徒然日記

街の小児科医のつれづれ日記です。

効いたよね、早めの○○○○!

2016年11月06日 06時10分11秒 | 小児科診療
 もはや定番化した、テレビのCMで流れてくるフレーズです。
 小児外科医が「風邪に有効な薬はほとんどない」と一刀両断されている記事を見つけましたので紹介します。
 お子さんが医院を受診し、もらった薬の名前があるでしょうか?

■ 効いたよね、早めの風邪薬?
2016.7.4:読売新聞)より一部抜粋
 風邪とはのど・鼻の粘膜にウイルスが炎症を起こしているのですから、風邪を治すためにはウイルスを殺す必要があります。ですが残念ながらそういう薬は存在しません。人類は風邪ウイルスを退治できないのです。風邪がひどくならないうちにクリニックを受診すれば、早く風邪が治ると思っている人が多いでしょう。これはウソです。
 朝、鼻水とくしゃみが少々出てクリニックに行くとします。しかしこの段階で医者にできることはほとんどありません。翌日には咳が出るかもしれません。そうすると、咳止めの薬が必要になる。さらに翌日には発熱するかもしれません。そうすると今度は解熱剤が必要になるかもしれません。いったい、何度受診すればいいのでしょう?
 結局、風邪薬を飲んでも、その時点で風邪の進行がピタリと止まり、風邪が治癒するということはありません。風邪薬を飲んでも飲まなくても、一定の期間(つまり免疫細胞がウイルスを駆除するまで)風邪の症状は続きます。ただ、薬によってやや症状が和らぐだけです。
 その効果もはっきり言って大したことはありません。ある咳止めと民間療法のハチミツの効果を比較したら、ハチミツの方が効果があったという科学的なデータもあります(ただし、1歳未満のお子さんはボツリヌス菌感染のリスクがあるので、ハチミツを飲んではいけません)。そもそも咳とは風邪に対する防御反応なので、弱い咳くらいならば、むしろ出た方がいいという解釈も成り立ちます。
 しかしクリニックを受診すると山のように薬が処方されることがあります。咳に対してオノン、シングレア、キプレス、アイピーディ。でも、これらは咳止めではありません。喘息ぜんそくのアレルギー止めです。貼り薬のホクナリンテープ。これも咳止めではありません。気管支拡張剤です。こうした薬は風邪の咳には何の効果もありません。
 鼻水に対してはペリアクチンやポララミンが処方されます。これらは第一世代抗ヒスタミン剤です。つまりアレルギー止めですね。確かに保険適応ですが、風邪はアレルギーではないので矛盾した処方と言えます。そしてペリアクチンは説明書に「過量投与により(中略)死に至ることがある」と書かれています。さらに本剤は熱性けいれんとの関連が疑われており、眠くなるという副作用もあります。つまり薬が脳の中に入り込んでしまうわけですから、危険度の高い薬と言えます。
 では第二世代の抗ヒスタミン剤(ザジテン、アレジオン、アレロック、アレグラ、ザイザル、ジルテック、セルテクトなど)などであれば眠くならないから安全という意見もあるかもしれません。しかし重ねて言いますが、風邪はアレルギーではありません。さらに第二世代の抗ヒスタミン剤は風邪に対して保険適応はありません。

ではどうするか?

 可能なことは「暖衣・飽食・睡眠・衛生」です。つまり、(冬ならば)暖かくして、よく食、たっぷり寝て、風呂で体をきれいにすることです。当たり前? ええ、ですがこういう当たり前のことが案外できていないんです。集団保育を続ける限り風邪は簡単には治りません。働くママがお子さんの風邪のケアに専念するのは大変ですので、祖父母の力も借りて少しの間お子さんを集団から離して自宅で保育するのも重要です。
 そして3歳未満のお子さんならば、保護者が鼻水を吸引器で何度も吸ってあげてください。3歳以上のお子さんには洟はなのかみ方を教えて一緒に洟かみをやってください。鼻水が出るのは風邪に対する人間の防御反応です。鼻水の中にはウイルスがウヨウヨいます。鼻水は薬ではほとんど止められないし、止めるという発想は正しくありません。出し切ってしまうことが正解です。
 人間には免疫という病気と闘う防御力があります。もちろんあなたのお子さんにもそういった自然のパワーが備わっています。その力を活用してください。そしてパパ、ママには自分が主役になってお子さんの風邪を治したという成功体験を実感してほしいと思います。薬に頼ることより、お子さんの自然治癒力を引き出すことの方がはるかに重要です。


 風邪の症状は、体に侵入した病原体(ウイルスや細菌)を追い出すための免疫反応だからそれを弱める薬は必要ない、という意見は昔からあり、この先生の言うことにも一理あると思います。
 実際に近隣では風邪で受診すると「抗菌薬(抗生物質)」「抗ヒスタミン薬(鼻水止め)」「抗アレルギー薬」など“全部入り”の「かぜ薬セット」が処方される医院もありますし。
 「この薬を処方した医師は、この患者さんのウイルス性風邪をどう考えているんだろう・・・細菌感染?アレルギー?」と聞いてみたくなることもしばしば。
 そういう医院は、大抵「小児科標榜医」といって、もともとの専門が小児科以外の医師が多いですね。
 まあ、「薬をたくさんくれるほどよい医者」という習慣・意識が残っている患者さんには、とってもいい医者に映りますけど。

 この記事のようにかぜ薬が必要ないなら、小児科医も必要なくなるのでは?
 という疑問さえ生まれてきそうです。

 以前、「風邪診療における小児科専門医の存在価値はなにか」と話題になったことがありました。
 一応の結論として「その風邪が、自宅で安静にして治るのを待てばよいのか、薬による治療が必要なのか、を見極める役目」ということになりました(^^;)。

 風邪にもいろんな種類があります。
 冬のRSウイルスやインフルエンザ、春のヒトメタニューモウイルス、パラインフルエンザ・ウイルス、春と秋のライノウイルス、夏のエンテロウイルス、アデノウイルス・・・小児科医は風邪の種類で季節を感じる職業です。
 そして、各々の風邪ウイルスの特徴・経過を知っており、どんな合併症の可能性があるかを、実際に重症患者の診療経験があるので体で知っています。
 つまり小児科医は、その患者さんの風邪の経過が予想できるので、適切なアドバイスが可能なのです。

 さて、かぜ薬の話に戻ります。
 私は診療に漢方薬を導入しています。

 発熱の患者さんに使う薬を考えると、西洋医学と漢方薬の違いがわかりやすいので紹介します。
 西洋医学では解熱剤・・・脳に働きかけて熱を強制的に下げる薬。
 漢方薬では解表剤・・・体を温めて熱を上げて免疫反応を強化することにより風邪を追い出す薬。
 
 いかがでしょう。
 記事の内容に沿った薬は、漢方薬の方ではありませんか?

 一般に、西洋医学の薬はピンポイント攻撃です。
 体のシステムのある部分だけをブロックしたり、病原体をやっつけたり。

 一方の漢方薬は、複数の生薬の集合体で、体がその病態に対応できるよう微調整します。
 病原体が悪さして生じた炎症を抑えてくれます。

 私自身、かぜ気味の時は漢方薬しか飲みません。
 体が楽になります。
 ただし、風邪に用いる漢方薬は20種類を超えるので、「この患者さんにどの漢方薬が合っているか」を見立てるのは医師の役目です。
 患者さんにも広く勧めているのですが、子どもにとって「苦い」という高いハードルがあります(^^;)。
 飲ませ方のコツもアドバイスしています。

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