ある産婦人科医のひとりごと

産婦人科医療のあれこれ。日記など。

前置胎盤

2010年04月15日 | 周産期医学

placenta previa

[定義] 前置胎盤とは、「胎盤の一部または大部分が子宮下部(子宮峡)に付着し、内子宮口におよぶものをいう。内子宮口にかかる程度により、全・一部・辺縁の3種類に分類する。これは子宮口開大度とは無関係に診断の時点で決め、検査を反復した場合は最終診断による。なお、低置胎盤は含まない」と定義されている。
(日本産科婦人科学会用語委員会)

[発生頻度] 全分娩の0.5~1.0%とされる。
経産回数が多いほど発生率が高い。

[リスク因子]
①子宮内膜に炎症、瘢痕化などの損傷が生じ、子宮体部に着床できない:  帝王切開の既往、人工妊娠中絶や子宮筋腫核出術の既往、経産婦(特に多産婦)

②胎盤面積が広い: 多胎妊娠、胎盤形態異常。

③その他:  喫煙妊婦、高年妊娠、前置胎盤の既往。

[症状]
①初回の出血(警告出血:alarm bleeding)は突発的で少量である。妊娠34週で最も多い。

②無痛性子宮出血を繰り返す。(ときに陣痛様の下腹部痛を認めることもある。)

③大量の外出血をきたす。⇒緊急帝王切開

[診断] 無痛性の出血があればまず前置胎盤を疑い超音波検査を施行する。胎盤が内子宮口に達するか、これを覆っていれば前置胎盤と診断する。確定診断には経腟超音波を用いることが望ましい。

前置胎盤の疑いがあれば内診は禁忌である。

妊娠前半期には前置胎盤と診断することはできない。前置胎盤の診断時期は、子宮峡部が子宮腔の一部になる妊娠22週以降にすべきであるとされている。妊娠30週以降に前置胎盤と診断された症例では最終診断も変わらないことが多い。前置胎盤は妊娠32週頃までに診断しておくことが望ましい。

[前置胎盤の超音波診断]

Plapre1
(日本産婦人科医会・研修ノートNo.76より)

Plapre2
(日本産婦人科医会・研修ノートNo.76より)

[合併症]
①胎位異常、②癒着胎盤、③治療的早産
(羊水過多は合併しない)

[予後]
①母体予後
1) 前置胎盤の帝王切開では、術中・術後の出血量が多い。
2) 癒着前置胎盤は術中に止血困難な多量出血をきたすため、母体が最も危険な状態にいたる。この場合、子宮摘出を躊躇してはいけない。

②児の予後
多量出血により早期に帝王切開になることがある。このため早産児、低出生体重児、新生児仮死が多い。

[妊娠管理・治療]
①入院・安静
28~30週以降は出血がなくても入院管理とする。

②対症療法
1) 子宮収縮抑制剤投与:
 妊娠34~35週までは子宮収縮抑制を行う。
2) 感染徴候があれば、抗菌剤の投与を行う。
3) 出血が少量で、妊娠34週未満であれば入院管理(安静・止血剤投与)とするが、多量出血や胎児機能不全が発生すれば、ただちに帝王切開とする。妊娠36週以降であれば、ただちに帝王切開とする。
4) 胎児が成熟したら、帝王切開分娩とする。帝王切開の時期は可能な限り妊娠37週を目標とする。
5) 分娩時に本症と診断された場合はただちに帝王切開とする。

[前置胎盤症例の帝王切開] 
前置胎盤症例の予定帝王切開は、輸血(自己血あるいは同種血)ができる体制を整えて行う。術中に出血コントロールが困難な場合には子宮摘出も考慮する。

帝王切開既往回数が0回、1回、2回、3回、4回以上である前置胎盤患者の癒着胎盤合併率はそれぞれ、1~5%、14%、23%、35%、50%と報告されている。

現時点では、帝王切開既往患者が前置胎盤を合併した場合、癒着胎盤の存在を想定して管理・分娩にあたることが重要であろう。

参照記事:

前置胎盤、問題と解答

癒着胎盤