武道・禅の心で臨床を読み解く(武道、禅、心理療法、ボディワークを学ぶ理学療法士)

21年間の運動指導・700冊の書籍からリハビリ・トレーニングを読み解きます。
良書の書評、稽古・訓練方法、研修報告など

基礎運動学の変遷と心理学

2010年07月23日 | 心理・催眠療法
PT・OTの教科書として使われている基礎運動学。

皆さんは「序」を読んでみたことありますか?私はかなり多読してますが、必ず作者の意気込みが書かれている「序」や「はじめに」に目を通すようにしています。

なんと、基礎運動学は親切にも初版から第6版まで全ての「序」が載っています。


かいつまんで解説してみるとこんな感じです。

第1版(S51年)「運動学の歴史、力学的基礎知識、運動器官、中枢神経に関する知見を明解な図解でわかりやすく…」と物理、筋肉と骨そして脳といかにも古典的なPT・OTという感じの内容です。ストレッチや筋トレで多くを語ってしまう現状のセラピーの下地となっています。私の出身校の超ベテラン先生(現在は退官されてます)も「PTは筋の起始と停止を覚えたら7割はできたようなもんだ」と名言をおっしゃっていました。この当時はきっとそうだったんでしょう。勿論、これらは今でも基礎としてとっても大事な要素です。


第3版(S62年)ようやく運動学習が心理学分野から導入される。大半はシュミットの「運動学習とパフォーマンス」によるもののようです。私も大学院時代はシュミットの理論が主流でした。フィード・バックフィード・フォーワード理論などです。


第4版(H3年);「高齢化社会」、「フィットネス」、「運動処方」というキーワードが盛り込まれる。成人病(今で言う生活習慣病)の増加や高齢化しつつある日本の時代を反映しています。

第5版「運動学習では、心理学からのアプローチを主体とした記述が多くなる。この領域は神経科学あるいは脳科学によって説明できる段階に至っていないと思う….。」と心理学や神経科学あるいは脳科学への介入にはこの時点ではとても消極的です。

そして、最新版である第6版では
「運動学習を理解するためのモデルには、反射階層理論、システムモデル、生態心理学やコネクショニストのモデルなどが複数の領域から提出されている。(中略)姿勢や動作制御に関わる神経機構にも新たな仮説が導入され、感覚-運動過程を中枢神経系における情報処理というメタファーで説明することが盛んに行われている。」

と一気に様々な理論・モデルへの移行を宣言しています。ようやく踏ん切りがついた感じです。

皆さん、「メタファー」って聞いたことあります?コネクショニストは?

教科書である基礎運動学ですら心理学など様々なものを取り入れ始めています。筋トレ(ファシリテーションも含む)・ストレッチ(モビライゼーションや筋膜リリースも含む)からのパラダイム・シフトはもう始まっているんですね。

ちなみに私は3年前までメタファーもコネクショニストも知りませんでした。教育現場でも戸惑いはあるようです。現場のPT・OTになかなか新しい概念が浸透しないのは仕方ないのかもしれません。

そんなこんなで、この3年間は様々な心理学(特に知覚心理学、臨床心理学)に大分傾倒しています。始めはとまどいばかりでしたが、少し頑張るととても楽しい世界です。

患者さんの治療にとても役立ちます。そして自分を知る為にも。

このブログを見てる方もこれを機に、武道や心理学の世界へ船出してもらえると嬉しいです。

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2 コメント

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こんにちは (tama)
2010-07-26 22:48:31
ブログ、いつも興味深く見させていただいています。
ワタシも先日、基礎運動学の序の部分に「メタファー」の言葉を見つけて少し驚きました。
5年の臨床経験で、PTの世界に心理学の分野はとても重要だと感じ少しずつ勉強していますが、臨床でも教育でも、この分野については消極的だなぁと感じます。
今の職場に、体育の科学という雑誌があって読む機会が多いのですが、PTの世界で最近注目されてきたことや、注目されるべきことが10年前の文献に書かれているのを見ると、PTとしてかなり出遅れている感がある今日この頃です。
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ありがとうございます (武道PT)
2010-08-16 18:14:52
 コメントありがとうございます。

 気付いている人は、とっくに気付いているのですがPT全体として更には世の中全体があまり心身一如という考え方になっていないようです。体育の世界でもいまだに筋トレ・ストレッチの呪縛から逃れられた人は少ないようです。
 まだまだ修行が足りない私ですが、少しでもtamaさんの参考になれば幸いです。今後ともよろしくお願い致します。
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