徒然日記

街の小児科医のつれづれ日記です。

子どもへの新型コロナワクチンが「接種勧奨」から「努力義務」へ(2022年10月)

2022年10月08日 06時20分11秒 | 小児科診療
2022年8月に子どもへの新型コロナワクチンが制度上、
「接種勧奨」→「努力義務」
に変更されました。
わかりにくいお役所言葉ですが、どういうことなのか考えてみましょう。

接種勧奨」とは、文字通り「接種をお勧めする」という意味です。
「このワクチンは有効で安全であることを保障します、お勧めですよ」
という感じ。

努力義務」は、
「現在の状況を考えると、
 個人を守る・社会を守るという視点から
 このワクチンを接種することが必要です、
 接種を積極的に検討してください」
と、一歩踏み込んだレベル。
しかしあくまでも「努力義務」であり、義務・強制ではありません。

微妙なニュアンスの違いです。

厚労省の「新型コロナワクチンQ&A」の以下の事項もお読みください。

Q. なぜ小児(5~11歳)の接種に「努力義務」が適用されるようになったのですか。

A. 小児の接種について、オミクロン株流行下での一定の科学的知見が得られたことから、
小児についても努力義務の規定を適用することが妥当であるとされました。
ただし、接種は強制ではなく、ご本人や保護者の判断に基づいて受けていただくことに変わりはありません。

<初回(1回目・2回目)接種に関するエビデンス>
  • 発症予防効果は中等度の有効性、入院予防効果は接種後2か月間で約80%の有効性が報告されている(※1)
  • 米国の大規模データベースによる解析で、安全性に関する懸念はないと報告され(※2)、日本での副反応疑い報告の状況からも、ワクチンの接種体制に影響を与えるほどの重大な懸念はないとされている
<3回目接種に関するエビデンス>
  • 時間の経過とともに低下した感染予防効果が3回目接種により回復することが、近接した年齢層(12~15歳)で確認され(※3)、日本において薬事承認されている
  • 3回目接種による局所及び全身反応について、その頻度は、2回目接種と比較して有意な差がなかったことが海外で報告され(※4)、日本の薬事審査でも、そのほとんどが軽症又は中等症であり大きな懸念はないとされている

厚労省は必要性より効果と安全性を強調していますね。
医師としての私の視点からは、
安全性は既に問題ないことがわかっていたので、
あとは社会が受け入れるタイミングを計ったという印象です。

では「努力義務」に変更された現時点で、
子どもへの接種をどう考えるべきか?

私の意見は「Go!」です。

ワクチンは病原体(この場合はウイルス)の一部を取り出して、
体をだまして症状なしに免疫だけつけるという高度な医療技術です。
つまり、ウイルスそのもの全部が体に入るより、
体の反応・ダメージは低く抑えられるのが基本です。

実際にウイルスに感染すると、症状が出て後遺症も心配になります。
ワクチンも接種後の副反応やワクチン後遺症が話題になりますが、
実際の感染と比較すると、
・感染症状 → 接種後副反応
・感染後遺症→ ワクチン後遺症
となり、実際の感染の方がハイリスクであることは明らかです。

今回の新型コロナワクチンは接種後の発熱・全身倦怠感などが問題視されていますが、
これはワクチンを強力に作りすぎたためです。
何しろパンデミック当初はどれだけ危険なウイルスかわからなかったため、
人類を救うために強力なワクチンが必要と判断され作成されました。
なんと常識を覆して、接種後の抗体価は自然感染より上がるのです。

そのため、小児用ワクチンは成人用より抗原量を減らしました。
5~11歳用では1/3へ、6か月~4歳用では1/10へ。
そして副反応としての発熱は成人用より少なく抑えられ、
有効性&安全性のバランスが取れたワクチンになりました。

有効性・安全性のほかに「必要性」も考えねばなりません。

Q.子どもは自然感染しても軽く済むことが多いと聞こえてくるけど、
接種する必要があるんですか?

という素朴な疑問ですね。私の答えは、

A. 
・ワクチンを1回接種することは、1回感染することと同じと考えてください。
・子ども本人は感染しても軽く済むため「感染すると重症化して心配」という視点では必ずしも必要ではありません。
・でもワクチン接種後はふつうに生活できますが、自然感染の際は隔離が必要になり、家族に広げること(家庭内感染)が必発で、一家全滅すると生活が大変、高齢者が同居している場合は命の危険・・・と周囲・社会への影響・負担が大きく、どちらがいいかよく考えてみてください。

つまり「情報提供」と「選択」です。
言葉の微妙な違いを考えるより、自分の置かれた状況について考え、
状況を把握してどちらを選択するか、家族でよく話し合ってください。

こちらの記事も参考になります。

 子どもの新型コロナワクチン接種が「推奨」から「努力義務」へ 困惑の声「親も子も周りから白い目で見られることになるんじゃないか」
 子どもに対する新型コロナワクチン接種が「推奨」から「努力義務」に変わることに伴い、各所から困惑の声が上がっている。 
◇「努力義務」この言葉をみなさんは正しく理解していますか?
 5歳から11歳への新型コロナウイルスのワクチン接種について、オミクロン株に対する有効性などの科学的知見が十分示されたとして、厚労省の分科会では8月8日に「努力義務」とすることが了承された。 
・・・
 厚生労働省のホームページの説明では「『接種を受けるよう努めなければならない』という予防接種法の規定のことで、義務とは異なります」と掲載されている。難しい説明だが、厚労省は「接種は強制ではなく、あくまで本人が納得したうえで判断してください」とも補足している。 
 長崎大学病院 小児科・森内浩幸教授は「できるだけ接種してくださいということを、文字通り『接種することを努力してください』と保護者の方にも呼びかけるということになる。決して強制力を持つわけではないが、言葉の響きとしては“かなり強いもの”になります。有効性のデータがでてきたことと、安全性についての治験も積み重なってきたということを踏まえて、今回はより強い推奨になったとは思う」と述べた。そのうえで、接種の意義については「重症化を防ぐという点では、十分に期待することのできるワクチンであり、メリットの方がほとんどの子どもさんにとっては大きいということを、かかりつけの先生にきちんと確認をしていただきながら、どうするかを決めていただきたい」と対策案を出している。
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