くろにゃんこの読書日記

マイナーな読書好きのブログ。
出版社など詳しく知りたい方は、記事下の書名をクリックするとamazonに行けます。

シグリ・ウンセット

2007年08月10日 | ノーベル賞作家
世界女流作家全集北欧編に所収されていたシグリ・ウンセットは
「こっくり人形」と「生死を共に」の2編でした。
「こっくり人形」は、フランスの一家族についてのごくつつましい短篇ですが、読者である自分が、いつしか作品中の「私」になっている感覚、平たく言えば共感するということですが、その感覚があまりにもスムーズに、自然になされてしまって本当に驚きました。
「生死を共に」は、いわゆるサガを題材にしたもので、ウンセットの作家活動の特色をなしているものではありますが、とにかく「こっくり人形」に衝撃を受けてしまっていたのと、サガはあまりよく知らないということもあって、面白いとは思いましたが、いまひとつ感銘は受けませんでした。
もっと、ウンセットを読みたいと思って、図書館から借りた本は2冊。
よく2冊もあったなぁというのが正直なところです。
ノーベル文学賞を授与されているということでしたから、ノーベル文学賞全集は見つかるだろうとは予想していましたが、新ちくま文学の森というちくま文学の森に続くアンソロジーシリーズのなかのひとつ「こどもの風景」に短篇があったのは、ラッキーとしかいいようがありません。

ちくま文学の森「こどもの風景」にあるのは「少女」という短篇です。
女の子の友達関係というのは難しいもので、ちょっとしたことが原因で疎遠になってしまうというのはよくあることです。
そんな男子には分からない摩訶不思議な女の子の微妙な関係が描かれているのですが、それだけではなく、中産階級の決して豊かではない子供たちの楽しみについて、だれそれの玄関先は石蹴りに最適とか、地下室は迷路だとか、あそこの家には可愛い犬がいる等々、昔、自分もそうやって子供の遊び場ではないところ、なんでもない場所で、楽しみを何かしら見つけて遊んでいたっけなぁと、懐かしい記憶の片隅をチクチクと刺激される思いでした。
また、本文中に女の子のひとりが、白樺の若芽が小さくて、太陽に向かって見るとその葉はほとんど見えなくて、まるで日光のなかの焔のように淡く透き通っているけれど、木を通り過ぎて振り返って見ると、木に黄緑色のヴェールがかかっているように見えることを学校の行き帰りに眺めては感激しているんですが、皆さんはこういう小さな感激をされた経験があるでしょうか?
私の人形劇サークルの仲間で、個人的に文庫(小さな図書館みたいなもの)を
開いている人がいるんですが、そこに来た小学生に感動したいから感動する本を紹介して欲しいと言われたのだそうです。
それはちょっと違うよねぇというのが大方の反応で、私もそう思うんですが、もしかしたら、その小学生は感動することに鈍感なんじゃないかなと思いました。
「少女」の女の子のように、自然のなかに小さな感激を覚えることがあまりないんじゃないか、なんでもない場所に楽しみを見つけることがないんじゃないかと。
そうだとしたら、寂しいですね。

「こども風景」にウンセットのほかにも多くの作家が名を連ねていまして、拾い読みしたジョイス「対応」は、やはり分かりませんでした。
いつになったらジョイスが読めることやら。
中1の娘が拾い読みして、「母さん、これ凄いね」と言ったのは夢野久作「人の顔」。
感想は「グロい」。
おお~っ、直球。
しばらくして、「母さん、これも凄い」と言ったのはソログープ「子羊」。
どれどれと読んでみて、あ~、これは、ちょっと、なんだね、失敗したね。
読ませるんじゃなかったと後悔。
キリストの血の購いを理解できないと、残酷な話というだけになっちゃう。
まずった。

ノーベル文学賞全集にあるのは「ヴィガ・ユートとヴィグディス」で、これも「生死を共に」と同じくサガを題材にしたものです。
サガというのは古代北欧の叙事史で、それに題材をとっているのですが、単に書き直しをしているというのではなくて、その題材に潜む物語性を引き出し、登場人物に人間性を与えています。
伝承文学を読んでいると人物の行動が突拍子もなくて「何でこうなる?」と
思ってしまうことがありますよね。
そこに感情を与えるには、深い洞察力がなければできることではありません。
「ヴィガ・ユートとヴィクディス」では、ユートの無鉄砲な愛に対するヴィグディスの憎しみが愛と隣り合わせにあることを描いていて、しかも、ヴィグディスの愛も憎しみも理解できるので、悲劇的な結末が起こらなければいいのにと願わずにはいられませんでした。
ヴィグディスがユートとの子供に抱く複雑な愛情や、ヴィグディスに拒否されたユートと結婚したレイクニィの気持ちもわかるし、こういう細やかさは女性作家ならではなのでしょうし、女性が読者であるなら尚更なのでしょう。
もっとウンセットが読みたいと思いましたが、邦訳ではこれ以上手に入りそうもありません。
ノルウェー語を勉強しようかしらと突拍子もないことを考えています。

ノーベル賞文学全集〈5〉グラツィア・デレッダ.シグリ・ウンセット.シンクレア・ルイス (1972年)
こどもの風景




最新の画像もっと見る

1 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
ウンセットの邦訳 (isogai_1)
2011-08-22 23:49:59
はじめまして。中央公論の世界の文学22にウンセットが入っています。「花嫁の冠」というのが収録されています。 http://www.amazon.co.jp/dp/B000JB4PX8
返信する