しい崩し字ですが・・・。 「被 仰出」・・・何度も出ました「仰出「が上層部からの敬語ですから、こういう場合は、恐れ多い意味で、文字の上一字分を空白にします。 「被」は受け身を表す言葉で、下から返って「おおせいだされ」と読みます。 下の三文字も解りにくいですが、「候得共」で、「そうらえども」と読み、「前々から何度も仰せいだされたが、」という意味になります。

 「今度」は、この場合「こたび」と読んでおきます。 「仰せいださるの間」は、「仰せいだされたので」。 「惣百姓」は江戸時代、一人前の百姓・農民の事で「本百姓」とも言いました。「水呑百姓」の上の階層ですが、本文の場合は、「すべての百姓」の方が意味が通る様に思います。  「読み聞かせ」・・・百姓は普通文字が読めないので、読んで聞かせる。

 「無油断」・・・下から返って、「油断無く」と読む。  「可申付者也」・・・「申し付けるものである。」

 「正徳六年」は一七一六年で、江戸時代中期、今からおよそ三百年前の条例と言うことになります。大地震があった宝永年間の次の年号で、正徳六年は六月に改元して、享保元年となります。この当時から、近海に外国の船が出没していた事がこの古文書で解ります。

 「申」は年号の表示の際、必ずと言っていいほど附ける十二支で、未(ヒツジ)申(サル)酉(トリ)のサルです。

 

 


第二章 異国舩・その十二

2011年05月23日 14時39分04秒 | 古文書の初歩

 異国舩の第三ページの最後の一つ書き

解読

一 き里志たんをかくし置者阿らバ

   当人ハいふ尓をよバ須゛親類末類まて

   重科尓申付其上一郷の毛の共いつ連も

   可為曲事

読み方

 一つ  キリシタンを隠し置く者あらば

   当人は言うにおよばず、親類末類まで

   重科に申し付け、その上一郷のもの共いづれも

   曲事(くせごと)たるべし。

説明

   一、キリスト教徒を隠しておく者があったら

      隠した本人はもとより、親類や遠縁の者まで

      重い罰を申し付け、その上一つの村の者、いづれも

      違法として処罰する。

解説 きりしたん・・・キリスト教徒。 「里」・・・「り」の変体仮名。 「志」・・・「し」の変体仮名。 「阿」・・・「あ」の変体仮名。 「須」・・・「す」の変体仮名。 親類末類・・・親類を強調して言う言葉。 重科・・・重い罪・罰。 一郷・・・一つの村、「郷」の崩し字もひどい省略字です。 「毛」・・・「も」の変体仮名。 「連」・・・「れ」の変体仮名。 「可為」・・・「たるべし」と読みます。 「曲事」・・・「くせごと」と読みます。違法な事、違法に対する処罰。 「可為曲事」・・・下から返って「くせごとたるべし」と読み、「法に反する者として処罰するぞ」と言う意味です。                       

   


第二章 異国舩・その十一

2011年05月22日 10時25分58秒 | 古文書の初歩

第三ページの二番目の一つ書きに入ります。

解読

一 き里志たんの法をすゝむる者有之

  あるひハ金銀をくれたぶらかし候ハゝ

  先こゝろよく受候て早々可申出

  公儀より其やくそくの一ばい御ほうび

  可被下御定也猶御国よりも御ほうび

  可有事

読み方

   一つ キリシタンの法をすすむる者、これ有り

   あるひは金銀をくれ、たぶらかし候はば

   先ずこころよく受け候て、早々申し出るべし。

   公儀より其の約束の一倍御ほうび

   下さるべき御定めなり。猶、御国よりも御ほうび

   有るべき事。

解説 一 キリスト教の教義を勧める者が有り、或いは金銀(お金)をくれたり  して、だましたりしたら、先ずこころよく受けて、すぐ申し出る事。 公儀(政府・幕府)より規定の倍のご褒美下さる定めになっている。尚、御国(紀州藩)よりもご褒美が出る事になっている。

 「きりしたん」・・・キリスト教を勧誘し、お金をくれたりしてだましたりしたら、黙って受けておいて、すぐに報告する事。 「公儀」・・・幕府のこと。幕府から規定の倍のほうびを下さることになっている。 「一ばい」・・・今では単に「倍(ばい)」と言うが、キマリが10円だつたら、倍の20円をくれると言う意味。 「御国」・・・藩を指す。 江戸時代、国と言えば、自分の藩のことであり、外国に対して、日本国という概念は一般的にはまだなかった。

「里」・・・変体仮名の「り」。「すゝむる」の「す」は、「春」の変体仮名。 「連」は「れ」の変体仮名。 「候ハゝ」は前出で「そうらわば」と読む。 「受」も難読字です。 「一ばい」の「は」は「者」の変体仮名。 「ほうび」の「ほ」は、「本」の変体仮名。 「可被下」の「被」も簡単に読めないですが、「下さるべき」と言う一つの慣用句として、覚えて下さい。 「猶」も難読文字ですが、よく出ますので慣れてきます。


第二章 異国舩・その十

2011年05月21日 15時14分48秒 | 古文書の初歩

異国舩の第3ページ

 

 

前のページの続き

解読

附り 馬は跡尓残し置大庄屋の

   さしづを可相待事

一 異国舩ハいふ尓をよバ須日本舩尓ても

   ふ志ん成舩来る時ハ右之通可相心得事

読み方

   附けたり 馬は跡に残し置き、大庄屋の

   さしづを相待つべき事

 一つ 異国船は言うにおよばず、日本船にても

 不審成る船来る時は、右の通り相心得るべき事。

解説 この附けたり(附則)は前のページの条文の続きです。 馬が突然出て来ましたが、「駆け集まる時は、馬は残して置き、どうするかは大庄屋の指図を待ちなさい。」と言う意味でしょう。 「馬」という字は始めてですが、何とか形で解ります。 「跡尓残し置」は前に出ました。「相待つ」の「待」も難しい崩しです。 「可」は「べき」「べし」で命令の時に用います。 

 一つ 異国船は言うまでもなく、日本の船でも、不審な船が来た時は、右同様に心得る事。 「いふ」は現在文では「言う」と書きます。 「をよバ須゛」は「及ばず」で「須」は変体仮名の「す」です。 「ふ志ん成」は「不審なる」。 「右之」・・・右の。 「之」は古文書では、殆どこの漢字の「之」を使います。 「相心」の二文字がくっついて一字に見えますが、「相心得るべき」となります。