くろにゃんこの読書日記

マイナーな読書好きのブログ。
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キャッチャー・イン・ザ・ライ サリンジャー

2006年11月18日 | 海外文学 その他
何を隠そう、これが初村上春樹でございます。
翻訳モノっていうのが私らしいでしょ。
村上春樹といえば、カフカ賞を受賞されたそうでなにかと話題ですが、そのせいでしょうか、カフカの記事へのアクセス数がとても多いです。
私の記事でお役に立つかどうかはあやしいですが。

さて、ワタクシ、「ライ麦畑でつかまえて」は野崎訳で数年前に読了済み。
野崎訳のホールデンは、若い怒りを情熱的に表現していて、リズムのよい訳もあいまって、衝動的な行動が切迫感となり読者も一緒に熱くなる、そんな小説であったと記憶しています。
強烈なホールデン像が焼きついていましたので、村上訳で読めるだろうかという不安は正直ありましたし、実際、あまりの違いに途中数週間投げ出してしまいました。
同じ原文を訳しているはずなのに、この違いはいったいどこから来るのだろう。
訳文の違う翻訳を経て出版されている本は数多くありますが、
これほどの違和感を持ったのは初めてでした。
ウッドハウスのシリーズを読んだときだって、違いはあってもどちらも面白く読みました。
こうなったら、原文をあたろうではないか。
運よく我が三島図書館には「The catcher in the rye」がありましたので、
私のつたない英語力でほんの数ページだけ訳してみました。
その下手な文章を読み返して気付いたことは、これは自分だな、ということです。
話し言葉ということもあるのでしょうけれど、
それ以上に「The catcher in the rye」という小説がそうさせるのではないかと思います。
少年期から青年期への移り変わりの時期は、子供時代からの決別であり、大人になるということは、社会的なルールに沿って生きていくことを意味し、そこに反発を感じたり、慣習的な言葉の意味の無さに変だなと思ったりしたことは誰しも経験したことではないでしょうか。
そんな自分を大切にしたいと思いませんでしたか?
誰のなかにもホールデンは存在するのではないでしょうか。
2人の訳の違いは、野崎氏と村上氏のなかに存在するホールデンの違いなのだと思います。
村上氏のホールデンは、野崎氏のような激情はなく、
最近の日本の若者にありがちな無気力感を漂わせています。
私自身はその辺にイライラしたりしたんですが、
こういう若者像は多くの人に共感を呼ぶのだろうなと思います。
ホールデン像の違いはあっても小説の魅力は変わりません。
これから読もうと思っている方は、どちらのホールデンが自分に近いのか
というところで選んでみるのがいいと思います。

ホールデンは自分にしっくりくる居場所がなくてあらゆるところを転々とします。
居場所がないと思う不安、これも若者には良くあることですし、
青春小説と呼ばれるものには必ずといっていいほど出てくるモチーフでしょう。
そこに社会への適応をしていくための欺瞞や反発が加わり、
情緒不安定なナイーヴさがその過程に存在する危うさを強調させています。
病院から退院したホールデンは、その後社会に適応していくだろうと思われますが、それ以前の自分を捕まえていたい、ライ麦畑にある加工される前のライ麦のような自分を見つけて欲しい、それが「The catcher in the rye」なのだと思います。

新訳についての記事が迷跡日録でも取り上げられています。
同じような話題が同じ日にアップされたのは、本当に偶然の一致ですよ。

キャッチャー・イン・ザ・ライ
ライ麦畑でつかまえて
ライ麦畑でつかまえて [英語版] 講談社英語文庫 71




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10 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
新訳 (迷跡)
2006-11-18 16:34:29
話題がシンクロしたので、勝手に記事からリンクをはらせていただきました。ご了承のほどを。
それにしても初村上春樹が『キャッチャー・イン・ザ・ライ』なんでちょっと格好いいですね。『ライ麦畑でつかまえて』は野崎訳を高校時代に読んで内容はすっかり忘れてしまいました。『ノルウェイの森』あたりから村上春樹熱がすっかり冷めてしまったので『キャッチャー・イン・ザ・ライ』は未読。読まないでしょうね…たぶん。
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こっちもリンクさせてもらいました (くろにゃんこ)
2006-11-18 17:46:08
同じ日に同じような記事を書くなんて、ちょっとした偶然ですね。
豆と塩がビンのなかで螺旋を描くかも(笑)

この本は会社の同僚が貸してくれました。
彼女は村上フリークで、出版された本は全部持っているそうです。
村上氏の話題(カフカ賞のことや海外でのサイン会のこと)で2人で盛り上がっていたら、周囲の人々がひいていました。
次に村上春樹を読むなら「海辺のカフカ」かなぁ。
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おひさしぶりです (piaa)
2006-11-18 23:28:00
翻訳ものは訳の違いを楽しむのも面白さのひとつですよね。清水俊二と田中小実正のレイモンド・チャンドラーなんかまったくの別物でした。
これもチラッと見ただけでも野崎訳とは印象が著しく違うようですね。

それにしても最近村上春樹氏は翻訳の仕事が多いですね。
もともとこの人はブローティガンの作品の福田和子氏の訳文の文体をトレースして出てきた人だし、実は創作より翻訳の方が性に合ってるのかもしれませんね。
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わたしは (manimani)
2006-11-19 02:26:12
逆に村上訳を読んでから野崎訳を読みはじめて、途中で投げ出してます(笑)
主人公の激情がどうもしっくり来なかったので・・

で私も原著買いました(笑)こちらもちょっと読んだだけで放ってありますけど、私は村上派かなあ・・・

村上春樹、「ダンス・ダンス・ダンス」が好きですけど、あれはそれ以前の作品を読んでないと苦しいところもあるので、やっぱり「海辺のカフカ」かしら?
本当は「ねじまき鳥」をオススメしたいところですが、アクが強すぎるかも。
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piaaさま (くろにゃんこ)
2006-11-19 07:55:55
ども、お久しぶりです。
野崎訳と村上訳では、ホールデン像が違うために印象は異なりますが、どちらもサリンジャーであることに変わりはありません。
同じ本を読んでも、読者がそこから違うことを感じるように、それぞれが違うホールデンを持っている、その違いだと思います。
翻訳の違いを楽しむのも、翻訳のベールを透かしみながら著者が伝えたいものを探るのも翻訳本を読む楽しみだと思っています。

村上氏の翻訳本を読んだのはこれが始めてです。
これまで、創作を行っている人が翻訳をしている場合、その本は避けてきました。
作家の場合、どうしてもその作家らしさがその文章に大きく影響を与えるのではないかということが頭をよぎるものですから。
それは翻訳家であっても同じですけれど、作家と翻訳家ではやはり違うと思うんです。
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manimaniさま (くろにゃんこ)
2006-11-19 08:17:23
私は野崎派です(笑)

「ねじまき鳥」はそのタイトルが魅力的ですので以前から興味は持っていましたが未読です。
「海辺のカフカ」は、やはりカフカ賞を受賞しているということもありますが、ちょっと前にカフカを何冊か読んでいますので、そのつながりですね。
村上訳の「キャッチャー・イン・ザ・ライ」は多少苦しかったですが、何冊か読んでみないとその作家がどのような小説を書くか分かりませんので、「海辺のカフカ」のあとに「ねじまき鳥」を読んでみようと思います。
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興味深い感想でした (ディック)
2006-11-19 15:03:21
お久しぶりです。
ぼくは70年代に野崎孝訳にはまって読んだ口です。まだこんなに騒がれる以前からのファンでした。

今回のくろにゃんこさんの感想はとても興味深く、ふうん、そんなものか、と感心して読みました。できれば近いうちに、村上訳を読んでみたいと思いました。
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ディックさま (くろにゃんこ)
2006-11-20 07:43:21
サリンジャーは産院で「ナイン・ストーリーズ」を読んだのが初めてかな。
でも、記憶に残っていない。。。
「ライ麦」もそうとう以前から読もう読もうと思っていたのだけれど、ず~っと忘れていて、結局読んだのは村上氏の翻訳が出版された頃でした。
青春小説というのは、若い頃の自分を思い出すという作用がありますし、若い作家であるならば、今の若者の気持ちを代弁してくれるというところもありますよね。
年代を超えて支持される「ライ麦」は、昔の若者のなかに存在するライ麦を思い出させ、なおかつ今の若者にも共感を呼ぶことができる普遍性のようなものがあるのでしょう。
若者は若者なりに、年長者は年長者なりに。

翻訳物を多く読む読者にとって、翻訳は大きなウェイトをおく問題でもありますよね。
興味深いと感じていただいてありがとうございます。
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Unknown (mumble)
2006-12-08 17:45:17
東野圭吾の「手紙」のあとがきに、ライ麦畑でつかまえて、がアメリカで有害図書になったこととか、イマジンを歌えば不穏分子とか言われるようなことがあったなんて書いてありました。
 グレート・ギャッツビーを村上訳と野崎訳と交互に読んでみて、互いに補完していて、わかりやすかったですよ。で、ライ麦……とキャッチャー……を並べて読んでみようと思ってます。その前に、「偉大なるデスリフ」を読んでいるので、年内が厳しい感じです。
DVD、娘さんが見せてくれないんですか?早く見ないと、DVになっちゃうって、言ったらどうでしょう?
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有害図書指定 (くろにゃんこ)
2006-12-08 22:46:54
ああ、それはなんとなくわかります。
いわゆるスラングというんでしょうか、あまり教育上よろしくない言葉が羅列されていましたし、未成年であるホールデンがお酒を飲んだり、電車の中でタバコをふかしたり、いろいろやらかしてますからね。
イマジンで不穏分子、、、時代を感じますね。

私も2冊並べてある程度読んでいましたが、集中できないということに気がつき、途中で止めました。
お互いが補完しあうというのは、そうかもしれません。
野崎訳ではいまひとつ伝わりにくかったところが、村上訳ではわかりやすかったり、その逆もありました。

私は年内、ギリシア悲劇で終わりそうです。
年内いっぱいといえば、現在勤めている会社も年内で退社予定。
労働条件が合わなくなってきましたので。
年明けから仕事探しです。
DVって、オヤジギャグっすよ(笑)
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