ある産婦人科医のひとりごと

産婦人科医療のあれこれ。日記など。

母子感染症:性器クラミジア感染症

2010年05月19日 | 周産期医学

[病原体] クラミジアト・ラコマティス(Chlamydia trachomatis)

[疫学] クラミジア・トラコマティスによる性器クラミジア感染症は、わが国の性感染症(STD)の中で最も患者数が多い。

[母子感染の経路] 産道感染

[母体への影響] 妊娠中の性器クラミジア感染は、絨毛膜羊膜炎(CAM)を惹起し、流早産の原因となることもある(頻度はまれ)。

[新生児クラミジア感染症]
(1)新生児 結膜炎
 ・母子感染例の25~50%に発症
 ・生後5~10日に発症

(2) 新生児肺炎
 ・母子感染例の10~20%に発症
 ・生後1~3カ月に発症
 ・発熱せず、咳が主症状
 ・結膜炎を伴うことが多い

[妊娠中の性器クラミジア感染の診断、治療は?]
(産婦人科診療ガイドライン・産科編2011)

1. 母子感染を予防するために子宮頚管のクラミジア検査を行う。(B)
2. 子宮頸管のクラミジア検査法は、同部位の分泌物や擦過検体を用い、核酸増幅法、核酸検出法、EIA法、分離同定法などを行う。(B)
3. 治療には、アジスロマイシン(1000mgx1/日)、もしくはクラリスロマイシン(200mgx2/日、7日間)を用いる。(B)

アジスロマイシン:マクロライド系抗生物質(ジスロマック)
クラリスロマイシン:マクロライド系抗生物質(クラリス、クラリシッド)


母子感染症:B群連鎖球菌(GBS)感染症

2010年05月19日 | 周産期医学

[病原体] B群連鎖球菌(GBS: group B streptococcus)

・ GBSは腟内常在菌であり、全妊婦の10~25%から検出される。

[感染経路] 産道感染

・ GBSを保有した妊婦から生まれた児の50%前後からGBSが分離される。この児のうち大半は不顕性感染にとどまるが、約1%はGBS感染症を発症する。

[新生児] 新生児GBS感染症
(1) 早発型:生後7日以内(多くは出生当日)に発症する
肺炎による呼吸窮迫症候群に似た呼吸困難を呈し、速やかに全身感染を起こして敗血症となり、低体温、無呼吸発作、出血斑などが出現して、20%が死亡して、30%が後遺症を残す。

(2) 遅発型:生後8日以後に発症する
元気がないといった非特異的症状が中心になる。

[母体への影響]
妊娠中は上行性感染により絨毛膜羊膜炎を起こして、早産や前期破水を続発することもある。

[GBS保菌診断と取り扱いは?]
(産婦人科診療ガイドライン・産科編2011)
1. 妊娠33~37週に腟周辺の培養検査を行う。(B)
2. 以下の妊婦には経腟分娩中あるいは前期破水後、ペニシリン系薬剤静注による母児感染予防を行う。(B)
 ・ 前児がGBS感染症(今回のスクリーニング陰性であっても)
 ・ GBS陽性妊婦(破水/陣痛のない予定帝王切開中の予防は必要ない)
 ・ GBS保菌状態について不明の妊婦
3. GBS陽性妊婦やGBS保菌不明妊婦が前期破水した場合(主に早産期)、GBS除菌に必要な抗菌剤投与期間は3日間と認識する。

[妊娠中のGBS除菌について]
(産婦人科診療ガイドライン・産科編2011)
 培養検査施行時期については33~37週を推奨した。妊娠初期、中期にはGBS検出を目的とした培養検査を行う必要はない。 もし、妊娠中に偶然GBS保菌が判明した場合であっても妊娠中の除菌(抗菌剤による)は必要なく、分娩中にのみ抗菌剤を投与する。しかし、妊娠中の除菌を制限するものではない。場合によっては妊娠中に除菌しても差し支えない。ただし、妊娠中に除菌した場合でも、分娩中の抗菌剤投与を省略するためには33~37週時に再度培養検査を行い、GBS陰性を確認する必要がある。したがって、妊娠初期・中期に腟・肛門部から一度でもGBSが検出された場合はGBS陽性として扱うことが現実的である。ただし、妊娠末期に再度培養を行い陰性が確認された場合は陰性として扱う。