くろにゃんこの読書日記

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エルサレムⅡ セルマ・ラーゲルレーヴ

2007年02月04日 | ノーベル賞作家
エルサレムⅠから続く第二部の舞台は、スウェーデンから聖都エルサレムへと移ります。
エルサレムに到着した彼らは友情と喜びを持ってゴードン派に迎え入れられ、ゴードン派の人々は、農夫たちの善良さに驚かされます。
しかし、寒い地方からやって来た彼らにエルサレムの夏は暑すぎ、
病気によって亡くなる人も多く、何度か迷いが生じることがありますが、その度にしるしがあり、
その度に強い意志をあらたにするのです。
しかし、エルサレムは「カトリックがプロテスタントを、メソヂストがクエーカーを、ルッター主義者がカルヴィン主義者を、ロシア派がアルメニア派をそしるところ。ここに嫉妬はひそみ行き、ここに霊視者は神癒の徒を疑ひ、ここに正統派は異端とたたかひ、ここに寛容は影を消し、ここに神の栄いやまさんためにひとはあらゆるはらからを憎しむ」ところであり、スウェーデンからの移住者によって数を増したゴードン派は他から憎まれ、悪質な噂を流布されることになり、いくら善き精神で生きようと、理解されることは少なく、その噂は遠くスウェーデン、アメリカまで聞き及ぶこととなります。
ゴードン派では、子供はコミュニティの学校へ通い、人々は清潔できちんとした身なりをし、ホームに訪れるものは拒まずもてなし、病気のものには宗派も宗教も越えて手を差し伸べてきましたが、このことが誤解を生み、また和合の精神を重んじるあまり、結婚を禁ずる(特別なものへの愛情より、全てのものを愛することを重要視した)こと、生産労働を認めない(仕事をして報酬を得ることを良しとしない)ことが拍車をかけます。
生産労働なしで、裕福な夫人の財産のみで暮らしているわけですが、
これは終末思想も手伝っていたと思われます。

そんな折、スウェーデンからイングマル・イングマルソンがエルサレムへとやってきます。
イングマルはパルブロとの結婚生活が上手くいっておらず、
パルブロの父が亡くなったことで、パルブロから別れを切り出されます。
パルブロはイングマルソン屋敷とイングマルを愛するようになってはいましたが、結果的にエルトルードをイングマルから奪ってしまったこと、自分が健康な男児を産めないことを悔やんでいました。
私のためにもエルサレムへと行ってくださいというパルブロのために、精神のバランスを崩しているエルトルードのためにも、エルサレムへと向かうことに決意したイングマルでしたが、実はイングマルもパルブロを愛し始めていたのです。
コミュニティに敬意をもって迎え入れられ(なんといってもイングマルソン家の旦那さまですから!)エルサレムの暮らしに馴染み、客人として生活を共にする間に、彼はコミュニティの問題に直面せざるおえません。
彼は、忍耐強く機会をとらえ、労働する正当性を身をもって示します。
労働を始めた農民は生き生きとし始め、やがてコミュニティへの悪意も軽減されるでことでしょう。
イングマルは、あるとき、ユダヤ人とキリスト教の間での墓争いに巻き込まれ、
片目を失う大怪我を負います。
イングマルは互いに死者を拒否して墓を掘り返し、死者の平安を乱すことに我慢がならなかったのです。
その傷がもとで、イングマルは帰国を余儀なくされますが、人々はイングマルがエルサレムに来た目的を知っていたので、エルトルードにそれとなく説得にやってきます。
決心のつきかねていたエルトルードでしたが、オリーヴ山でのしるしにより、
彼女は帰国を決意します。
が、彼女の心は、コミュニティで辛いときを共に乗り越え、見守ってくれたガブリエルにあるのです。
ガブリエルもエルトルードを想っていましたが、コミュニティでの結婚は許されていません。
イングマルの帰国に伴って、ガブリエルも帰国する決意を固めます。
ミセス・ゴードンは一部始終を聞き、コミュニティ内での結婚の必要性を考え始めます。
2人がコミュニティに戻ることはあるのでしょうか?
イングマルのように、どこにいても神の道を行くことができると知っているのに。

第2部では、エルサレムの姿を写実的に、エルサレムへとやって来たスウェーデン人の苦悩やそのなかでも強い意志で<和合>の精神のもとで生きている姿を描いています。
彼らのエルサレムへの出発は、理解しがたいものがありましたが、こうして気高い<和合>の精神を知り、それに則って気高く生きる人々をみることで、彼らの行動にも理があることを示し、それと同時にエルサレム以外で、普通に生活をするなかでも神の道を歩むこともできることを示しています。
また、誤解され、孤立することがあっても、良き精神で生きていれば、いつかは理解されるときが来る、一度過ちをしてしまっても、それをただそうと努力すれば道は開ける、そういう信念がこの物語からは伝わってきます。
なんと善の道は厳しいことか!
ラーゲルエーヴはこれらを物語で語っていて、記事で細かくストーリィを紹介しているように思われるかもしれませんが、実際はほんの一部です。
ラーゲルレーヴがつむぎだす物語は、とても私ごときが説明しきれるものではなく、実際に読んでいただくのがいちばんだと思います。

さて、岩波文庫「エルサレム第2部」では、「神の平和」という短篇が付録として所収されています。
これは1901年に出版された「エルサレム」以前、1894年の短編集「見えざるきずな」のものですが、主人公はイングマル・イングマルソンです。
「エルサレム」のイングマルではなく曾祖父なのですが、「エルサレム」のなかでも象徴的な役割を持つ、大きな聖書にまつわる物語です。
一風変わったイングマルソン家は、ここからきていたのですね。

イングマルソン家の人びと〈エルサレム 1〉
エルサレム (第2部)




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2 コメント

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こんにちわ (syuu)
2007-02-04 15:37:15
はじめまして。くろにゃんこさん。SYUUといいます。
ブログ読ませていただきました。(*^_^*)
丁寧な作品解説におもわずエルサレムⅡの本を本当に読んでいる気分になりました。(~o~)
僕も小説や本が好きなのですが、じつはいま「放課後としょかんドットコム。」という、「本が好きな人の、本が好きな人による、本が好きな人のためのサイト」を作ろうとしています(~o~)
サイトは、本が好きな人のための意見・感想・情報交換サイトにしたいと思っています。
そこで、もしよれば、くろにゃんこさんのブログ内容をすこし掲載させていただけないでしょうか??
まったくの個人サイトなので著作権費用等はありませんが、くろにゃんこさんのブログの内容で一緒に当サイトをもっと魅力的なものにできればイイナァと思っています。
もしブログ内容の掲載を許可していただけるのなら、
このコメントに返信をいただくか、
その旨をメールにて教えていただけないでしょうか?
お手数ですがよろしく是非ともよろしくお願いいたします。では、よいお返事をお待ちしています。
(ご質問等もお受けいたします。乱筆をご容赦ください)
メールアドレス:sm1221@mail.goo.ne.jp

ちなみに下記アドレスにテスト版ですが、「放課後としょかんドットコム。」があります。
3月には運営を開始したいと思っています。
http://mediamix.nm.land.to/town/
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どうぞ、どうぞ (くろにゃんこ)
2007-02-05 09:06:27
私のブログに掲載される記事は、ほとんどと言っていいぐらいマイナーで、話題作となると数えるほどしかないのですけれど、それでもよろしければ、どうぞお使いになってください。
最近では、読書というカテゴリーでコミュニティサイトを立ち上げられる方がいらっしゃって、活動的だなぁと感心してしまいます。
3月からの新サイト、楽しみにしていますね。
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