じつはオーダーシャツを作るのは2枚目で、
一枚目にまつわるお話。
クリーニング屋のお話を読んで、
数年前に、一度だけ行ったお店を思い出しました。
近所にクリーニング屋がなくて、
同僚に会社の近所のお店を聞いて、
ためてしまったクリーニング物を持って行ったのです。
ラブホの向かいの小さな店で、
でっぷり太ったカウンターのおばちゃんが、
ぼんやりとたばこをふかしていました。
クリーニング屋でたばこ?
背中にかかった仕上がりものは、妙に派手な色艶で、
なにせフー族で有名な街だったので、さもありなん。
「ちょっとみためはあやしいけど」
と、同僚。
「仕上がりは悪くないですよ」
紙袋にまるめたシャツを数枚。
そのなかに、一枚だけ、オーダーシャツが混ざっていました。
たばこを灰皿にとまらせて、まるで興味なさそうに、
丸めたシャツをいちまい、にまい…
淡いピンクのシャツに手が触れた瞬間、
ぽつりと小さな声で、
「あら立派」
…ちょっと鳥肌立っちゃいました。
広げたわけでも、ためつすがめたわけでもないのに、
いったい何がわかったんだろう。
首のうしろが痺れた気持ちで、受け取りをもらいました。
数日後、仕上がりを取りに行くと、
おんなじようにたばこをふかして、
けれど前よりも、さらにぼうっとしたおばちゃんが。
あいからず興味なさそうに、
束ねたシャツをフックで寄せて、お会計して、
こっちはなんだか、すっかり次も頼む気持ちで、
「ここ、休みはいつですか?」
と聞いたのです。
「ああ、うちねぇ。きょうで最後なの」
「え?」
「受け取りがあるからね、あと一週間くらいは開けるけど、
預かりはきょうで最後」
「…」
なにか呆然としたカンジで、仕上がったシャツを抱えて帰りました。
ほんとにあった、ほんとうのお話。
小説のプロットみたい。
あ、コメント受け付けてる実直さに好感持ってます。