徒然日記

街の小児科医のつれづれ日記です。

インフルエンザ情報2019:2-2インフルエンザと麻黄湯

2019年09月22日 15時33分23秒 | 小児科診療
 私は小児科医ですが、診療に漢方を多用しています(約3割の患者さんに処方)。
 インフルエンザに適応のある漢方薬は3つ(麻黄湯、柴胡桂枝湯、竹茹温胆湯)あり、その代表である麻黄湯の記事を見つけたので紹介します。

 麻黄湯の証(=適応)は「悪寒、発熱、頭痛、腰痛があり発汗がない人」で、インフルエンザ急性期の「熱はあるが比較的元気で汗がまだ出ておらず、水分が摂取可能な状態」です。ですから、インフルエンザと診断されてもこれを満たさない場合(悪寒がなく熱っぽいだけ、発汗多量、ぐったりしている、嘔気がある)の場合は使ってはいけません。
 「インフルエンザの適応があるのに使っていけないのはなぜ?」
 という疑問が湧いてきますね・・・下記の記事の中に回答がありました;

「ノイラミニダーゼ阻害薬やバロキサビルマルボキシル(ゾフルーザ)など、抗インフルエンザ薬の治療対象はインフルエンザウイルスという“実体”である」
「漢方薬はインフルエンザ症状という”現象”に対する治療であり、その治療対象はインフルエンザウイルスではない」

 ですから、「悪寒、発熱、頭痛、腰痛があり発汗がない人」なら、インフルエンザが陰性でも効くのです。

インフルエンザに対する漢方薬の効果は?
2019/2/12:日経DI
・・・医療用として用いられている麻黄湯は、キョウニン、マオウ、ケイヒ、カンゾウから構成される漢方薬であり、インフルエンザ感染初期の症状緩和に保険適用を有する。麻黄湯には基礎的研究において抗ウイルス作用が示唆されており5,6)、インフルエンザ治療における有望な選択肢となる可能性を秘めている。
 PubMed、J-STAGEおよびGoogleを用いて、インフルエンザ症状に対する麻黄湯の有効性を検討した臨床試験を検索したところ、5つの研究が見付かった。その概要を表1にまとめた。


表1 インフルエンザ感染症に対する麻黄湯の有効性を検討した臨床試験

 小児を対象に発熱に対する有効性を検討した2研究では、オセルタミビルリン酸塩(商品名タミフル他)と比較して、いずれも発熱持続時間が有意に短縮していた。また、成人を対象に発熱に対する有効性を検討した3研究中2研究では、オセルタミビルと統計学的な有意差は認めなかった。他方、1件の非盲検化ランダム化比較試験では、発熱期間中央値がオセルタミビルと比較して麻黄湯で17時間ほど短いことが示されている。
 しかしながら、上気道症状に対する有効性を検討した研究は、小児、成人いずれにおいても報告されていなかった。
 麻黄湯が対照群と比較して優れた解熱効果を示した研究も存在するが、いずれも小規模の非盲検試験であり、また対照群はプラセボ比較ではなく、全てノイラミニダーゼ阻害薬である。麻黄湯そのものの厳密な効能(efficacy)を、これらの研究結果から評価することは困難であろう。
 とはいえ、ノイラミニダーゼ阻害薬と比較して有効性(effectiveness)に有意な差を認めないということは、これらの抗ウイルス薬と麻黄湯がほぼ同等の効果を持つとも考えられる。また、インフルエンザ感染症に対するアセトアミノフェン(カロナール他)の効果は限定的であり、早期に解熱を期待するのであれば、麻黄湯は有望な治療薬となり得るかもしれない。

・・・漢方薬の適正使用において、しばしば指摘されるのが「証」の考慮である。例えば麻黄湯は、全てのインフルエンザ患者に用いられるべきではなく、悪寒、発熱、頭痛、腰痛があり発汗がない人に限られるというわけだ。
 日本東洋医学会の「インフルエンザに対する麻黄湯使用上の注意」でも、「麻黄湯の主薬である麻黄にはエフェドリン類が含まれており、交感神経刺激作用がありますので、その薬理作用を十分に承知の上、証に随って適性に使用してください」と記載されている。もちろん、エフェドリンによる薬物有害事象には注意が必要であるが、証に随った適切な漢方処方によって臨床的にどのような影響があるのか、ほとんど検証されていないのが現状である。

・・・ ノイラミニダーゼ阻害薬やバロキサビルマルボキシル(ゾフルーザ)など、抗インフルエンザ薬の治療対象はインフルエンザウイルスという“実体”である。故に迅速診断キットによって、インフルエンザウイルスに感染しているか否か、白黒をつける必要性に駆られるわけだ。
 しかし、漢方薬はインフルエンザ症状という”現象”に対する治療であり、その治療対象はインフルエンザウイルスではない。もちろん、基礎的研究において抗ウイルス作用が示唆されている生薬成分もあろうが、それが臨床症状の改善をもたらすかどうかについての因果は証明されていない。
 そして、“現象”に対する治療であれば、インフルエンザウイスルが存在するかどうかはどうでもよい問題である。このどうでもよさが、「白黒つけろ」、という半ば強迫じみた心情から医療者や患者を解放し、必要性の低い検査や不適切な抗ウイルス薬投与を減らす可能性があるのではないかと思う。



 次の記事は麻黄湯の論文を集めて解析した内容です。
 ノイラミニダーゼ阻害薬と同等の効果があるという報告が多い一方で、「証」を導入した大規模な比較研究はほとんどみられず、臨床研究としての質は低い点を指摘しています。
 それでもコストや診断の煩雑さを考慮すると、麻黄湯単独で処方する選択肢もあり得る、との結論。


「麻黄湯」2019年こそのメタ解析?!を読む
2019年5月9日:m3.com)福家良太(東北医科薬科大学病院)
・・・麻黄湯には、ウイルス感染に対する濃度依存性の抑制効果として桂皮が、サイトカインの産生抑制の効果として桂皮と麻黄が、免疫賦活作用として杏仁と甘草が含まれており、特に感冒やインフルエンザ急性期の使用に向いている。

・・・今回紹介する論文は、インフルエンザに対する「麻黄湯とNAIsの併用 vs. NAIs単独」あるいは「麻黄湯単独 vs. NAIs単独」を比較した臨床研究のシステマティックレビューおよびメタ解析です。主要評価項目(有効性)は投薬開始からインフルエンザ症状(発熱、頭痛、倦怠感、筋肉痛、悪寒)の改善までの期間とウイルス検出期間、副次評価項目(安全性)は(1)悪心、異常行動、症状による治療中断といった、副作用または有害事象、(2)有病率(インフルエンザ感染による合併症)または死亡率、(3)あらゆる理由での入院――としています。
 文献検索の結果、2つのランダム化比較試験(RCT)を含む12の研究がメタ解析に組み入れられました。なお、麻黄湯とプラセボを比較したRCTはありませんでした。また、ほとんどの研究で、使用された麻黄湯は日本のツムラのものでした。

・・・このシステマティックレビューの結果を簡単にまとめると、以下の通りです。
(1) NAIsに麻黄湯を併用することで発熱期間が短縮した(異質性は低い)
(2) 麻黄湯単独とNAIs単独の比較ではあらゆるアウトカムに差はない
(3) 全体としてエビデンスの質は低い
 全て日本からの報告であり、本邦での実臨床に適用はできる結果ではありますが、やはりより大きな質の高いRCTがほしいところです。現時点では小規模RCTが2つのみですが、こちらの結果に触れておきます。
 一つはKuboら(Phytomedicine 2007; 14: 96-101)の報告で、オセルタミビル群、オセルタミビル+麻黄湯併用群、麻黄湯単独群の3群を比較した60例の非盲検単施設RCTです。患者の平均年齢は約5歳、発熱から投薬までの時間は11時間程度、インフルエンザワクチン接種患者はほとんどいなかった、という患者集団です。オセルタミビル群と比較して、麻黄湯併用群(中央値差9時間)、麻黄湯単独群(中央値差6時間)のいずれも投薬後の発熱期間を有意に短縮した、という結果になっています。呼吸器症状改善までの期間には差を認めていません。
 もう一つはNabeshimaら(J Infect Chemother 2012; 18: 534-543)の報告で、麻黄湯群、オセルタミビル群、ザナミビル群の3群を比較した41例の非盲検単施設RCTです。平均年齢は28.7歳(全員が20歳以上)、発症から研究登録までの期間は1日程度、全体の半数近くがインフルエンザワクチンを接種、という患者集団でした。発熱期間は麻黄湯群(29時間)がオセルタミビル群(46時間)よりも有意に短いものの、ザナミビル群(27時間)とは有意差は見られませんでした。また、全症状改善までの期間には3群間で有意差は見られませんでした(83時間 vs. 87時間 vs. 94時間)。
 これらを見ても分かる通り、少なくとも麻黄湯はオセルタミビルより発熱期間が短縮する可能性はありそうですが、他のNAIsやバロキサビルとの比較に関しては現時点では不明です。

・・・麻黄湯を処方するなら、単独で使用するかNAIsに併用するかですが、今回のメタ解析結果を見るに、併用する方がメリットはあるかもしれません。ただ、効果量からしてそのメリットは微々たるものとも言えます。また、3000円以上するNAIsに比して麻黄湯は1日当たり173円と非常に安価で、その効果効能から5日間も内服しません。麻黄湯の作用機序から、ウイルスに対する直接作用ではなく、われわれの免疫に作用することから耐性ウイルスの懸念もありません。副作用リスクも当然、NAIsに併用するより麻黄湯単剤の方が低くなります。これらのことから、総合的には麻黄湯単独がよいと考えます。

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