くろにゃんこの読書日記

マイナーな読書好きのブログ。
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きみのいもうと エマニュエル・ボーヴ

2006年11月20日 | 海外文学 その他
私はダメ男が好きである。
が、これは物語のなかだけのお話。
実際に目の前にダメ男がいたらムカつくにちがいないのだけれど。
エマニュエル・ボーヴは、そんなダメダメな男を描く、一級品の作家であると思う。
前作「ぼくのともだち」では、友達を作りたいと願いながらも、結局は独りよがりで失敗ばかりを繰り返す、そんな男でありましたが、その内面と行動を微妙なユーモアと哀しさで表現する、
静かな小説でありました。
文章から感じ取る素描画のような静けさ、そのなかに存在する小さな音、
小説から醸し出される雰囲気が私には魅力で、「きみのいもうと」もその心地よさに浸りながらあっという間に読み終わってしまいました。

「きみのいもうと」の主人公アルマンは、裕福な未亡人のツバメ。
貧乏暮らしから脱出して、今は未亡人に養ってもらっているわけだけど、
いつかは捨てられるんじゃないかと思っている。
そこにかつての友人、リュシアンが現れ、
何故だか可愛くも魅力的でもないリュシアンの妹を誘惑してしまう。
で、それがばれて女に捨てられる。
あ、終わっちゃった。
そう、これだけの話。

会話はほとんどない。
アルマンは会話が苦手らしく、相手が自分のことをどう見るか、相手は次にどんな行動をするのか、半分は妄想だったり思い込みだったりするけれど、そのことばかりを気にしている。
そういう人って結構いるんじゃないのかな。
こう言ったら相手はこう思うに違いない、
こう行動したら相手は自分のことをこう考えるに違いない。
逆に、相手がこういう発言をしたら、きっとこういうことを考えているんだ、
こう行動したなら次はこうするに違いない。
相手に良く思われたい。
相手がこう思う自分を演じなければ。
そういう気持ちは、私でも持っているし、皆も持っているはずだけど、その比重がちょっと並みより顕著なのが主人公アルマンで、リュシアンの妹にちょっかいを出すという、妹が望んでそうなことをしたばっかりに、友人もパトロンも失うということを引き起こすわけ。
でも、失ってみると案外すっきりしちゃってるっていうところがまたよろしい。

本書の解説によりますとボーヴ作品集というものがフランス本国で出版され、
その中身はありとあらゆる甲斐性なしのオンパレードで、解説者の言葉を借りるなら<手にするだけで気が滅入る>一冊なのだとか。
ダメ男好きとしましては、ぜひとも読んでみたい一冊ですね!

きみのいもうと





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