ある産婦人科医のひとりごと

産婦人科医療のあれこれ。日記など。

多胎妊娠

2010年05月15日 | 周産期医学

Multiple Pregnancy

[定義] 子宮内に複数の胎児が存在する状態をいう。

2児の場合:双胎(twins)
3児の場合:三胎または品胎(triplets)
4児の場合:四胎または要胎(quadruplets)
5児の場合:五胎または周胎(quintuplets)

わが国における多胎妊娠が起こる頻度は胎児数をnとすると
1/100n-1~1/120n-1とされる。

[疫学] 日本では諸外国と比べて多胎妊娠の頻度は少ない。最近の双胎の出生数は全出生数の1.8%を占める。

最近、日本の多胎妊娠の頻度は増加している。移植胚数制限により、四胎、五胎の妊娠例は減少してきたが、双胎、品胎は依然として増加傾向にある。

[誘因] 排卵誘発、体外受精胚移植(IVF-ET) 

多胎妊娠率:hMG-hCG療法は20~30%、クロミフェン療法は4~8%、IVF-ETは10%である。 

※体外受精の結果発生する双胎のほとんどは二卵性である。近年の不妊治療の進歩とともに、二卵性双胎の頻度が上昇している。

[卵性による双胎の分類]
①一卵性双胎(monozygotic twins)
・ 1つの卵細胞が1つの精子と受精した後に2個の胎芽に分割し、それぞれが1個体として発育するものを一卵性双胎という。

・ 頻度:0.4%(人種、遺伝要素などにかかわらずほぼ一定)

・ 膜性診断:一絨毛膜双胎(MMまたはMD)または二絨毛膜双胎(DD)

②二卵性双胎(dizygotic twins)
・ 同時に2つの卵細胞が排卵され、別々に受精・着床し、発育したものを二卵性双胎という。

・二卵性双胎の頻度:人種や遺伝要素などに関係しており、黒色人種、白色人種、黄色人種の順に多いといわれる。母体の年齢とともに増加する傾向がある。わが国における二卵性双胎の自然頻度は、0.2~0.3%と推測されている。 近年の不妊治療の進歩とともに、二卵性双胎の頻度が上昇している。

・ 膜性診断:二絨毛膜双胎(DD)

[膜性による双胎の分類]
1.一卵性双胎
①二絨毛膜二羊膜双胎
 (DD: dichorionic diamniotic twins)
 受精後3日以内に分離(25~30%)

②一絨毛膜二羊膜双胎
 (MD: monochorionic diamniotic twins)
 受精後4~7日に分離(70~75%)

③一絨毛膜一羊膜双胎
 (MM: monochorionic monoamniotic twins)
 受精後8日以降に分離(1~2%)

・ 一絨毛膜双胎では1つの胎盤を両児で共有するため、胎盤の吻合血管により血流不均衡を生じ、約15%に双胎間輸血症候群を発症する。

・ MM双胎は、臍帯相互卷絡による血行障害が多いため予後は極めて悪い。以前は約50%以上の周産期死亡率であったが、近年では、より正確な画像診断や新生児管理の向上により20%前後まで改善されている。

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2.二卵性双胎
 二絨毛膜二羊膜双胎(DD双胎)

※ 一般に二卵性双胎はDD双胎となるが、近年では二卵性の一絨毛膜双胎例も報告されている。

[超音波検査による膜性診断]
 多胎妊娠管理のためには、膜性診断がきわめて重要であり、妊娠初期に十分に観察する必要がある。妊娠7 週以前では、羊膜が見づらく、妊娠週数が進むと絨毛膜が相対的に薄くなるとともに、別々だった羊膜が重なり合うために膜性診断が困難となる。妊娠10 週前後に経腟超音波検査にて膜性診断を行う。

胎嚢が2つでそれぞれの中に胎児と卵黄嚢が1つ確認されれば、二絨毛膜双胎であり、胎嚢が1つでその中に胎児が2つ確認されれば一絨毛膜双胎である。一絨毛膜双胎の中で、卵黄嚢が1つ確認されればMM双胎、2つ確認されればMD双胎である。

①二絨毛膜二羊膜双胎(DD双胎) 

二卵性のすべてと一 卵性の約30%が二絨毛膜二羊膜双胎となる.胎児(芽)はそれぞれ別々の薄い羊膜で取り囲まれ、二つの羊膜はそれよりも厚い隔壁(絨毛膜)で分けられている。子宮壁に接して隔膜の起始部が三角形になる(ラムダサイン、twin peak sign).妊娠が進むと隔壁となっている絨毛膜が薄くなり、胎児の成長とともに羊膜が重なり合うため、一絨毛膜二羊膜双胎との鑑別が困難になる。

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Twinpeak

②一絨毛膜二羊膜双胎(MD双胎) 

二つの胎児(芽)が一つの絨毛膜の中にあり、胎児ひとつひとつは羊膜で包まれている.超音波像としては一つのGS の中に胎児が二つあるように見え,卵黄嚢もそれぞれ確認できる。よく観察して羊膜を確認する必要がある。双胎間輸血症候群を発症しやすい。

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③一絨毛膜一羊膜双胎(MM双胎)

一つの絨毛膜・羊膜の中に二つの胎児(芽)が存在する場合で、隔壁となる羊膜は認められない。卵黄嚢も一つである。全双胎の約1%と頻度は少ないが、子宮内胎児死亡や結合体となることがあるので注意を要する。

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[双胎妊娠の合併症]
(1) 母体合併症
 ①流産
 ②早産
 ③母体貧血
 ④妊娠高血圧症候群
 ⑤羊水過多症
 ⑥微弱陣痛
 ⑦弛緩出血

(2) 胎児合併症
 ①双胎間輸血症候群(羊水過多症、羊水過少症)
 ②双胎一児死亡
 ③胎位異常:懸鉤(けんこう)など
 ④胎児奇形
 ⑤子宮内胎児発育遅延(IUGR)

[双胎妊娠の管理]
・ 多胎妊娠では、単胎妊娠と比べて周産期死亡率が高く、母体や胎児の合併症が多いため、妊娠・分娩の管理が重要となってくる。

・ 一絨毛膜双胎では、重篤な合併症がおこることが多く、厳重な管理が必要となる。一絨毛膜双胎の中でもMM双胎は、二絨毛膜双胎に比べて特に厳重な管理が必要である。

管理入院 (通常は妊娠28週頃より必要に応じて)
・ 栄養摂取:単胎妊娠+300kcl/日
・ 切迫早産徴候があれば子宮収縮抑制剤を投与
・ 妊娠高血圧症候群の予防と治療

[双胎妊娠における分娩方法の選択] 
どちらか一児でも、明らかなIUGR や胎児心拍パターン異常などがある場合には帝王切開となる。両児ともにwell─being を確認できている場合は、胎位の組み合わせ、推定体重および在胎週数に応じて、分娩様式を検討する。

1)膜性
一 絨毛膜一羊膜双胎(MM双胎)では、臍帯相互巻絡によるリスクから帝王切開を選択する.。

2)在胎週数と推定体重 
各施設のNICU の有無や新生児管理の状況により異なるため、一定の基準はない。1500 g 以上、32週以上では分娩様式による周産期死亡率および合併症に差は認めなかったと報告された。

3)胎位の組み合わせ 
①頭位─頭位、②頭位─非頭位、③非頭位─頭位、④非頭位─非頭位がある。  

分娩様式の基準は施設によって異なるが、頭位─頭位の場合は経腟分娩が選択され、先進児が非頭位の場合は帝王切開が勧められている。  

新生児仮死に関連する周産期死亡率および合併症は、「経腟分娩群」および「第2子帝王切開群」では、「両児とも帝王切開群」に比較して増加するとの報告がある。  

頭位─非頭位の経腟分娩では、第1子娩出後の第2子緊急帝王切開発生リスクは23% と、頭位─頭位での第2子緊急帝王切開発生リスク約7%に比較して高率となるため、経腟分娩を施行するにあたっては迅速に帝王切開が行える状況下で分娩を管理する。

非頭位─頭位で経腟分娩を試行した場合、両児の顎が互いにロックすることで分娩が進行できない状態(懸鉤)となることがある。

※ 三胎以上の多胎妊娠では、低出生体重児や胎位異常が多いため、帝王切開で児を娩出することが多い。

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懸鉤(interlocking):
分娩時に双胎が互いにからみあって骨盤腔に侵入して、分娩が停止したもの。第1児が骨盤位の時に起こりやすく、MM双胎に多いとされる。懸鉤がみられたら、すみやかに帝王切開を行う。

Interlocking

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双胎間輸血症候群(TTTS)
twin-to ?twin transfusion syndrome

[定義] TTTSとは、一児から他児へ何らかの原因により血液が移行し、供血児(donor)では循環血液量減少、尿量減少、羊水過少をきたす腎不全型を示し、受血児(recipient)では循環血液量増加、尿量増加、羊水過多をきたす心不全型を示す症候群である。

・ 供血児は狭い空間に押し込められて、stuck twinになる。これを、twin oligoamniosis polyaminiosis sequence (TOPS)ということもある。

・ TTTSはMD双胎やMM双胎で、胎盤の深いところに動脈-静脈吻合を生じた場合に発生しやすい。

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[診断] 羊水過多児、過少児の最大羊水深度がそれぞれ≧8cm、≦2cmで、同時にみられた場合に診断する。

[頻度] 胎盤を両児で共有している一絨毛膜双胎の約15%にみられる。

[予後]
・ 周産期死亡率は60~100%におよぶ。
・ 受血児は循環血液量の増加により心拡大を起こし、うっ血性心不全となる。悪化すると胎児水腫となる。また、尿量の増加によって羊水過多となる。
・ 供血児は循環血液量の減少からIUGRとなる(stuck twin)。また、尿量減少によって羊水過少となる。
・ 受血児、供血児ともに胎児機能不全に陥り、子宮内胎児死亡となることがある。

[治療]
(1)体外生活が可能な時期(妊娠26週以降)であれば娩出後に新生児治療を行う。

(2)妊娠26週未満の治療法
①反復羊水穿刺:
 子宮内圧の減圧により妊娠期間を延長し児の生存率を改善する。

②母体ジギタリス投与:
 羊水過多症の治療

③選択的胎児穿刺(胎児減数手術):
 クリアーしなければならない倫理的な問題点を多く含んでいる。

胎児鏡下胎盤吻合血管レーザー凝固術
 (FLP: fetoscopic laser photocoagulation)
・ 妊娠中期(妊娠26週未満)に本症と診断された場合、FLPの適応となる場合がある。
・ FLPは、TTTSにおいて供血児と受血児との間の胎盤吻合血管をYAGレーザーにより凝固・遮断させる方法である。
・ TTTSの原因と考えられている吻合血管を遮断することで、両児間の血流不均衡を是正できる根治療法で、近年注目されている。
・ 胎盤吻合血管が胎盤の深い位置にあることなどから、治療は極めて困難である。

※ 本邦でのFLPは、現在、Japan Fetoscopy Group(JFG)に所属する7施設(北海道大学、宮城県立こども病院、国立成育医療センター、聖隷浜松病院、国立長良医療センター、大阪府立母子医療センター、徳山中央病院)にて行われている。

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双胎における流早産、周産期死亡率

・ 平均妊娠持続期間は、単胎で39週、双胎で35.1週、三胎で32.7週、四胎で28.7週と、多胎妊娠では早産となることが多い。

・ 周産期死亡率(出産1000対)は、単胎で5.9、双胎で75.0、三胎で75.4、四胎で102.9である。

・ DD双胎に比較して、一絨毛膜双胎では周産期死亡率が5倍高いとされている。

・ MM双胎では50%に臍帯の相互卷絡が起こるため、MD双胎に比較して周産期死亡率が高い。

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双胎一児死亡

・ 胎盤循環が完成した妊娠中期以降に、一絨毛膜双胎の一児に子宮内胎児死亡を生じた場合、他方の児が脳障害きたしたり死亡したりすることがある

・ 胎盤を共有しない二絨毛膜双胎の場合、双胎一児死亡が起きても生児への影響はほとんどない。

・ 妊娠初期に双胎一児死亡が生じた場合、死亡児は消滅してしまうことが多く、これをvanishing twinという。

・ 妊娠中期以降では、まれに死亡児がミイラ化して紙様児(fetus papyraceus)となり、分娩時まで残存することがある。

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不均衡双胎(discordant twins)

・ 一般に、双胎で児の体重差が大きい児の25%以上を呈した場合、discordant twinと診断される。
・ 胎盤内の血管吻合を介する血流移行が成因と一般的には理解されやすいが、出生した児のヘマトクリット値も、大きい児が必ずしも多血症で小さい児が貧血とは限らない。胎盤内血管吻合のない二絨毛膜二羊膜性双胎でもdiscordant twinは起こりえる。
・ concordant twinと比較してdiscordant twinでは、羊水過多症、前期破水、早産、帝王切開分娩が高率に合併する。

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stuck twin現象

[定義] 二羊膜双胎に認められる現象で、一児は非常に重症な羊水過少の腔内で子宮壁に接して存在し胎動も制限され、他児は重症の羊水過多の腔内に存在する。

[頻度] 双胎の8%に合併し、一絨毛膜二羊膜双胎の35%に出現する。大部分は双胎間輸血症候群(TTTS)に合併している。

[予後] 本現象は両児にとって危険な現象であり、特に小さい方の胎児の生存率は20%以下である。

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無心体双胎(acardius anceps)

・ 無心体双胎は1絨毛膜双胎において一児の心臓が欠如(もしくは痕跡心臓)しているが,吻合血管(動脈~動脈吻合)により健常児からの血流で無心体が栄養されている状態である。1絨毛膜双胎の1%もしくは35000分娩に1例とまれな疾患である。

・ 無心体双胎は、無心体児が健常児から供給される血流で生存するため、健常児に心負荷がかかり、羊水過多、胎児水腫をきたす予後不良な疾患である。

・ 妊娠初期に1絨毛膜双胎の一児死亡と診断されていた児に発育が認められるときは、無心体双胎を疑い精査することが大切である。

・ 血流ドプラ検査にて無心胎児の臍帯動脈血流が通常とは逆行性に(胎盤から無心体への拍動する血流)存在することが確認されると診断できる。

・ 治療法としては、無心体児の臍帯血流遮断術が行なわれる。侵襲度の低い方法として超音波ガイド下ラジオ波凝固術がある。(実施施設:国立成育医療研究センター周産期診療部など)