ある産婦人科医のひとりごと

産婦人科医療のあれこれ。日記など。

流産

2010年04月04日 | 周産期医学

abortion

[定義] 流産とは「妊娠22週未満の妊娠中絶」と定義される。

[頻度] 自然流産の発生頻度は約15%とされ、その多くが妊娠12週未満に発生する。母体の加齢に伴い頻度が高くなり、40歳以上での妊娠では約25%に生じるとされる。

[発症時期による分類]
①早期流産(妊娠12週未満)
自然流産の90%以上を占める。原因の50~60%は染色体異常である。

②後期流産(妊娠12週以後~妊娠22週未満)
絨毛膜羊膜炎、子宮奇形、子宮筋腫、子宮頸管無力症などの母体側の異常によって生じることが多い。死産として扱われる。

[臨床分類]
①切迫流産(threatened abortion)
[定義]少量の出血や下腹部痛を伴う流産への移行状態であるが、頸管が未開大で、超音波検査で胎芽(胎児)、胎児心拍が認められ、正常妊娠への回復が可能な状態である。絨毛膜下血腫が認められることもある。
[治療](1) 安静、臥床。
 (2) 妊娠16週以後で子宮収縮を認める場合、子宮収縮抑制剤(塩酸リトドリン)を投与する。

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(日本産婦人科医会研修ノートNo.74)

②進行流産(inevitable abortion)
[定義]流産が開始し、陣痛様下腹痛、出血が強く、子宮頸管が開大して、保存的治療の対象にならない状態。
[治療]妊娠継続は不可能であるため、子宮内容除去術(D&C)を行う。完全流産であれば治療は不要である。

③完全流産(complete abortion)
[定義]胎芽あるいは胎児とその付属物が完全に子宮外に排出された状態。超音波検査で胎嚢の消失を認める。
[治療]自然に子宮収縮が起こり復古が進むので治療は不要である。

④不全流産(incomplete abortion)
[定義]胎芽あるいは胎児と付属物が完全に排出されず、一部が子宮内に残存している状態。出血、下腹部痛が持続する。
[治療]子宮内容除去術。子宮内容物が自然に排出されるのを待つ待機療法が行われる場合もある。

⑤稽留流産(missed abortion)
[定義]妊娠22週未満に胎芽あるいは胎児が死亡後、症状がなく子宮内に停滞している状態。
 稽留流産のうち、胎嚢が25mm以上に大きくなっても、胎児心拍を認めず、1週間後の超音波検査でも胎嚢の発育を認めないものを枯死卵(blighted ovum)という。
[治療]子宮内容除去術。

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(日本産婦人科医会研修ノートNo.74)

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(日本産婦人科医会研修ノートNo.74)

⑥化学流産(chemical abortion)
[定義]尿中hCG測定などで妊娠と診断されながらも、超音波検査にて胎嚢が確認される時期より前に流産(月経様出血)になってしまうもの。
 近年、市販の妊娠検査薬の感度が非常に高くなり、従来は「流産」として意識されなかったものまで「流産」として認識されるようになった。化学流産は、特に妊娠を気にしている不妊患者が気付くことが多い。

⑦感染流産(infectious abortion)
[定義]流産経過中に子宮内感染が生じた状態。この状態を放置すれば、敗血症、DICなどの重篤な合併症を引き起こすため、早急に治療が必要となる。
[治療]抗菌剤投与、子宮内容除去術。

◎死胎児症候群 dead fetus syndrome:
 稽留流産や双胎一児死亡などの場合、死亡児から分泌される組織因子が母体内に流入、血液凝固が亢進し、その結果、母体にDICを引き起こすことがある。これを死胎児症候群という。