rubella
[病原体] 風疹ウイルス(rubella virus)
[感染経路]
・ 母体感染は飛沫感染、胎児感染は経胎盤感染がほとんどである。
・ 妊娠12週未満は胎児の器官形成期に相当する。この時期に母体が風疹ウイルスに感染すると、80~90%の確率で胎児に感染し、そのちの90%以上に典型的なCRSの症状をもたらす。
・ 妊娠18週以降では母体が風疹ウイルスに感染しても、胎児感染率は40%程度に減少し、CRSを発症することはほとんどない。
・ 感染した妊婦の症状は、一般に小児より重症で、発熱、発疹、リンパ節腫脹(3主徴)を呈する。しかし、臨床症状をほとんど示さない場合もある(10~15%)、CRS児を産んだ母体の約15%が不顕性感染であると言われる。
[新生児]
先天性風疹症候群(CRS: congenital rubella syndrome)
CRS の三大症状は、先天性心疾患、難聴、白内障である。この内、先天性心疾患と白内障は妊娠初期3 ヶ月以内の母親の感染で発生するが、難聴は初期3 ヶ月のみならず、次の3 ヶ月の感染でも出現する。そして、高度難聴であることが多い。三大症状以外には、網膜症、肝脾腫、血小板減少、糖尿病、発育遅滞、精神発達遅滞、小眼球など多岐に亘る。
(1) 新生児期一過性症状: 血小板減少症、肝脾腫、肝炎、溶血性貧血、大泉門膨隆
(2) 永久的障害: 眼症状(白内障、網膜症)、心疾患(動脈管開存、肺動脈狭窄)、難聴
(3) 遅発性障害: 糖尿病、退行性脳疾患
[診断]
(1) 妊娠初期スクリーニング検査:風疹HI抗体価
・ HI抗体価はIgM、IgG、IgAの総和を表す。
・ HI抗体価は年々徐々に低下するため、抗体測定歴やワクチン接種歴がある妊婦に対しても、妊婦健診にて抗体価を測定することが重要である。
・ HI抗体価が16倍以下であれば、現在、風疹に感染してないが、今後、風疹に感染し母子感染が生じる可能性がある。出産後早期のワクチン接種を勧める。
・ HI抗体価が32倍~128倍の場合、児のCRS発症の可能性は低い。
・ HI抗体価が256倍以上の場合、風疹に感染し母子感染が生じた可能性がある。風疹診断検査を受けることを勧める。
(2) 風疹HI抗体価≧256倍の場合、ペア血清にて、HI抗体価、風疹特異的IgM抗体価を測定する。
・ HI抗体は、発症後4~6週間でピークを迎え、その後は徐々に低下する。
・ IgM抗体は、初感染後4日間で全例陽性となり、1~2週間でピークを迎え、数か月で陰性化する。
・ ペア血清(初回の血清と2回目の血清)のHI抗体価とIgM抗体を比較して、風疹感染の評価を行う。初回血清と比較してHI抗体価が4倍以上に上昇し、IgM抗体が陽性であれば、風疹現感染と評価し、CRSの可能性がある。
(3) 胎児感染の診断:
胎児由来細胞(絨毛、羊水、臍帯血)から風疹ウイルス遺伝子を検出する。
[風疹・CRSの予防]
・ 妊娠中、風疹ウイルスに初感染すると、胎児への感染、CRS発症を防ぐ有効な手段はない。
・ 本症に対する有効な手段は、妊娠前に風疹抗体価を測定し、免疫がない場合、風疹ワクチンを接種するという感染予防のみである。
※ 一般に妊娠中の生ワクチン接種は禁忌であると言われているが、米国のデータでは児への感染は認められない。
[CRSの治療]
CRS それ自体の治療法はない。心疾患に関しては、軽度であれば自然治癒することもあるが、手術が可能になった時点で手術する。白内障についても手術可能になった時点で、濁り部分を摘出して視力を回復する。摘出後、人工水晶体を使用することもある。いずれにしても、遠近調節に困難が伴う。難聴については聴覚障害児教育を行う。