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徒然日記

街の小児科医のつれづれ日記です。

その後のHPVワクチンの評価(2014年10月現在)

2014年10月05日 06時18分16秒 | 小児科診療
HPVワクチン副反応報告は過大評価か過小評価か
[MTPro:2014年10月2日(VOL.47 NO.40) p.01]
 昨年(2013年)6月,厚生労働省はヒトパピローマウイルス(HPV)ワクチンの積極的な接種勧奨を中止した。接種部位以外に広範な疼痛を生じた症例が多数報告されたためで,適正な情報提供ができるまでの措置だが,いまだに積極的推奨は再開されていない。その是非をめぐり各方面で議論が巻き起こっている。
 第33回日本思春期学会総会・学術集会では,筑波大学産科婦人科学准教授の松本光司氏が厚労省のHPVワクチン副反応報告には自然発症例が紛れ込んでいる可能性があるとし,積極的接種勧奨の再開を主張した。
 一方,日本線維筋痛症学会は,副反応報告は過小評価の可能性があるとし,適正評価のために「HPVワクチン関連神経免疫異常症候群(Human papillomavirus vaccination associated with neuropathic syndrome;HANS)」を提唱,診断予備基準案を発表した。


 未だに積極的勧奨停止が解除されないHPVワクチン。
 最近、医学学会では「アジュバントが病的状態を作り出している」という批判と「紛れ込み事故が否定できない」という肯定意見とが出されて昏迷の度を深め、出口が見えてきません。
 私の印象では「副反応とされる症状の発生頻度をHPVワクチンを接種した人達と接種していない人達を比較すると差が無いことから、ワクチンが原因ではないと判定」という統計学的手法を用いた松本先生の意見の方が科学的であり受け入れやすいと思います。

日本線維筋痛症学会 HANSの診断予備基準案を作成
[MTPro:2014年10月2日(VOL.47 NO.40) p.07]
 ヒトパピローマウイルス(HPV)ワクチン接種例の副反応報告に対し,日本線維筋痛症学会(理事長=東京医科大学医学総合研究所所長・西岡久寿樹氏)は,第6回学術集会(9月13~14日)で記者会見を開催。厚生労働省副反応検討部会が接種部位以外の広範囲疼痛および運動障害のみを重篤症例と発表していることを問題視し,重篤症状では中枢神経症状が群を抜いて多く過小評価の可能性を指摘。副反応の適正評価のために「HPVワクチン関連神経免疫異常症候群(Human papillomavirus vaccination associated with neuropathic syndrome;HANS)」を提唱,診断予備基準案を発表した(表)。



□ 急性型と遅延型が存在か,過小評価の可能性
 西岡氏によると,2009年12月~14年3月末に厚労省に副反応症状が報告された2,500例のうち「重篤症状あり」は1,231例。しかし,同省はそのうち接種部位以外の広範な疼痛および運動障害症状がある489例のみに評価を行い,176例を「重篤」,すなわち機能性身体障害と位置付けたという。
 これに対し,同学会と一般財団法人難病治療研究振興財団が合同で立ち上げたHPVワクチン副反応病態究明チーム(代表理事・チームリーダーは同氏)の調べでは,2,500例のうち「重篤症状あり」は1,112例で,報告された副反応症状7,676件のうち中枢神経症状が2,570件(高次脳機能障害,痙攣,意識レベル低下,ギラン・バレー症候群を含む),重篤な症状4,649件では同1,382件と最も多かった。
 また,同チームの自験44例,症状376件を病態解析した結果,中枢神経障害88件,広範囲疼痛71件,メンタル障害68件,慢性疲労症候群52件,自律神経障害30件など臨床症状は50種類以上に及んだ。発症年齢は15~26歳が33例,14歳以下が11例と若年層が多くを占めていた。
 さらに,HPVワクチン第1回接種から症状発現までの期間は,接種後30日以内が44例中12例を占めたが,平均期間は8.5カ月±12.1カ月で,急性型と遅延型が存在することが示唆された。脳SPECT画像診断の結果では多くの症例で脳血流低下が見られ,主に後頭葉における血流低下が認められたという。

□ アジュバント誘発性の脳内免疫異常症候群の1つか
 西岡氏は厚労省評価について以下を問題点としてまとめ,HPVワクチン接種に伴い,中枢神経や免疫で異常が起きる可能性を指摘した。

 ①厚労省は重篤症例の評価に当たり,重篤症状あり1,231例から「接種部位以外の広範な疼痛および運動障害」以外の有症状者742例を除外したが,中枢神経症状が群を抜いて多い
 ②感覚器障害やメンタル障害,自律神経障害といった副反応が少なくないが検討していない
 ③接種部位以外の広範な疼痛と運動障害で,既知疾患と診断できないものを機能性身体障害とした
 ④自験例から急性型および遅延型の症例,多様な症状が分かった

 同学会は,厚労省にHPVワクチンとの正確な因果関係を解明するために接種者全員の追跡調査を行うことを強く要請。さらに,HPVワクチン接種後の免疫応答を高めるアジュバントにより誘発される脳内免疫異常の症候群として提唱されているAutoimmune Syndrome Induced by Adjuvants(ASIA)の1つにHANSを位置付け(図),診断予備基準案を厚労省線維筋痛症研究班代表研究者の松本美富士氏(東京医科大学客員教授)らと共同で作成した。


HPVワクチン副反応報告を解析~自然発症の紛れ込みを否定できず
[MTPro:2014年10月2日(VOL.47 NO.40) p.07]
第33回日本思春期学会総会・学術集会
 筑波大学産科婦人科学准教授の松本光司氏は今年(2014年)7月までの厚労省発表のヒトパピローマウイルス(HPV)ワクチン副反応報告を解析し,「接種後の広範な疼痛や運動障害の報告例の中には複合性局所疼痛症候群(CRPS)や急性散在性脳脊髄炎(ADEM)などの自然発症が紛れ込んでいる可能性がある。患者サポート体制の整備も進みつつあり,HPVワクチンの積極的接種勧奨を再開すべきではないか」と,第33回日本思春期学会総会・学術集会(8月30~31日,会長=筑波大学産業精神医学・宇宙医学教授・松崎一葉氏)で主張した。
□ 自然発症より低い発現率
 昨年6月の厚労省による積極的な接種勧奨の中止を受け,HPVワクチン出荷数量はそれまでの平均の約24分の1に激減。事実上,同ワクチン接種はストップしている状況である。問題となっているのは接種後の感覚麻痺,四肢痛,接種部位以外の疼痛,運動障害であり,CRPS,線維筋痛症(FMS),ADEM,ギラン・バレー症候群(GBS),転換性障害などの病態が生じていると考えられている。
 そこで,松本氏は第6回および第10回厚労省ワクチン副反応検討部会(2013年12月,2014年7月)で公表されたデータ(以下,厚労省データ)を解析し,各病態の自然発症率との比較を試みた。まず,厚労省データから広範な疼痛・運動障害症例のみを抽出。医師評価されている176例(疼痛群127例,運動障害群49例)について検討した。
 疼痛群についてはCRPSが17例(0.2/10万回),CRPSと確定できないが広範な疼痛を接種後4週間以内に訴えている症例を含めると81例(0.9/10万回)であった。これに対し10歳代女性におけるCRPS自然発症率はオランダのデータで14.9/10万人年(Pain 2007; 129: 12-20)。ちなみに厚労省データにおける発症率はカナダで検討されたB型肝炎ワクチン接種後の女児における発症率0.8/10万回(J Pediatr 2003; 143: 802-804)と同等で,CRPSは献血後にもごくまれに生じることから,ワクチンの成分は問題ではないと考えられた。
 FMSと診断されたのは厚労省データでは4例(0.004/10万回)で,広範な疼痛を全て含めても1.4/10万回。わが国の10歳代女性のFMS発症率1,760/10万人年(2009年日本線維筋痛症学会診療ネットワーク患者調査)を踏まえると,厚労省データに自然発症の紛れ込みがあっても不思議ではない。
 次に運動障害群49例について検討すると,厚労省データではADEM 5例(0.05/10万回),GBS 14例(0.15/10万回)が報告されており,ムンプスワクチンや水痘ワクチンの接種後と差はない。接種後におけるADEMとGBSの発現頻度を合計しても0.2/10万回であり,自然発症率である0.86/10万人年(ADEM 0.4/10万人年,GBS 0.46/10万人年)より低い。転換性障害(類似疾患を含む)は厚労省データの7例(0.07/10万回)に対し,10~15歳女子の推定罹患率は7.1/10万人年(J Am Acad Child Adolesc Psychiatry 2007; 46: 68-75)で,ここでも自然発症の紛れ込みの可能性を払拭できそうにない。

□ 「接種後の発生」≠「接種が原因」
 さらに,中和抗体価および有害事象発生率が大きく異なるとされる2価ワクチンと4価ワクチンで,広範な疼痛,運動障害の発生頻度に差が見られなかったことも,ワクチン成分が原因ではない可能性を示唆している。
 10万人の思春期女性がHPVワクチンの3回接種を受けた場合,接種後に広範な疼痛・運動障害(接種後4週間以内に発現,3カ月以上持続)が1.8人で起こると推定されるが,松本氏は「接種後の副反応への対応と診療体制の構築が進展しつつある今,ワクチンによる子宮頸がん発症予防効果(34歳までに10万人当たり約50人で浸潤がんを,約30人で上皮内がんを予防)を踏まえ,厚労省には積極的接種勧奨の再開を期待したい。ワクチン接種後に発生したものとワクチンによって引き起こされたものは同じではない」と強調した。

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